ライフのコツ
2019.08.01
女性に優しいオーストラリアの職場環境とは
共働き世帯を支える充実の制度と男性の育児参加が鍵
今、日本では少子高齢化による生産年齢人口の減少が大きな課題となっています。また、育児や介護との両立など、働く人々のニーズは多様化しており、より多くの人が働きやすい社会を目指して、2019年4月から働き方改革法が施行されました。しかし、一口に「働き方改革」といっても、実際には何をどう変えていけばいいのかわからず、とまどっている企業も数多くあります。
そこで、世界のさまざまな国の働き方に目を向け、その国の社会問題やその課題への対応策、現場のリアルな働き方などをご紹介する連載をスタートします。第1回目は、女性が社会的な戦力として活躍するオーストラリアの現状です。
- 充実した制度がカギ!
女性の急速な戦力化の背景とは? - オーストラリアは建国からの歴史が浅く、人口も約2,500万人と少ないため人口増加を含む国力の増進を目指しています。移民の受け入れにも積極的で、特に近年は豊富な経験やスキルをもった移民を多く受け入れるようになってきています。
そうした状況の中で、女性も働き手として重要な戦力と考えられています。そのため、現在では、結婚や妊娠を理由に仕事を辞める女性は、ほとんどいません。子どもが小さいうちはいったんキャリアを中断するというケースもありますが、いずれは社会復帰するのが当然という意識が浸透しています。 - 共働き世帯への法的支援制度も充実しています。日本の労働基準法にあたるフェアワーク法では、1週間の労働時間は38時間と定められています。雇用の際には、雇用主側がジョブ・ディスクリプションと呼ばれる業務内容書を提示し、明記されていない業務をする必要はありません。従業員それぞれの業務が明確になっているので、自己管理しやすく無駄のない勤務体制が整っていて、残業もあまりありません。
雇用主が求めるのは、業務内容に沿った仕事をきっちりこなすということのみなので、就業時間をフレックスにする会社も非常に多くなっています。最近ではデジタル化の流れに伴い、在宅ワークを許可する会社も増加し、ますます働きやすい環境となっています。 - 休暇に関しても、4週間の年次有給休暇が定められており、さらに年休を取得するごとに基本給の17.5%が支払われる休暇ボーナス制度を導入している企業もあります。つまり「休んだほうがたくさん給料をもらえる」という驚きの制度で、有休消化率も非常に高く、多くの人が長期間の休暇を利用して旅行や帰省を楽しんでいます。
この4週間の年休に加え、二親等までの親族の看護を含む有給の病欠も年10日間認められています。自分が病気の際はもちろん、親の看護や子どもの体調不良などでも「病欠」扱いになるので、だれもが気兼ねなく休むことができます。
こうした制度の後押しもあり、豪株式市場に上場している大手会社幹部役員に占める女性の割合は、2009年時点では全体の8.3%でしたが、2018年には26.2%にまで上昇。過去10年間で飛躍的に伸びています。
- 最大で85%!
高騰する保育料を補助する制度を導入 - 出産や育児を支援する制度も整っています。継続して1年間働けば、1年間(会社との交渉により2年間まで延長可能)の産休・育休制度を利用することができ、最初の12週間は政府が最低賃金(金額は職業ごとに異なる)を補償してくれます。
転職しながらステップアップするのが当たり前のオーストラリアでは、産休や育休を取ったあと、復職せずに別の会社に転職するというケースも珍しくありません。また、育休中に通信教育や大学、職業訓練校などで勉強する女性も非常に多く、女性のキャリア志向の高さが伺えます。 - 育休後は子どもを保育所などに預けて働くのが一般的ですが、2000年のシドニーオリンピックあたりから物価が急上昇し、保育料も高騰。都市部の保育料は1日当たり100~160オーストラリアドル(約7,500~12,000円)が相場となっており、収入が低いと赤字になってしまうというのがワーキングマザーの大きな悩みとなっていました。一日の勤務時間が短いパートタイムワーカーや給与の低いフルタイムワーカーの中には、子どもがプリスクール(日本でいう幼稚園)に通い始める3~4歳頃まで社会復帰を見送るという女性も少なくありませんでした。
そこで、貴重な戦力を逃さないためにも、政府は2018年7月に保育サービス補助金制度を改定。13歳までの保育料について、世帯の総収入に応じて最大85%の補助が受けられるようになりました。始まったばかりの制度のため、改定後の実際の変化を示す統計結果はまだ発表されていませんが、産休取得後の職場復帰率は確実に上がると見込まれています。 - また、2001年に過去最低の1.74となった出生率を上げるため、豪政府は2004年からベビーボーナス支給(現在は5000オーストラリアドル)の施策を講じ、2008年には2.02まで上昇。着実に成果を上げています。
人口増加については、スキルや技術のある移民の積極的な受け入れも功を奏し、2018年に2500万人を達成。過去20年間で約33%も上昇しました。
- 育児も家事も
夫婦で上手にシェア - 子育て世帯を支援するこうした制度の後押しもあり、オーストラリアでは男性も積極的に育児や家事に参加しています。「自分の子どもなのだから、世話をするのは当たり前」という意識があり、男性の育児休暇取得率も非常に高く、妻の産後2~3週間は仕事を休んでサポートするという男性がほとんどです。
また、オーストラリアでは11歳までは保護者なしでの外出が禁じられているため、学校への送迎も親の重要な仕事ですが、男性もフレックスタイム制を利用して平日のお迎えを担当するなど、仕事の状況によって夫婦でうまく分担しています。 - 平日の学校行事への父親の参加率も高く、スポーツイベントなどでは参観している保護者の半分ぐらいが男性という光景も珍しくありません。また、習い事として夜のアクティビティに参加する子どももいますが、そういう場合は父親が送迎を担当し、母親は家で食事をつくるというように、自然な形で役割をシェアしています。日本でよく見られるような、母親がご飯をつくって子どもに食べさせ、合間を縫って送迎してから後片付け...というようなドタバタ劇は、オーストラリアでは考えられません。
- 家事に関しても、たとえば妻が食事をつくったら夫は洗い物というように、男性もごく自然に家事を分担しています。また、週末はファミリーデーで、家族一緒に過ごすのがオーストラリア人の習慣です。日曜日は父親が料理をするとか、夫婦で分担しながら掃除をすませるといった家庭も多いですし、家族でお出かけというのもよくある光景です。
- こうしたゆとりのある暮らしができるのは、やはり長時間労働がなく、休暇も取りやすいといった職場環境によるところが大きいでしょう。「そんな働き方で仕事が回るなんて信じられない」と思うかもしれませんが、たとえばある社員が4週間の長期休暇を取る場合、その間だけ別の人を短期で雇うなど、柔軟な対応がなされています。
もちろん、不慣れな代行者が仕事を請け負うことによって、効率は多少悪くなるかもしれませんが、ジョブ・ディスクリプションで業務が明確化されていることもあり、大きなトラブルにはなりません。 - なにより、「残業しないのが当たり前」「育児も家事も夫婦で分担するのが当たり前」「休暇を取るのは当然の権利」といった意識が社会全体に浸透しているからこそ、多少の効率の悪さは気にならない、気にしないのかもしれません。
斉藤悠子
グローバルママ研究所リサーチャー。出版社勤務を経て、2009~2015年まで台湾・台北に在住。在台中は大学の語学センターで中国語を勉強。帰国後はフリーライター兼編集者として、台湾情報やインタビュー記事、子育てやビジネス関連の記事などを執筆。夫と娘二人の4人暮らし。
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。