組織の力
2020.06.18
多様な働き方が加速する社会に求められるオフィス
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大の影響によって、これまでオフィス外での業務経験がなかった多くのワーカーが在宅勤務を経験している。半ば強制的な在宅勤務がきっかけではあったにせよ、「オフィス外でも十分仕事ができる」と肯定的に捉えた人も多く、今後の勤務スタイルが大きく変化する予兆も出てきた。そこで課題になってくるのは、「オフィスの価値」であり、これまで以上に社員が「来たい」と思わせる要素が不可欠になってくるということだ。
コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部でオフィス構築や働き方変革のコンサルティングを手がける吉田大地氏は、これまでの経験から、オフィスの価値を高める方法として「設計事務所任せでなく、若手をはじめ各部門の社員を巻き込んだオフィス構築」を勧め、実際に「社員主導で魅力的なオフィスづくりを実現している企業はたくさんある」と語る。そこで吉田氏に「場の価値を生むためのオフィスづくり」のポイントを整理していただいた。
スケジュールと
かかる負荷を早めに押さえれば
本業との両立がスムーズ
とはいえ、日々の仕事で忙しい社員たちが、本業とは別にリニューアルのプロジェクトを進めていくのはやはり大変だ。部署によっては、マネージャーが「業務が忙しいので、若手に負担をかけたくない」と、部下を快く送り出さないこともあるだろう。
「プロジェクトを通じてトップや役員と関わり、上層部の思いに触れることで、参加者の自社へのエンゲージメントは高くなります。プロジェクト進行中は大変でも、長い目で見れば企業側にとってもメリットは大きいのではないでしょうか。
ただ、負担が増えることは事実ですから、不安を払拭するためにも『どの時期に、どのくらい負荷がかかるか』というスケジュールを上司の方にも事前にお伝えして、本業に支障をきたさないよう配慮しています」
オフィスづくりの知識や経験が
不足していても
外部の力を借りて解決できる
本業との兼ね合いだけでなく、メンバーにオフィスづくりの知識や経験が不足しているという課題もよくみられる。
「オフィス構築に関する知識がない方がほとんどなので、『働き方のコンセプト策定といっても、そもそも自分たちがどんな働き方をしたいのかイメージがわかない』という戸惑いも多いです。そこで、他社のオフィスを見学する機会を設け、高い評価を受けているオフィスや最新のワークスタイルを見ていただく機会をつくっています」
また、吉田氏はじめコクヨのコンサルタントが特に力を入れてメンバーをバックアップするのが、社内答申の場だという。
「若手の方は、社長や役員に向けて自分たちの意見をプレゼンする経験が多くはありません。そこで私たちは、コクヨが蓄積してきたデータや成功事例をもとに、メンバーの方が決めた内容に賛同していただけるよう補足説明をします。また、プロジェクトに参加していないベテラン社員の方に対しても、まずご意見を聞いたうえで、費用対効果などをお話して納得感を高めます。メンバーの方だけでは難しいところは、コクヨの知見をどんどん使っていただきたいですね」
次代のリーダーとなる社員を
属性の偏りなく選定する
では、社員が主体となって進めるオフィスづくりにおいて、成功のポイントはどこにあるのだろうか。「メンバー選定が重要」と吉田氏は即答する。
「いろいろな働き方をしている人の意見を募るため、営業部門や総務部門など各部署から集まってもらうことが大切です。男女比も偏りなく、できれば外国籍や子育て中の方など多様なメンバーを選びたいところです。年齢層は、私がこれまでにかかわった事例では20代が3割、30代4割、40代3割ぐらいの構成比が多いですね。社風に染まりきっていない若手の意見だけでなく、企業文化やこれまでの経緯を押さえた中堅の意見ももらえると、プロジェクトがスムーズに進みます」
そしてメンバーを選ぶときに欠かせないのが、「次代のリーダーや、社内のインフルエンサー」という視点だ。
「プロジェクトに関わる方々は、新しいオフィスでの働き方を社内に浸透させていく役割を担っています。ですから、この先会社を引っ張っていく若手や中堅の方をメンバーとして選定するとよいでしょう」
トップの思いを伝えつつ
社員の声を吸い上げて
社内に賛同者を増やす
メンバー選定とあわせて重要なのが、オフィスのリニューアルに関する情報を社内に向けてひんぱんに発信していくことだという。
「まずは企業のトップが、社内広報用のブログなどで新オフィスに向けた思いを定期的に発信することが大切です。トップからの発信があると、社員の関心が集まります。『プロジェクトメンバーを支えてほしい』といった社長の後押しによって、働き方やオフィスの変革に対する賛同者も増えるでしょう」
メンバーからも発信は行うべきだが、ただ情報を投げるだけでなく、プロジェクトに参加していない社員の声を吸い上げていくことも大切だ。
「社員の多くは、オフィスリニューアルや働き方変革に対して何らかの意見を持っているはずです。その意見をしっかり取り上げ、オフィスづくりに活かしていけば、味方をつくることにつながります。社内SNSなどの情報ツールを整え、双方向のコミュニケーションがおこなえる仕掛けをつくることが大切です」
在宅勤務が増えた今こそ
各部門のメンバーが集まって
オフィスづくりを行う意味がある
吉田氏はポストコロナのオフィス構築についても言及し、「これまでとは違った要件が求められる可能性がある」と語る。
「多くの人が在宅勤務せざるを得ない状況が続き、デスクワークなら自宅でできる、といった共通認識が生まれつつあります。今後のオフィスには、『人が集まるオフィスだからこそできる働き方』という視点がより重視されるのではないでしょうか」
これまでテレワークやABW(Activity Based Working:時間と場所に縛られない働き方)がなかなか浸透しなかったが、COVID-19 (新型コロナウイルス感染症)拡大により社会が急激に変化しようとしており、オフィスのあり方が問い直されている。「自社のオフィスの価値」はなにか。その価値を探るためにも、各部門でさまざまなワークスタイルを実践している社員が集まって進めるオフィス構築が、今後ますます必要になるはずだ。