組織の力

2020.06.24

中学校における働き方改革の取り組み

学校の「当たり前」を問い直す
                

熊本市教育委員会では2017年度から、「学校改革!教員の時間創造プログラム」と銘打って、小中学校などの教職員を対象にした施策を行っている。目的は、教職員の長時間勤務を改善すること。つまり多くの学校では、多くの企業が今まさに試行錯誤している働き方改革と共通の課題を抱えているのだ。今回は、このプログラムを軸に創意工夫を加えて業務改善を展開する中学校二校の取り組みを紹介する。

教職員の長時間労働改善に
向けたプロジェクトを始動

 今回のプログラムが策定された背景にあるのは、文部科学省が2016年度に行った教職員の勤務実態調査だ。調査結果からは教員の長時間勤務が明らかになり、2017年8月には中央教育審議会初等中等教育分科会の「学校における働き方改革特別部会」において「学校現場働き方改革に関する緊急提言」が取りまとめられた。

 2016年度の調査からは、中学校教員の勤務時間は過去10年と比較して週3~5時間も増加していることがわかった。増加した業務時間の内訳は、授業や成績処理、学級経営、部活などだ。長時間勤務という課題をそのままにしていては、子どもたちと向き合ったり、新学習指導要領や社会の変化に応じた新し学び方を研究したりする時間を十分にもつことができない。それどころか、教職員が心身の健康を損なうことにもなりかねない。

 提言を受けて熊本市では、2017年10月に「学校改革!教員の時間創造プロジェクト」を立上げ、学校現場と教育委員会事務局が一体となって課題解決に向けて取り組むことになった。そして、2020年度には「正規の勤務時間外の在校時間が1か月80時間を超える教職員数0人」「教職員の正規の勤務時間外の在校時間25%減(2017年度比)」を達成、という具体的な目標と改善方針を示す「教員の時間創造プログラム」を策定した。



大規模校だからこそ
課題意識の共有はじっくりと

 令和元年度まで長嶺中学校の教頭を務めた水田貴光氏(2020年4月から熊本市教育委員会勤務)は、「学校では、各教職員一人ひとりが孤軍奮闘で頑張っていますが、これからは、よりチームで対応する時間的な余裕とスキルを身につける必要があります」と指摘する。

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 その長嶺中学校は2018年度、市教委のプログラムを受けて自校の特徴を活かしながら業務改善に取り組む業務改善モデル校だった。長嶺中学校は、生徒数1000人超の大規模校で、非常勤も含めた教職員数は70人に上る。だからこそ、教職員全員にいかに課題意識を共有するかが重要だった。

校長の指示のもと「業務改善プロジェクトS」と題した取り組みにあたった水田教頭(現熊本市教育委員会)が重視したのは、教職員の意識改革だ。夏期休暇中に校内研修を実施し、文部科学省の要請を受けて業務改善アドバイザーを務めるコクヨ株式会社の齋藤敦子氏から業務改善の必要性についてレクチャーを受けた。

「学校で当たり前に行われている働き方が、学校以外の組織では当たり前ではないことは多々あります。外部のアドバイザーを通じて自分たちの働き方を見つめ直すことで、『業務改善が必要不可欠』という課題感を全員に持ってもらおうと考えました。最初に目的意識を共有し、PDCAならぬCAPD(課題の分析・洗い出し→改善案検討→提案→実践)のプロセスで進めることで、取り組みがスムーズに進みました」



ベテラン教職員を起点に
活動を進めて
校内の納得感を高める

 改善活動の「流れ」をつくったこともポイントだ。取り組み事項を決める際に、校内のリーダー的教職員によって構成される部長会を出発点としたのだ。また、プロジェクトに関する決定事項やトピックなどをまとめたニュースレターも毎週発行した。

「若手からの発信だとベテランが難色を示すことも考えられるので、部長会を起点として活動に対する納得感を高めようとしました。さらに、ニュースレターを通じて繰り返し意識づけを行いました。CAPDのサイクルに合わせて何回も情報発信することで、教職員の意識も変わっていきました」

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教職員にメリットを実感して
もらうことでICT活用を加速させる

 教職員たちは、「アプリチーム」(校務サーバーの設計など校務改善)と「シェアチーム」(文書共有化)、「スマートチーム」(業務環境改善)、「リノベチーム」(職員室内カフェスペース提案など工夫修復)に分かれて改善活動に取り組み始めた。

その中で、雑然とした職員室を仕事がしやすい環境に変えていくために重要なのが、アプリチームが手掛けるICT活用だった。だが、学校ではデジタルツールを使いこなせない教職員も多い。熊本市が教員へのタブレット配布を実施したこともあり、水田教頭は、積極的にICT活用を進めた。文書のサーバー内での共有のみならず、授業支援アプリ『ロイロノート』と『MetaMoji ClassRoom』を用いて自分のスケジュールや配布物の予定、伝達事項などを1人ひとりが書き込めるシステムをつくったのもその一環だ。

「全員が必要事項を共有できるので、伝達モレなどがなく、ムダな報告会議なども不要です。先生方自身がメリットを実感することでICT活用が促され、今では全員がこのシステムを使いこなしています」

 2018年度から取り組んだ成果は、同校が生徒に向けて実施した学校評価アンケートに現れている。「先生は一人ひとりの生徒の気持ちを考えて接してくれますか」「授業はわかりやすく楽しいですか」という質問に対する肯定的な回答が、取り組み実施後は明らかに上昇した。市教委が掲げた「教職員が授業や授業準備等に集中し、子どもと向き合う時間を拡充する」という目的は果たされたといえるだろう。


熊本市立長嶺中学校

1991年開校。「創造」「誠実」「躍動」を校訓に、自主的精神に充ちた心身ともに健康で 調和のとれた生徒の育成をめざす。男子バレーや軟式野球、女子ハンドボールなどの部活動が県大会にたびたび出場。2017年度から「長嶺中業務改善プロジェクトS」を実践。

熊本市立武蔵中学校

1975年開校。「21世紀をたくましく生きる自律し協働できる生徒の育成」を教育目標に、本校ゆかりの人物である宮本武蔵にちなんで文武二道(文武両道)をめざす。2019年度から業務改善に取り組んでいる。

文/横堀 夏代