リサーチ

2020.07.08

データから読み解く日本の人材トレンド③

企業と多様な働き手が信頼・成長を深め合う社会へ

現代日本の雇用をさまざまな角度から分析し、新しい働き方を提案する株式会社リクルートキャリアのメンバーが、データをもとに「働く」の現状や未来を解説するシリーズの最終回。

今回は、「企業と働き手の関係が今後どう変わっていくのか」「そのために企業と働き手は何を志向するべきか」といったテーマについて、HR統括編集長として労働市場の動向を見つめる藤井薫氏にお聞きした。

会社に合わせた働き方から
自分らしい働き方へ

リクルートキャリアでは、自社で運営する転職情報サイト『リクナビNEXT』内で求職者が検索したワードについて、毎年調査・分析を行い、「検索ワード」ランキングを発表している。ランキングを見れば、時代ごとに求職者がどんな項目を重視して職探しを行っているかが浮き彫りになるのだ。

2019年の調査では、「在宅勤務」「土日休み」「転勤なし」「ワークライフバランス」といった働き方に関するワードが検索ランキングの上位を占めた。いずれも2014年のランキングでは100位圏外だったワードが大半で、働き方への関心が求職者の間で強まっていることがうかがえる。HR統括編集長の藤井薫氏は、この傾向を「ライフフィット」というキーワードを使って説明する。

「多くの人が、これまでは企業の取り決めに合わせてカンパニーフィットのスタイルで働いてきました。しかし近年は、どうすれば自分のスキルや経験を活かしつつ生活に合わせた働き方が実現できるかを考える人が増えています。つまり、カンパニーフィットからライフフィットへと、求職者の志向が変わってきたのです」

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出典:『リクナビNEXT』検索ワード調査 リクルートキャリア




企業には「100人100色」の活躍を
支援する人事体制が求められる

ライフフィット志向の働き手が増えれば、当然ながら企業も変わることが求められる。今後の企業は、どのような人事戦略を打っていく必要があるのだろうか。

「働く人のライフスタイルは、子育てや介護、社会人大学院通学など実にさまざまです。企業側は多様化する働き手一人ひとりが活躍できるよう、セミオーダーメイドのような形で人事制度をつくっていく必要があります。つまり、十人十色ならぬ『100人100色』の働き手に寄り添うことが求められているのです」

ただし、企業規模が大きくなればなるほど、働き手のライフスタイルも多様化するため、人事側が用意した制度だけではフィットしないケースが出てくることも予想される。

「ある程度、選択の幅を用意したら、あとは職場単位で上司と部下が率直に話し合い、例えば『金曜は15時に退社』といったルールを柔軟に決めていけばよいのではないでしょうか。人事と現場との連携によって、100人100色の働き手が活躍できる環境を少しずつつくっていけるでしょう」

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「公平さ」に対する概念を
働き手も変える必要がある

「100人100色」を支援する企業の下では、働き手も「過剰な公平さ」を求めないことが大切だという。藤井氏はそれを、「スポーツの世界などで、一人ひとり異なる持ち味のプレイヤーが長所を活かして違うプレーをし、協働しながらチームとして成果を出していくようなもの」と説明する。

「組織も同じで、100人100色の働き手が活躍するなら、ワークスタイルは一人ずつ異なるはずです。それを『あの人だけ出社時間が遅いのは納得がいかない』などとうらやんでも意味がありません。企業はすべての従業員に公平に期待をかけ、最も能力が発揮できる環境を用意するべきです。しかしその環境は一人ひとり違うのが当然であることを、働き手も認識しなければなりません」


藤井 薫(Fujii Kaoru)

株式会社リクルートキャリア HR統括編集長。入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事し、『TECH B-ing』編集長、『アントレ』編集長などを経て現職。また、株式会社リクルートのリクルート経営コンピタンス研究所を兼務。現在、「はたらくエバンジェリスト」(「未来のはたらく」を引き寄せる伝道師)として、労働市場・個人と企業の関係・個人のキャリアにおける変化について、新聞や雑誌でのインタビュー、講演などを通じて多様なテーマを発信する。デジタルハリウッド大学と明星大学で非常勤講師。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)がある。

文/横堀夏代