組織の力
2020.08.06
タニタが取り組む信頼をベースにした関係性のあり方〈後編〉
ライフを大切にしながら自立的に働く
体組成計や活動量計などの製造・販売で知られる株式会社タニタでは、社員がタニタを退職したうえで、個人事業主としてタニタと業務委託契約を結んで働く取り組み「日本活性化プロジェクト」を導入している。
このプロジェクトは、「社員の個人事業主化」という企業と個人の信頼をベースにした新しい関係性のあり方として注目されており、アメリカシリコンバレーの成功企業が実践している「アライアンス」な雇用関係の、日本版好事例と言える。今回は、実際にタニタで働く個人事業主の生の声をもとに、この取り組みのメリットを探った。
仕事量は増えたが
効率的な働き方によって時間に余裕が生まれた
個人事業主となって仕事量は増えた。その一方で自己裁量権も大きいため、介護や創作活動との両立が楽になったという。急ぎの仕事を頼まれれば、出社予定を在宅勤務に切り替え、往復4時間の通勤時間を仕事に充てることができる。
「仕事の分量は会社員時代よりも増えましたが、自己裁量で効率的に動けるようになったので、むしろ時間に余裕ができたほどです」とさらりと言う。
もちろん、効率的に仕事を回すための工夫にも余念がない。特に心がけているのが、「悩む時間をつくらないことだ」という。
「社員だった時より、時間に対してはシビアになりました。万が一納期に間に合わなかったら、業務委託として責任を果たせていないことになりますから。問題が起きたり、迷ったりした時は、だらだらと悩まず『この問題は誰に聞けば解決するだろう』と考え、すぐに行動を起こすようになりました」
失敗をキッカケに
仕事に対する意識がより高まった
個人事業主になったことで大塚氏はたくさんのメリットを享受したが、マイナス面がまったくなかったわけではない。
「マイナス面というより失敗と言った方がよいかもしれません。業務委託契約で基本業務の内容をあまり細かく設定しなかったため、追加業務として受けたつもりの仕事が『この仕事は基本業務に含まれるのではないか』と後になって指摘され、予定していた収入が見込めなくなりました。とはいえ、失敗をきっかけに仕事に対する意識が高まり、結果的には自分にとってプラスになりました」と過去の失敗を教訓にしている。
「日本活性化プロジェクト」では、個人事業主となった元社員が他社の仕事も請け負うこともできる。ということは、優秀な人材が他社の仕事を中心に受けるようになり、タニタから離れてしまうことも考えられる。
しかし実際は、ほとんどの元社員がタニタのもとで長く働き、大塚氏のように一回り成長した働き手となってタニタの事業を支えている。経営本部社長補佐の二瓶琢史氏は、「このケースのように、個人的な事情もあって正社員でいるのが難しくなった人に働き続けてもらえるのは、『日本活性化プロジェクト』があったからこそ」と同プロジェクトの意義を強調する。
「個人を信頼して手放す企業」と「企業を信頼して寄り添う個人」という関係性を実現した「日本活性化プロジェクト」は、変則的ではあっても信頼をベースにした新しい関係性のモデルケースといえるのではないだろうか。
写真:(左から)大塚武司氏、二瓶琢史氏
株式会社タニタ
1944年設立。体組成計や活動量計、血圧計などの製造・販売をはじめ、ヘルシーレストラン「タニタ食堂」や女性向けフィットネス「タニタフィッツミー」の運営といった健康サービスを手掛ける健康総合企業。グループ会社のタニタヘルスリンクでは、企業や自治体向けの健康づくり支援サービス「タニタ健康プログラム」を提供している。2019年、『日本活性化プロジェクト(社員の個人事業主化)』の取り組みによって、株式会社リクルートキャリア主催の「第6回GOOD ACTIONアワード」特別賞を受賞。