リサーチ

2021.02.24

緊急事態宣言から半年で薄れた危機意識

コロナ禍の教訓は生かされているのか?

コクヨ株式会社では緊急事態宣言再発令の約1か月前の12月初旬に、「コロナ感染症拡大第3波に向けて」というテーマWEBアンケート調査を実施。調査結果をもとに、再発令下の現在にも活きる、企業やワーカーの課題を解決するためのヒントについて解説する。

1回目の緊急事態宣言解除から半年
企業とワーカーの状況は?

今回の調査を実施したのは2020年12月8~9日。11月下旬から新型コロナウイルスが再び拡大の様相を見せ、多くの企業ではいわゆる「第3波」に向けた対策を始めた時期。

初回の緊急事態宣言解除から半年が過ぎたタイミングで、企業は第3波に向けてどのような施策を打っているのか、そしてワーカーは企業の取り組みをどうとらえているのかを調査、分析することで、ワーカーがより快適に、生産性高く働く手がかりを見つけたいと考えました。




ワーカーが感じる危機感の甘さ

新型コロナウイルスへの危機感の変化を調べるために、緊急事態宣言時の2020年4月と12月上旬を比較する質問をしました。ワーカー自身の変化だけでなく、勤務先や社会全体の危機感の変化についても聞きしました。

その結果、ワーカー自身は「危機感・不安は(4月より)とても高い」「まあ高い」の合計が5割約に上りました。一方で、勤務先に対しては「とても高い」「まあ高い」と感じている人が合計で4割、社会に至っては約3.5割にとどまっています。つまり、「勤務先や社会は、危機感が甘い」と感じたワーカーが多いことになります。

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テレワーク実施状況にみる
企業の危機意識

特に注目したいのは、自社に対するワーカーの思いです。「自分は危機感を感じているのに、会社は施策を打ってくれない」とジレンマを抱いているワーカーが少なくないのでは、と懸念されます。

ワーカーの意識を裏づけるデータも、今回の調査で得られました。テレワークの実施状況の変化をワーカーに聞いたところ、緊急事態宣言後(2020年6~11月上旬)と再拡大予兆期(12月上旬)でほぼ同じ状況だったのです。

テレワークの実施状況は、会社の危機意識を象徴するデータの一つではないかと思います。テレワークを導入しにくい業種や職種はもちろんありますが、それでも感染の拡大防止に向けて働き方を見直していくことは必要です。企業はワーカーの信頼を得るために、危機意識の発信を強め、施策を打っていくべきではないでしょうか。

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第3波に向けて
教訓は生かされているのか

新型コロナウイルスの再拡大に備えて、「2020年4月の緊急事態宣言時の教訓が勤務先でどれくらい生かされるか」を、さまざまな項目で聞きました。

「オフィスの感染拡大予防策」や「社員の健康管理対策」に関しては、「とても生かされるだろう」と「まあ生かされるだろう」の合計が6~7割と高めです。ウイルスの変異などはあっても、オフィスの消毒やソーシャルディスタンスの確保、マスク着用といった予防策は基本的には同じであるため、「教訓は生かされる」と考えるワーカーが多いようです。

一方、意見が割れたのが、「取引・営業活動のオンライン化」や「業績回復の営業強化」です。「とても生かされるだろう」と「まあ生かされるだろう」の合計が4割弱だったのに対し、「あまり生かされないだろう」「まったく生かされないだろう」の合計も3割超でした。

2020年4月以降、営業活動は大きく変わり、オンラインの割合も増えたことは4割弱という数字が示しています。それでも「教訓が生かされない」と懸念しているワーカーも同程度いることから、年末・年度末を控え業績によりシビアになる時期だけに、対面営業ができないはがゆさも相まって、オンラインの難しさを感じているワーカーが少なくないのではないでしょうか。

「テレワーク下での人材育成」や「業績回復の新規事業推進」「人事評価の見直し」にいたっては、「教訓が生かされない」との意見の方が強くなっています。その場しのぎの対策で終わってしまっていることに、企業側の危機意識の低さを感じ取っているワーカーも多いのかもしれません。

多くの企業では、緊急事態に対応すべく、急遽さまざまな対策を打ち出しましたが、それらの対策の多くは新しい働き方を可能にする良策としてワーカーに受け入れられています。対策を一時的なもので終わらせるのか、しっかりと仕組み化していくのか、企業側の判断をワーカーは注視しているのです。

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強化が急務な対策とは

第3波到来に向けて「強化が急務な対策は?」と質問したところ、上位に挙がったのは「オフィスの感染予防策」や「テレワークへのITインフラ整備」、「社員の健康管理対策」といった項目でした。調査を実施したのが新規感染者が激増しつつあった2020年12月ということもあり、感染への不安を払拭する具体策や働き方に関心が集まったようです。

印象的なのは、業績回復には「営業強化」が急務とするワーカーが16.2%いる一方で、「新規事業推進」が11.3%だったことです。2020年は業績不振を経験した企業が多いため、業績回復を急務とする点は同じですが、リスクが高い新規事業より、短期で成果をねらえる営業強化を急務と考えたのではないかと推測できます。




Withコロナを見据えた
変化とチャレンジ

調査を実施したのが師走だったため、一年を振り返って「コロナ禍に新たにチャレンジしたこと、努力したこと」についても質問しました。

「在宅勤務/テレワークといった新しい働き方」を筆頭に、自宅での仕事に関する項目が上位に挙がっています。自らの意志に関係なくテレワークをせざるを得ない状況に置かれたワーカーも多くいましたが、そんななかでも、新しい働き方を前向きにとらえてチャレンジしたと認識しているワーカーが目立ちます。

一方で、「上司や同僚との関係性の深化」や「経営者が考えていることの理解」に努めたワーカーはあまり多くはありません。これらは、オフィス中心の働き方では自然と実現できていた項目です。しかしテレワークが増えている現状では、意識して自ら行動しないと実現できません。

当たり前にできていた、つながりを築く機会、経営陣の考え知り共感する機会を失った状態が続くと、ワーカーの孤独感は深まり、自社へのエンゲージメントは薄れていく危険性があります。物理的に距離がある今だからこそ、企業とワーカーをつなげ、心の距離を縮める施策が必要ではないでしょうか。

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調査全体からは、2020年12月初旬の時点ではまだ感染症の拡大を「一過性の危機」としてとらえている企業が少なくないことが読み取れました。

2020年4月の緊急事態宣言下、感染症の対処策として多くの企業がテレワークを導入したことが、一向に進まない働き方改革を大きく前進させたと言われています。しかし、宣言解除後にはテレワークをやめてしまう企業が多数みられたことから、新しい働き方にシフトするチャンスではなく、一時的な避難対策として捉えている企業がまだまだ多いことがわかります。

習慣を変えようとするとき、人は強いストレスを感じます。これまでは、「変化へのストレス」から、働き方改革に後ろ向きなワーカーも一定数おり、そのことが取り組みの壁になっていたかもしれませんが、テレワークという新しい働き方を体験したことで、ワーカーの意識は確実に変わりつつあり、働き方の見直しをはじめています。

withコロナ時代はまだ続くといわれています。企業側も、変化を余儀なくされたこの時を凌ぐのではなく改革の好機と捉え、ワーカーの意見を吸い上げながら、緊急事態のさなかでも成果が上げられる新しい働き方とそのための環境づくりを積極的に行っていくべきではないでしょうか。


調査概要

実施日:2020.12.08-09実施

調査対象:社員数500人以上の企業に勤めているワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件


【図版出典】Small Survey「コロナ感染症拡大第3波に向けて」

河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

文/横堀夏代