レポート

2021.04.19

書店の未来を「進化思考」で考える

『進化思考』出版記念、公開ブレインストーミング

4月21日に刊行される『進化思考―生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』(海士の風)は人間の創造活動のプロセスを生物の進化のメカニズムから体系的に紐解く大著だ。出版に先立ち開催された、「書店の未来」を進化思考で考えるイベントの様子をレポートする。

書店の個性を磨くには
外部とのつながりを捉え直す

太刀川:「本や書店の『生態』として、次は出版取次にいきましょう。取次とは、本や書店をめぐる生態系的にどういう役割があるのでしょう?」

中西:「取次は出版社と書店とをつなぐ存在ですが、ただつなぐのではなくて、出版社では思いつかないようなところ、複雑で届かないところに本を届ける。そういう役割を担っていると思います」

太刀川:「なるほど。もし、書店の概念を壊すような進化があったとすると、取次の役割はどうなるのでしょう? 困りますか?」

中西:「書店も取次も役割はどんどん変わっていきますし、取次が書店さんと一緒に何かやるというのもあっていいと思っています」

太刀川:「私も著者としての立場で話すと、ゆかりある書店に貢献できるなら、自分に提供できる価値があるなら、どんどん提供したいと思っています。自分がお世話になった書店を応援したいという気持ちです。でも、著者には書店との直接的なつながりがないからできない。ひょっとすると、取次の方々がうまく著者や出版社から書店へのつながりの流れをつくってくださると、書店をもっと面白くできるんじゃないかなと思えてきました。取次の進化にもつながりそうです。ゆかりシステム、というか。」

原田:「日販さんのような大手の取次は、日本の出版社が出す大多数の本を扱っているので、いつどこからどんな本が出るのかという情報をもっているんですよ」

太刀川:「ということは、日販さんが全国の書店マップをつくれば、書棚検索の全国版ができるわけですよね。欲しい本を検索してリクエストしたら、地元のローカルな書店で購入できるとか、いいですよね」

有地:「ネットで買うけど受け取りは本屋というサービスはあります。ネットの利便性と書店での購入体験をミックスした感じです」

原田:「旅先の本屋さんでいい本と出会ったんだけど、買って帰るのは重い...みたいなときに、そこでお金を払えば近所の書店で受け取れるシステムとかも、いいかもしれないですね」

有地:「書店文化を残していくためには、ローカルな本屋で買ってほしいというのはありますよね。地域ごとに、『進化思考』の特別バージョンが売っているとかも、おもしろい仕掛けになりそうです」

有地:「またその本屋さんに行きたくなる、ストーリーが必要ですよね」

阿部:「お話を聞いていて、書店も地域も同じだなと感じました。つまり、個性をいかに磨くかがカギで、個性を出す方向に進化していく必要があるなと」

有地:「本屋の個性って、街の人がつくると思うんですよね。街の本屋は、売れている本や売れ筋と似た傾向の本を仕入れるので、ローカルの姿を反映するんです」

太刀川:「ローカルという視点でいうと、人は地元への愛着をどこで感じるかということを突き詰めると、それを書店にも応用できそうです。本屋さんに愛着をもってもらうということで言うと、ポップが全部、方言丸出しとか(笑)。見出しのインデックスとかも方言にしてもおもしろいですね」

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大事なのは適切にコケまくること
挑戦とエラーの先に進化がある

阿部:「最後に、『書店の未来』というテーマで、改めて皆さんにコメントをいただきたいと思います」

太刀川:「進化って偶然で、エラーがいっぱい起こらないと、進化も起こらない。同時に進化は壮大な結果論でもあって、やってみたらうまくいったということの集積で今がある。その過程では、うまくいかずにコケまくっているわけです」

「私が言いたいのは、大事なのは適切にコケまくることだということ。一見クレイジーなアイデアも、解剖・系統・生態・予測の4つの視点で見たときにうまくいきそうだと仮説が立てば、世の中に受け入れられるかもしれません。9つの変異パターンに照らしながらバーっとアイデアを出しまくって、4つの適応パターンの軸で見てアイデアの精度を上げたら、あとはやってみること。みんなが失敗に臆せずチャレンジできるようになるために『進化思考』を書いたので、ぜひ本や書店に携わる方々にもそうなっていただきたいと願っています」

有地:「今日のディスカッションを通して、この業界にずっといる自分は頭が固まっていたなと気づかされました。著者と書店という同じ生態系にいるけど離れているものがつながることで、本にまつわる生態系自体がガラッと変わる。そういう見方をしてこなかったので、刺激になりました。進化思考を使って、いろんなつながり方を実験していけたら楽しそうだなと思っています」

原田:「出版界はこれまでプロの世界でしたが、今はインターネットメディアで素人がどんどんアウトプットできる時代になっています。書店を進化させるためには、書店というメディアを素人に開放するという余地もあるかなと思いました」

太刀川:「街の書店が、書棚を作りたい人を募集して、選ばれた人が好きなようにつくれるとか?」

原田:「そういうこと、そういうこと」

有地:「棚作りって書店にとってもコストがかかるので、それを開放して街の人を巻き込んじゃうのはすごくいいですね」

中西:「まず、進化思考の型がどんなことにも使えるというのが今日の収穫でした。いろんな可能性が見えてきたので、チャレンジしながら新しい仕組みをつくっていきたいと思います。ありがとうございました」

阿部:「『進化思考』という書籍を通して、いろんな分野の物事の進化を社会実装していくことができればうれしいと思っていて、その試みの一つとして、今回は公開ブレインストーミングを開催しました。ぜひ進化思考という型を皆さんの血肉にして、役立てていただきたいと思います。今日はありがとうございました」

『進化思考』の全容が明かされるのは4月21日。構想から4年、全512ページに及ぶという太刀川氏の渾身の作品に期待が高まる。



書籍紹介

『進化思考―生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』(海士の風)

6_rep_008_05.jpg進化思考―それは、生物の進化のように二つのプロセス(変異と適応)を繰り返すことで、本来だれの中にもある創造性を発揮する思考法。38億年にわたり変異と適応を繰り返してきた生物や自然を学ぶことで、創造性の本質を見出し、体系化したのが『進化思考』である。変異によって偶発的に無数のアイデアが生まれ、それらのアイデアが適応によって自律的に自然選択されていく。変異と適応を何度も往復することで、変化や淘汰に生き残るコンセプトが生まれる。https://amanokaze.jp/shinkashikou/




太刀川 英輔(Tachikawa Eisuke )

未来の希望につながるプロジェクトしかしないデザインストラテジスト。プロダクト、グラフィック、建築などの高い表現力を活かし、領域を横断したデザインで100以上の国際賞を受賞している。生物進化から創造性の本質を学ぶ「進化思考」の提唱者。主なプロジェクトに、東京防災、PANDAID、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。主著『進化思考』(海士の風、2021年)は第30回山本七平賞を受賞。

有地 和毅(Aruchi Kazuki)

日本出版販売株式会社リノベーション推進部 YOURS BOOK STORE事業課 ブックディレクター。2010年日販グループのあゆみBOOKS入社。小説家との書簡を店頭で公開する「#公開書簡フェア」、SNSユーザー参加型の棚「#音の本を読もう」を実施。日本出版販売(株)に出向し、書店店頭を活用した本によるブランディング企画担当を経て、2018年より現職。ブックディレクターとして選書ディレクション、コンセプトメイキングに携わる。「文喫 六本木」のコンセプトデザイン、企画・イベントディレクションを手がける他、企業ライブラリーでの本を起点としたコミュニケーションデザイン、ワークショップ運営などにも取り組む。

文/笹原風花