リサーチ
コロナ禍で重要性が増す「健康経営」
従業員の健康は企業の要
テレワークによる生活の変化やストレスによって、心身に不調をきたすワーカーが増えている。企業は今、どのように健康経営に取り組むべきなのか。コクヨ株式会社が実施した調査結果から、健康経営の実態、取り組む際の留意点についても考察する。
「健康経営」とは
健康経営とは、1980年代にアメリカの経営心理学者ロバート・ローゼンが提唱した概念で、企業の持続的成長を図るために、従業員の健康に配慮した経営手法のことです。従業員の健康管理は企業の経営課題として位置づけられます。 近年、日本でも健康経営が注目され、2017年からは「健康経営優良法人認定制度」がスタート。健康経営に取り組む優良な企業の「見える化」に取り組んでいる。認定を受ける企業は年々増加。大規模法人部門では235社(2017年)が6倍強の1,476社(2020年)に、中規模法人部門では95社(2017年)が50倍の4815社(2020年)まで伸びています。なお、大規模法人部門の上位500社は「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位500社は「ブライト500」に認定されます。 健康経営には、以下のようなメリットがあります。 <社員のメリット> ・健康の維持、増進 ・個人が負担する医療費の削減 ・心身に負担をかけず、生き生きと働くことができる <企業のメリット> ・社員の欠勤率、長期休業率の低下 ・社員の生産性、会社の収益性の向上 ・会社が負担する医療費の削減 ・社会的なブランドイメージの向上
実践企業が増えても ワーカーの認知は進まず
認定制度を設けるなど、政府は積極的に健康経営の普及促進を図っていますが、調査では過半数が健康経営という言葉を「知らない」と回答。「言葉の意味を正しく理解している」はわずか4.2%で、ワーカーの認知度はかなり低いことがわかりました。 勤め先で「健康経営」が実践されていると実感しているワーカーは24.3%で、「とてもそう思う」は2.6%にとどまっていました。 一方で、2020年3月に実施された調査(※1)では、健康経営を実践している企業の割合は30.8%(1000人以上の企業は45.5%以上)というデータが発表されています。 ※1:日本の人事部調査「健康経営に関する調査」 企業が健康経営に取り組んでいても、うまく機能していない、あるいはワーカーが認知していない可能性がありそうです。 健康経営の具体的な取り組み例として、残業時間の削減、リフレッシュタイムの導入、健康診断やメンタルチェックの実施、心身の健康に関する研修・セミナーの実施、専門家による保健指導の実施などがあります。しかし、それらが「健康経営」にかかわるものと気づいていないワーカーも多いのではないでしょうか。
長引くテレワークで 心身の不調が増している
今、コロナ禍で急速に普及したテレワークによって、心身の不調を訴えるワーカーが増えています。運動不足・体力不足の深刻化と関連して、肩こり・腰痛なども悪化。出勤時の徒歩や階段昇降などの運動が減ったことに加え、デスクやチェア、照明など、自宅の執務環境が整っていないことも、大きく影響していると考えられます。 また、「テレワークを実施してから強く感じる体調の異変・生活の乱れ」に挙げられた内容からは、「集中力低下やだるさ・倦怠感」「落ち着かない・焦燥感」など、心的ストレスが急増していることも読み取れました。 そして、対策として「心身のリフレッシュ」「ストレス発散法の実践」などを意識的に行っているワーカーが多いことから、心的ストレスの軽減を必須と考えるワーカーが多いとも言えるのではないでしょうか。 慣れないテレワークへの適応、社内コミュニケーションの不足、仕事とプライベートを両立する難しさなどが、ワーカーのストレス増の大きな要因と考えられますが、コロナ禍の現状が長く続くほど、心的ストレスが蓄積され、将来的にはより深刻な状況に発展することも危惧されます。 また、運動不足を感じるワーカーが多いにもかかわらず、「定期的なランニングやウォーキング」「運動・ストレッチ」の割合が低いことも気になります。何らかの対処をしなければ、今後さらなる健康不調をまねく恐れがあります。不調が慢性化すると、「対処しよう」という意識も薄れてしまうため、企業が意識的にアラームを出すことも必要になるかもしれません。
企業は早急な取り組みを
テレワークやコロナ禍といった環境・状況の変化に、ワーカーはこれまでにない心的ストレスや、生活の変化による身体的不調を感じていても、業務優先で体調管理が二の次になってしまうなど、個人では対処しきれていない現実も伺えます。加えて外出制限などによって、運動やリフレッシュをすることが難しいという側面もあるでしょう。 心身の健康を崩した状態が長く続けば、回復にも時間がかかります。今、社員の健康管理を怠れば、コロナ禍という不安要素が多いなかで心身の不調がさらに悪化することは容易に想像できます。業績への影響も避けられないのではないでしょうか。 テレワークにより、従業員へのケアが難しい状況ですが、コロナ収束後もリモートでの働き方が常態化していくと考え、テレワークでも運用できる健康経営のあり方を、企業は早急に打ち出し、対応する必要がありそうです。 また、調査では、勤務先の健康経営についてワーカーがあまり認知していないことも見えてきました。企業は多様化する働き方に対応した健康経営の重要性を明確に打ち出すとともに、健康支援の実施、見える化、浸透をセットで力を入れいく必要があるでしょう。
実施日:2021.3.23-24実施
調査対象:社員数500人以上の企業に勤めているワーカー
ツール:WEBアンケート
【図版出典】Small Survey「健康経営」
河内 律子(Kawachi Ritsuko)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。