組織の力
生産性向上はなぜ重要か。課題とメリットから施策のポイントが見えてくる
生産性の向上は日本企業の必須課題!
「生産性」とは、「企業が投入した時間や人材などの資源」に対して「どれだけの成果を生み出せたか」を示す指標。企業にとって生産性の向上は、競争力アップやコスト削減などさまざまなメリットがあり、企業の継続・発展において最重要課題ともいえる。「生産性向上」の意義や施策、働き方改革との関連性などについて詳しく解説する。
生産性とは?
「生産性向上」は、「より少ないインプットで、より多くのアウトプットを出せるようになること」を示します。ただし、「生産性」には複数の考え方があり、「業務効率化」とも混同されがちです。自社が目指す生産性向上のあり方を明確化するために、まずは生産性の概念をしっかり押さえる必要があります。
生産性の定義
企業における「生産性」とは、投入した経営資源(時間や労働力、資本金など)に対して生み出すことができた成果(生産量や生産額、付加価値)を指し、「アウトプット÷インプット」という計算式によって示すことができます。つまり、生産性向上は「インプットの縮小」、または「アウトプットの拡大」によって実現できるのです。
仕事における生産性
仕事において「生産性」を測定するときには、「労働生産性」という観点から行われることが一般的です。労働生産性は「従業員1人あたり(または1時間あたりの労働)によって生み出される成果」を指標化したものです。
生産性向上と業務効率化の違い
「生産性向上」は「業務効率化」と混同されやすいですが、この2つには大きな違いがあります。生産性が「投入した資源に対してどれだけの成果を上げることができたか」を意味するのに対して、業務効率化は「非効率に行われている業務のやり方を改善し、より効率的に行えるようにすること」を指します。
労働生産性の種類
労働生産性は、「何をアウトプットと位置づけるか」によって、おもに2種類に分類されます。付加価値をアウトプットととらえる考え方が「付加価値労働生産性」、物的な成果をアウトプットと位置づける考え方が「物的労働生産性」です。
付加価値労働生産性
ここでいう「付加価値」とは、売り上げから原材料費や外注費などの原価を引いた粗利。「付加価値労働生産性」は、「労働時間あたり(または従業員1人が)どれだけの付加価値を生み出せたか」という考え方から労働生産性を測る考え方で、次の計算式で算出できます。 付加価値労働生産性=付加価値÷労働量(従業員一人あたりの労働生産性を算出するなら従業員数。1時間ごとの労働生産性を算出するなら労働時間)
物的労働生産性
「物的労働生産性」は、商品の生産数や生産量など目に見える成果によって労働生産性を測定する考え方で、次の計算式で算出します。 物的労働生産性=生産量÷労働量(従業員数や労働時間)
企業における生産性の重要性
生産性向上の取り組みは、企業が存続していくうえで不可欠です。労働人口減少に伴って働き手を確保するのが難しくなっているうえ、ビジネスのグローバル化によって国際間の企業競争が激しており、現状の働き方を維持するだけでは生き残れないからです。
日本の生産性の現状
日本の生産性は、国際間で比較すると決して高いとはいえません。公益財団法人日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2020」によれば、2019年の調査で日本の時間あたり労働生産性はOECD加盟国37か国中21位、1人あたり労働生産性は26位です。
労働人口の減少
日本において、労働人口の減少は深刻化しています。総務省統計局が発表した「労働力調査」によれば、2020年の労働力人口(15歳以上のうち就業者と完全失業者の合計)は6878万人で、前年比で20万人減少しています。労働力人口全体が減っている中で、企業がアウトプットを増やそうとするなら、生産性向上に取り組むことは必須といえるのです。
国際競争の激化
さまざまな調査を見ると、日本の国際競争力は主要先進国の中で低迷していることがわかります。例えばスイスのビジネススクールIMDが発表した「2021年のIMD国際競争力ランキング」では、調査対象63カ国・地域のうち日本は34位。ビジネスのグローバル化が進む中で、日本国内だけでなく海外の企業と闘っていくには、労働生産性を高めて、よりアウトプットを上げていくことが求められます。
生産性が落ちる理由
日本企業で労働生産性が下がりやすい原因は、ひとことで言えば「従業員の働き方に余裕がない」ことにあります。生産性向上を目指すなら、個人に負荷のかかるワークスタイルを解決する取り組みが不可欠といえるでしょう。
長時間労働
生産性向上に取り組む企業においては、従業員数を増やさずに今までと同じアウトプットを目指そうとするケースがみられますが、必然的に1人ひとりの労働時間が増えることになります。従業員は過度な負担を強いられることになり、心身の健康を害しやすくなる。その結果、1人あたりの生産性が下がってしまうのです。
マルチタスク
従業員1人がいくつもの役割を兼任する働き方も、生産性下落の原因になり得ます。マルチタスクを行うことで身体的負荷やストレスがかかるため、思考力や判断力が低下し、作業効率が下がりやすくなるためです。
生産性向上が 企業にもたらすメリット
生産性の向上は、コスト削減や国内外においての競争力アップなどさまざまなメリットを企業にもたらだけでなく、従業員にとっても、生産性向上が実現すればワークライフバランスの改善が期待できるのです。
人手不足への対応
労働人口の減少に伴って、人手不足に悩む企業が増えていますが、従業員1人ひとりの生産性がアップすれば、同じ人数でもアウトプットを増やすことができ、人手不足にある程度対応できます。
(国際)競争力の向上
少ないインプットでより多くのアウトプットを出せるようになれば、国内はもちろん国際市場でも競争力を強めることができるでしょう。ビジネスのグローバル化が進む今だからこそ、生産性向上は急務といえます。
コスト削減
1人ひとりの生産性が高まれば、同じ時間や従業員数、資金でより多くの成果が見込めるため、コストが削減になります。コスト削減を実現できれば、より力を入れるべき事業に人材や資金を投入できるようになるのです。
ワークライフバランスの改善
従業員にとって、生産性の向上はワークライフバランスの改善を意味します。今までより短い労働時間でより質が高いアウトプットを多く出せるようになれば、長時間労働の必要がなくなり、よりよいワークライフバランスが実現できるからです。
働き方改革の実現
働き方改革における一つのゴールとして、企業にとっては「成果を出し価値を上げること」、従業員にとっては「今より幸せになること」が考えられます。生産性向上によって期待できるコスト削減や競争力アップ、従業員のワークライフバランスの改善といったメリットは、いずれも働き方改革のゴールとも密接に関わります。つまり、生産性向上は、働き方改革の成功に直結するとも言えるのです。
生産性向上のポイント
生産性を向上させようとするとき、企業の中には従業員1人ひとりの生産性にフォーカスして数値目標などを設定するケースがみられます。確かに、個々がスキルアップすることも重要ですが、個人に多くの責任が課されるストレスフルな環境のもとでは、逆に生産性が低下する恐れもあります。業務の一つひとつを見直して効率化をはかるほか、労働環境の改善によって従業員の心身を整えていくことが大切です。
業務の標準化
職場で行なわれている業務の中には、1人ひとりが自己流のやり方で行っていることも意外に多いもの。そのため完成物の品質にばらつきが生じ、結果的に時間のムダにつながっているケースも見られます。マニュアルを整備したうえでクラウド上で共有をはかるなどして、業務標準化を目指すことは不可欠です。
業務の自動化
RPA(Robotic Process Automation:データ入力や在庫確認・発注などの定型業務をAIに学習させ自動化する技術)や各種デジタルツールなどのテクノロジーを活用し、業務を自動化することも生産性向上の手段として検討したいです。これまで人が行っていた仕事を自動化できれば、ミスを減らせるだけでなく、業務にかかる時間を大幅に短縮できます。
アウトソーシングの活用
自社で行っている業務の一部を外部にアウトソーシングすることで、従業員はより重要なアウトプットにつながる仕事に取り組むことができます。業務を「社内で手がける必要があるもの」と「社外に依頼できるもの」に仕分けし、アウトソーシングを考えてみるといいでしょう。
労働環境の改善
従業員が快適に働けるよう環境や就業ルール、評価制度などを整えることも、生産性を高めるうえで重要です。特に近年はテレワークやABWで働くビジネスパーソンが増え、働き方のルールを見直す必要が生じています。また環境に関しても、従業員が生産性を高められるオフィスデザインやレイアウト、設備を取り入れることも重要になります。
適切な人材配置
各部署に適切な人材が配置されているかどうかで、企業の生産性は大きく変わります。従業員1人ひとりのスキルや志望を改めて棚卸しし、場合によっては配置転換を行って、最適な人材配置を実現したいものです。
従業員のエンゲージメントを高める
いくら業務の見直しをはかり、就労環境を整えても、従業員のモチベーションが低ければ生産性向上は見込めません。従業員がエンゲージメントを高めて仕事ができるよう、まずはサーベイなどで「自社のエンゲージメントがどんな状態にあるか」を把握し、課題があれば解決に向けて施策を打っていくことが求められます。
生産性を定量的に「見える化」する
「生産性向上」はほとんどの企業にとって命題といえますが、自社の生産性の実態について正確に把握できている企業は意外に少ないでしょう。自社の課題がわかっていないと、「この部分に課題がありそうだ」といった感覚値で生産性向上の施策を打つことになり、効果が期待できません。サーベイサービスなどを活用して、自社の生産性を定量的に「見える化」するところから始めることが大切です。
今日から始められる 生産性向上の具体的な施策
生産性向上を阻害する要因として、会議・資料作成・メール・ファイリングのいずれか、または複数に課題がある可能性は高いです。この4項目について「ムダな時間がかかっていないか」「適切に整理できているか」「スキルが不足していないか」をチェックしてみることで、生産性が上がらない根本原因が見えてくるでしょう。またこれらは、改善に着手すると効果が出やすい項目でもあります。どこから手をつけてよいかわからない場合は、まずこの4項目から検討してみましょう。
まとめ
多くの企業は、生産性に何らかの課題を抱えているはずです。その課題を解決して「生産性向上」を実現できれば、企業価値が上がるだけでなく、従業員も快適にやりがいをもって働けるようになり、働き改革を加速させることもできるのです。自社の課題を正確にとらえたうえで、生産性向上につながる取り組みを着実に実行していきましょう。