リサーチ
職場におけるペーパーレス化の課題と推進のポイント
コロナ禍の1年、テレワークが浸透しても根強く残る紙文化
新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークが急速に進んだ。ワークスタイルが変化し、紙資料に頼らない「ペーパーレス化」が求められている。コクヨ株式会社が実施した調査から見えてきたペーパーレス化の現状や課題を考察。ペーパーレス化の必要性とともに解説する。
「ペーパーレス化」とは
ペーパーレス化とは文字通り、紙をなくすことを意味しており、ビジネスシーンにおいては、でできるだけ紙の出力を行わず、文書の保管も紙ではなく電子ファイルで行うスタイルに変えるための取り組みをさします。 昨今は、新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークの実施が進んだことで、急遽、文書のデジタル化を進めている企業も増えていますが、さまざまな課題があり、ペーパーレス化が思うようにいかない現状が調査から見えてきました。
ペーパーレス化はなぜ必要なのか
近年、政府が進める働き方改革において、業務効率化につながる取り組みとしてペーパーレス化が注目を集めています。企業や行政機関の中には、具体的な数値目標を掲げてペーパーレス化を進めているケースもあります。ペーパーレス化を推進することで、以下のようなメリットが期待できます。
〈ペーパーレス化によるメリット〉
仕事の効率アップ:
書類を電子ファイル化しておけば社内で共有しやすく、似た書類を作成するときにすぐ参照できる。セキュリティ向上:
電子データはアクセス制限などをかけることが可能なため、情報を適切かつ安全に管理しやすい。働き方の多様性の実現:
紙の書類を電子データ化しておけば、離れた場所にいる社内のメンバーと共有しやすく、テレワーク制度を活用して「紙に縛られない自由な働き方」ができる。空間の付加価値が高まる:
ペーパーレス化によって、書類を収納するためのスペースを削減できるため、その場所に新たな機能をプラスすることが可能に。ペーパーレス化の実態
今回の調査では、まずオフィスにある収納棚の活用状況を聞きました。その結果、約5割の人がA「常に、必要書類や仕事に関する共通資料は収納棚に収納され、通路や棚の上には何もない状態を保持」と回答しています。一方で、約1割がB「常に収納棚に収まりきらず、通路や棚の上には書類や段ボールが山積み」、3割がC「ときどき整理整頓を行うが、一定期間後には種類や資料等が棚からあふれ、通路には段ボール書類などがある」と答えています。 つまり、今回調査にご協力いただいたワーカーが所属する企業のうち4割では、オフィスの棚から書類があふれているわけです。 働き方改革の一環としてペーパーレス化を推進する企業は増えていますが、ファイリングができていない、または不十分な企業がまだまだ多いようです。
紙資料はデスクの上と足元にたまりやすい
収納棚だけでなくワーカーのデスク周り状況も調査しました。1日の業務を終了して退社するときにデスクがどんな状態かを質問したところ、次の図のような結果が得られました。まず注目したいのが、「デスク上・足元に何もない」という人が18.4%いたことです。勤務先でフリーアドレスを採用していることも考えられますが、ファイリングが徹底されている一つの現れといえるのではないでしょうか。 一方、課題だと考えられるのは、「デスクに紙資料が山積み・足元に荷物あり」「デスクに紙資料が山積み・足元に荷物なし」と答えた約2割。デスクに紙資料が山積みだと、個人情報や機密資料が流出する恐れもあります。セキュリティの観点から見て、紙資料を置いたまま退社する習慣は見直した方がよさそうです。 また、「足元に荷物がある」と答えたワーカーが合計で3割に上ったのも気になるところです。デスク下は、非常時の第一次避難場所として活用する場所です。また、正しく座れないため姿勢が悪くなり、生産性の低下や健康被害につながる恐れもあります。目につきにくい足元は荷物が溜まりやすく放置しがちなので、荷物を置かないことを徹底することをオススメします。
1日に印刷している紙の量
「仕事で1日におおよそ何枚の紙を出力(プリントアウトやコピー)していますか?」と質問したところ、1日10枚以下が、5割超を占めています。コロナ禍をきっかけにテレワーク主体の働き方が拡がる中で、セキュリティ面の配慮からオフィス外での印刷を禁止しているという話もよく聞きます。 このような事情から、ワーカー自らが紙に頼らない働き方に変えざるを得なくなり、結果としてペーパーレス化が習慣になりつつあることが考えられます。ただし、「50~100枚未満」が6.1%、「100枚以上」が5.2%と、印刷枚数が多いワーカーも一定数みられました。業務上出力せざるを得ないケースもあるとは思いますが、紙に頼った働き方を続けているワーカーが一定数いると推測できます。
ペーパーレス化の浸透状況
新型コロナウイルスの感染拡大に伴うテレワークの推進に伴って、ペーパーレス化も一気に進むことが予測されました。しかし、職場でペーパーレス業務が進んだかどうかを問う質問では、「とても進んだと思う」と答えた人は17.2%と低い数字にとどまり、逆に「まったく進んでいない」は1割強みられました。 回答者のフリーアンサーをみると、「ハンコ文化から抜け出せていない」という声が多くありました。ハンコ必須の書類以外でも、確認済みの印として日常的に使われてきた慣習があるため、データ確認で済む場合でも、従来の確認プロセスがそのまま残っているケースが多々あるのかもしれません。 業務別にペーパーレス化の浸透状況を聞いてみると、ペーパーレス化が進んでいる業務がある一方で、推進が難しい業務も見えてきました。働き方改革で課題として挙がることが多い「会議で配布する書類」に関しても、「完全にペーパーレス」が23.5%、「紙よりもペーパーレスの方が多い」も32.7%で、ペーパーレス化の実現度は決して高いとはいえません。 なかでも「顧客などに提出する書類」に関しては、「完全に紙の運用」が16.7%と、紙が優位です。フリーアンサーには「クライアントによっては成果物を紙で納品する必要がある」という声も複数あり、顧客都合によってペーパーレス化が妨げられているケースもあるようです。
ペーパーレス化が進まない理由
テレワークが推奨されるようになって1年超を経ても、ペーパーレス化が意外に進んでいない現状がみえてきました。しかし、今回の調査でワーカーに「職場の『紙の運用』はもっと減らせると思いますか?」と質問したところ、「たくさん減らすことができると思う」という回答が32.7%、少しは減らすことができると思う」が50.8%で、合計すると8割超が「減らせる」と答えています。 多くのワーカーが積極的であるにも関わらす、実際にはペーパーレス化が進んでいないのには、以下のような理由が考えられます。
長期視点でメリットを考えられていない
前述の「オフィスにある収納棚」に関する質問では、企業規模が小さくなるほど書類がオフィスの棚にあふれている傾向がみられました。中小企業では直近の業務に集中せざるを得ず、ペーパーレス化のメリットを長期視点に立って考えることが難しいのかもしれません。
紙文化の定着
ペーパーレス化が停滞している原因として、「根強い紙文化」が挙げられます。回答者のフリーアンサーをみると、「ルーティン業務で、内容確認のためだけにデータ化された文書を印刷している」「在宅勤務だが、経費精算書類の原本を提出するためにわざわざ出社しなければならない」など、紙に頼った働き方がうかがえます。
印刷が必要かどうか取捨選択できていない
さらに、資料の取捨選択ができていないことも、ペーパーレス化が進まない一因と考えられます。回答者のフリーアンサーには、「『いつか使うかも』で資料を出力したが、1年以上使っていない」「同じ資料を個々に出力することが多い」といった声が目立ち、本当に必要かどうか吟味せずに資料を印刷するスタイルが横行していることがわかります。
自力で取り組むことが難しい
「オフィスで紙書類を減らすのにどんな施策が役立つと思いますか?」と質問したところ、興味深い傾向がみられました。 1日の業務終了時に「デスクに紙資料が山積み・足元に荷物あり」「デスクに紙資料が山積み・足元に荷物なし」の状態の人(退社時にデスクの上に資料が山積みの人)は、クリーンデスクを実践している人と比べて、「そもそも紙出力をやめる業務方法に変える」「セキュリティに配慮した廃棄方法の充実(シュレッダーの台数を増やすなど)」「定期的に整理整頓する時間をつくる」の3項目を多く挙げているのです。 つまり、クリーンデスクを実現できていないワーカーは、「会社が環境や運用ルールを変えてくれれば状況を改善できるのではないか」と考えているわけです。厳しい言い方をすれば、自ら業務プロセスを見直して紙書類を減らす工夫はできないため、会社の取り組みに頼る受け身な姿勢がみられるのです。
ペーパーレス化推進のポイント
「どうしたら『紙の運用』を減らすことができると思いますか?」という質問に対しては、「ICTツールの導入促進」「モニターなどのPC機器の充実」「PCスペックの向上」といった項目を選ぶ人が目立ちました。 これらの項目を挙げたワーカーは、テレワークを通して「印刷しなくても仕事はできる」と実感したと予想できます。デジタルを活用した働き方を便利だと感じる従業員を増やすために、ICTツール導入、周辺機器の充実がペーパーレス化推進につながる可能性は高そうです。
ペーパーレス化は今後の働き方の要を担っている
今回の調査からは、テレワークが続く中でペーパーレス化の重要性を実感しているワーカーが多いことがわかりました。ただし一方で、少なからぬ企業で紙資料に頼ったワークスタイルが残っている現状も見えてきました。 コロナ禍がまだまだ続く中で、今後もテレワークを続ける人は多いでしょう。当然ながら、紙資料を印刷したり受け渡ししたりする機会は減るため、ペーパーレス化を推進していくことは不可欠といえます。 また、前述した通り、ペーパーレス化や紙資料の電子ファイル化を進めることで、紙に縛られない自由な働き方や作業効率アップ、セキュリティ向上が見込めます。さらに、紙資料の作成を控える取り組みは、環境負荷軽減にもつながります。働き方改革や生産性向上の観点からも、SDGsの視点からも、ペーパーレス化の推進は企業が取り組むべき重点課題といえるでしょう。
ぺーパーレス化の成功のポイントは電子ファイリングにあり!
ペーパーレス化は単に紙をなくすのではなく、紙の文書を電子化してデータとして保管・活用すること...、すなわち、電子ファイリングを同時に進めなければ意味があります。そして電子ファイリングこそ、これからの時代の働き方には必要不可欠。では電子ファイリングにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
メリット1:業務の時短と効率化
資料や情報を探すことに多くの時間を費やし、本来やるべき業務に時間がさけなくなっては意味がありません。必要なデータをすぐ取り出せる環境を整えることで、個人の生産性が上がり、会社全体の生産性も向上します。
メリット2:ナレッジの蓄積と共有化
電子化したデータを部やチームの共有フォルダで保管することで、互いの資料を活用することができ、ムダな作業がなくなります。
メリット3:BCPへの対策
不足の事態においても、どこからでも文書や資料にアクセスでき、かつ必要なデータを探せることが求められます。事業を継続させるための備えとしても電子ファイリングは重要です。
メリット4:紙と比較した優位性
電子ファイリングには、「複製・削除が簡単」「編集・再利用が簡単」「共有が簡単」という3つの特性があります。多様な働き方が当たり前になりつつある今、こうした特性を最大限に活かすことが働きやすさにもつながります。
電子ファイリングを効果的に進めるポイント
電子ファイリングを実践するには、3つのポイントがあります。 ①クリアデスクトップ画面を心がける ②ファイル名やフォルダ名のつけ方を考える ③フォルダ体系を見直す ポイントの詳細こちら≫≫
実施日:2021.6.08-09実施
調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー
ツール:WEBアンケート
【図版出典】Small Survey「ペーパーレス」
河内 律子(Kawachi Ritsuko)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。