レポート

2021.11.05

経営が一丸となって組織エンゲージメントを高める!

WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.3

2021年9月16日・17日にコクヨが開催した『WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS』から、UACJ株式会社の熊谷規一郎氏が登壇した「経営が一丸となって組織エンゲージメントを高める!」のセミナーの様子をレポート。同社の「働き方改革プロジェクト」の詳細とともに、その苦労やwithコロナ時代の働き方のヒントについてコクヨのコンサルタント坂本が話を聞いた。

登壇者

■熊谷規一郎氏(株式会社UACJ ビジネスサポート本部 人事ビジネスパートナーグループ グループ長)

モデレーター:坂本崇博(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント)




「働き方改革3.0」のキーワードはエンゲージメント
経営統合により改めて会社の理念と行動指針を策定

セミナー冒頭、坂本が働き方改革のこれまでの潮流について説明。
働き方改革には大きく3段階あり、約10年前に政府の推進で始まった「働き方改革1.0」ではダイバーシティや長時間労働の是正がまず着目された。続いて「働き方改革2.0」でテレワークやICT活用が進められ、現在の「働き方改革3.0」のキーワードがやりがいや働きがい、帰属意識などを表すエンゲージメントであるという。

その「働き方改革3.0」に先駆けて取り組んできた株式会社UACJは2013年に古河スカイ株式会社と住友軽金属工業株式会社という国内トップの2社が統合してできた世界有数のアルミ圧延の会社であり、アルミ缶から自動車、航空機・ロケットまで幅広く素材を提供している。

坂本:「老舗の、しかも業界トップの企業同士が統合してできた会社ということで、新しい会社の立ち上げに近いものがありますね」

熊谷:「UACJらしさとは何か...、社員の目線を合わせていくために、企業理念やめざす姿、価値観を定めた『UACJグループ理念』と、社員が共通で持つべき行動指針『UACJウェイ』を策定しました。今まさに第二の創業期としてエンゲージメントの向上に向けた取り組みを進めている段階です」

坂本:「理念や行動指針を策定した目的は、エンゲージメント向上というのも1つですね」

熊谷:「はい。社員が自分はどんな会社に勤めているかを感じられるよう、改めて指針となる理念を定めて浸透させていこうとしているところです」




より付加価値の高い時間の使い方にシフトし、
やりがいを高める職場づくりをめざして『PJ888』が発足

続いてUACJの熊谷氏が、プロジェクト活動発足の背景や活動内容について説明した。
変化の大きい市場環境において、持続的に新たな技術を生み出し、組織も個人も成長していくためには生産性の向上が不可欠。生産性を高めることで価値創造のための時間を生み出す。そのために時間の使い方と意識改革をめざして『PJ888(ぱっぱっぱ)』が発足された。

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熊谷:「『PJ888』の発足当初は、残業時間削減に向けて、定刻にオフィスの電気を消して回る活動などをしていましたが、コクヨ様からそれでは本質的な解決にはつながらないと指摘をいただき(笑)、減らしたい業務を効率化し、その分アイデアを生み出す付加価値の高い時間を増やすことが、仕事のやりがいにもつながっていくと考え直しました。
それで、社員が自ら考えて行動することで時間をつくり出し新しい価値を創造する...、そのことをどんどん後押ししていこう、という方針で活動計画を立てていきました」

坂本:「活動を支援させていただくなかで、キーワードにある『スモールチェンジ』はかなり意識されていると感じていました。スモールチェンジというと『小さいこと』という誤解があるかもしれませんが、スピード重視でパパッとやってPDCAを素早く回していく、という意味なんですよね。それでうまくいかなければ他の活動にシフトすればいいわけですから」

熊谷:「小さく取り組んでPDCAを回すためには、効果検証するための指標が必要だという話になり、2つの柱でプロジェクトの成果指標を定めることにしました。
『生産性向上』の観点で検証が必要なのは当然ながら、生産性だけを上げても働く人が疲弊してしまっては意味がありませんので、『エンゲージメント』、つまり社員の働きがいや仕事のやりがいを表す指標も設けました。
後づけですが、生産性向上の方がいわゆる『働き方改革』としたら、エンゲージメントは『働きがい改革』の成果指標といえます」

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坂本:「その2つの指標の達成に向けて、プロジェクトはどのような体制で推進されたのでしょうか」

熊谷:「社長直下のプロジェクトとして、人事部を中心にコーポレート部門からもメンバーを選出してもらいました。メンバー構成も、若手や女性、他社での経験があり客観的に当社の現状を見ることのできるキャリア採用で入社された方人など多様でした」

坂本:「グループ会社を加えると1万人という従業員規模の企業で社長直下のプロジェクトというのは珍しいですね。社長直下のメリットには、プロジェクト初期の段階からコーポレートスタッフが横串で連携できる体制をつくれるという点があります。働き方改革となると活動が多岐にわたるので、体制はかなり重要な要素ですが、この体制を最初からつくれたのは成功要因として大きいと思います」

熊谷:「とはいえ、当時私は課長という立場でしたが、製造や営業などの現場に説明に行くと役員は聞いているのか、などという声が上がったりする点は対応に苦労しましたね」

坂本:「最終的には役員の方もうまく巻き込んで進められていましたよね。プロジェクトの名称を『PJ888(ぱっぱっぱ)』としたのは、ぱっぱっぱと進めていく、という想いを込めたのでしょうか」

熊谷:「親しみやすい名称にすることで浸透を図るねらいもありましたが、1日24時間を3つに分けて、仕事する時間、休息する時間、自己研鑽する時間それぞれを大切にできるように、という想いも込めました」




意識改革→効率化→自主改革のステップで
スモールチェンジに取り組む

働き方改革『PJ888』の推進スケジュールは、「意識改革」「時間創出環境整備」「自主改革推進」の3本柱に分けて段階的に進めていったという。

熊谷:「『意識改革』の取り組みでは、まず経営陣から『自分は何を変えるのか』を宣言してもらいました。他にも、経営陣のスケジュールを公開して会議設定をしやすくする、役職名を調べたり役職順に並び変えたりする手間をなくすために呼称を『さん』づけにするなど、やれることから取り組み、ポスターや社内報で発信することで盛り上げていきました」

坂本:「金属系メーカーというと重厚長大なピラミッド型組織で、経営陣は雲の上の存在というイメージがありますが、あえてポップな発信をすることで、『会社は変わろうとしている』ということを意識づける取り組みですね」

熊谷:「まずは上層部から意識改革を始めることで、『メンバーがやりがいを感じられるようなマネジメントを学ばなければ』とか、『自分たちでキャリアを考えて目標を決める必要があるんだ』と、マネジメント層や従業員の意識の変化につながればと考えました」

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坂本:「『やりがい』を向上させるには、まず『やりたい』をつくることが大事ですが、日本のワーカーは『やりたい』が非常に低いと言われています。学生時代に『仕事で〇〇をやりたい』といったジョブ観を持たないまま働き始める。それも、就職ではなく就社といった意識で働いていれば、『やりたい』を見つけるのは難しいですよね。
自らキャリアを考えることを『やりがい』につなげていくというのは理にかなったアプローチだと思います。効率化に向けては具体的にどのようなことに取り組まれたのでしょうか」

熊谷:「当時はまだ新型コロナウイルス感染拡大前でしたが、会議室にモニターを設置して紙資料の配布を止めたり、書類を削減して空きスペースをフリーアドレス化するなど、オフィスを軽量化し、身軽にオフィスワークができるようにしました」

「また、業務効率化のためのガイド『PJ888 Work Style Guide』を作成し、つくって終わりではなく実際に試してもらっています。コロナ以降はオンライン説明会やeラーニングも導入しています。参加者の満足度も高く、継続してほしいといった要望も多いです」

坂本:「『ガイドをつくったからやっておいてくださいね』ではなく、実際に現場で一緒にやるというところに効果があったと思います。エンゲージメントを上げるための施策のやり方が、エンゲージメントの上がらないやり方だとうまくいかないですからね。多少効率が悪くても丁寧にやった方がいい場合もあると感じました」




プロジェクト活動の成果指標として
「生産性向上」「エンゲージメント」それぞれを定量化

熊谷:「また、冒頭にもお伝えしましたがエンゲージメントの成果を測るための指標として2019年から『エンゲージメント調査』を実施しました。全体で86項目の質問に答えていくのですが、エンゲージメントが高い・低いだけでなく、何が上げ下げに影響しているのか、職場なのか、個人なのか、制度なのか、経験の問題なのかなどを細かく分析していきました。
マネジメント層は数字を重視するのでこの施策への注目度は高いです。回答率を上げるためにも対面で説明会を何度も行い、自発的に答えたくなるように若手も巻き込んで『エンゲージメントとは何か』といった解説も行いました」

坂本:「その結果80~90%というものすごく高い回答率でしたよね。やはりこういう施策は、上から命令されて『やれ』といわれることそのものがエンゲージメントを下げますから、自発的に取り組みたくなるしかけは大切だったと思います」

熊谷:「さらに調査しただけではあまり意味がないので、フィードバック説明会を開催し、自分たちの職場で上げていきたい項目を自分たちで考え、自主改革に取り組めるようにサポートしました。例えば、この項目を上げるために職場・上司・本人それぞれに何ができるのかを項目別アドバイス集としてまとめました。
また、社内に褒める文化が足りないという意見を受け、自主改革に積極的に取り組む現場を褒める機会をつくろうと、表彰制度を設けて社長自ら表彰式を行ったりもしました」

坂本:「自主改革を進めるうえで、従業員一人ひとりのことをものすごく丁寧に支えて、取り組みに対するフィードバックもきちんとされていましたよね。自主改革をやってくださいと言うだけではなかなかやってもらえないものなので、具体的に何を検討して何をすればいいのかアイデアを示してあげるとか、細やかなフィードバック説明会を開催するなど、しっかりサポートされている印象でした」

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坂本:「効果検証については『生産性向上』と『エンゲージメント』の両軸を定量化するということでしたよね。生産性向上は主に総実労働時間、エンゲージメントはエンゲージメント調査結果で測るということでしたが、3年間取り組まれた成果はどうでしたか?」

熊谷:「取り組み前と比べて間接部門で一人当たり年間66時間の労働時間削減に成功しました。またエンゲージメント指標では実施初年度と比べて3~9%向上しています。職場の活気という項目が少し上がっているのは自主改革が進んできている成果かと思いますし、経営トップ・マネジメントに関する項目が顕著に上がっているのは、冒頭お伝えした新しく定めた理念や行動指針の浸透のために経営トップが自ら行っている社員との対話会の効果も大きいのではないかと見ています」

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坂本:「エンゲージメントと生産性は相関関係が非常に強いので、両輪で活動できたのがよかったですね。とはいえ、いろいろご苦労もあったと思いますが...」

熊谷:「経営陣と現場のマネジメント層との間に意識の乖離があると感じることがありました。そこで、まず経営陣自らが変化することを宣言する、ということの重要性をご理解いただき、会社が変わろうとしている姿勢を現場に見せることで、『次はあなたたちですよ』と広げていった感じです。また、役員とのコミュニケーションの機会も増やしてお互いが大事にしていることを少しずつ理解できるようにしました」

坂本:「熊谷さんはさまざまな説明会やセミナーなどで積極的に全国の拠点を回るなど、顔が見える形でのコミュニケーションを大切にされていたように感じたのですが、直接会うことに対するこだわりはあったのでしょうか」

熊谷:「これまでの経験上、会社として大切なことを発信する際には出向くことが自然というか、当然のように感じていて、例えば経営統合などで制度説明をする際などは、資料を掲示するだけでは伝わらない、直接会って話さないと始まらないと感じていました。
また、コクヨの坂本さんという社内にはいないタイプの人と会ってもらいたかったのも大きいですね。坂本さんのパ仕事術などを実際に見てもらい刺激を受ける、それはやっぱりリアルじゃないとダメだと思ったんです」

坂本:「オフィス改革を始められる会社の方にはまずコクヨのオフィスを見ていただいているのですが、これから変わろうとするときに現場に社外の人間が来て話したり、普段と違うオフィスを見るなど、新しいものを体験することが刺激になったり、ロールモデルになることもありますよね。
今後に向けてはどのような展望を持っているのでしょうか」

熊谷:「『PJ888』の活動は2020年度でいったん終了しているのですが、オフィス改革や風土づくりといった活動はそれぞれの部門に引き継がれています。私もこの活動を通じてエンゲージメントがポイントだったと感じているので、エンゲージメント向上につながる人事施策の充実、例えばキャリア面談や目標設定などに取り組んでいきたいと思っています」

坂本:「プロジェクトの思想が今後の部門での活動に引き継がれていくわけですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました」



【図版出典】「経営が一丸となって組織エンゲージメントを高める! 信頼関係をKPIに働き方改革を3年間推進し続けてきたリーダーの本音」セミナー投影資料

文/中原絵里子