レポート

2021.11.08

金融機関がグループ全体で取り組む改革実況レポート!

WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.4

2021年9月16日・17日にコクヨが開催した『WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS』から、株式会社新生銀行の松戸佳子氏が登壇した「金融機関がグループ全体で取り組む改革実況レポート!」のセミナーの様子をレポート。コロナ禍で進めた同社の改革についてコクヨのコンサルタント小笠原が話を聞いた。

登壇者

■松戸佳子氏(株式会社新生銀行 グループ組織戦略部 シニアマネージャー)

モデレーター:小笠原純女(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント) 




間接部門統合を契機にスタートした働き方改革を
コロナの感染拡大を受けてドライブをかける

セミナーの冒頭は会社紹介からスタート。新生銀行グループは単体で約2200名、グループ全体で約5600名の総合金融グループであり、個人向けと法人向けの大きく2つの事業を展開している。

松戸:「新生銀行グループでは現在中期経営戦略で『金融リ・デザイン』という改革を推進しています。働き方改革もその一環として進めていたのを、新型コロナウイルスの感染拡大を契機として『働き方リ・デザイン』と再定義し、改革を加速させて取り組むことにしました」

小笠原:「コロナ禍になる前から取り組まれてきた働き方改革について、少し紹介いただけますか?」

松戸:「2017年に『プロジェクトFit』を発足させました。このコンセプトは『私にフィット・私達にフィット・私らしく新生らしく働く環境と文化を作ります』というもので、これが今のプロジェクトの前身です。
プロジェクト立ち上げ以前も人事や総務といった部署単位で制度やツールの拡充といった施策を進めていましたが、グループ各社の間接機能が統合されて働く環境や文化の異なるグループ会社のメンバーが日本橋オフィスに集まることになったのを機に、部署ごとではなく横串を通して一緒に考えようと動き出した、というのが『プロジェクトFit』発足の背景です」

2018年にはライフサポート休職制度の導入や兼業・副業の解禁、在宅勤務制度の導入を行い、2019年には新しい働き方の試行やオフィススペースの有効活用のためにノートパソコンの配布と合わせて法人営業で先行してABWとサテライトオフィスを導入。ドレスコードの廃止などを行った。2020年になるとプロジェクトの名称を『新型コロナ対応タスクフォース』と変え、オフィスの全面ABW化など取り組みを一気に進めているという。

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松戸:「タスクフォースでは足元の現状課題への対応を考えて業務環境の整備を行うフォーキャスティング型の『ストリーム1』と、コロナ後も見据えて中長期的な視点に立って将来のあるべき姿から今を考え、現在のビジネス戦略に生かしていくバックキャスティング型の『ストリーム2』、この2つの軸を並走させながら進めています。このうちのストリーム1の活動についてご説明します」

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リモートワークの実施に関する課題を抽出し、
テーマ別に分類して解決策を整理

松戸:「『ストリーム1』の活動として、新型コロナウイルス感染防止を踏まえた在宅ワークの悩みを社員にヒヤリングしたところ、勤怠管理はどうするのか、自宅にはWi-Fiや机などの環境が整っていない、紙の書類やハンコが必要だから出社が必要など、課題が山積みであることがわかりました」

「それらの課題を分類したところ『人事・コミュニケーション』『オフィス』」『事務・コールセンター業務』『情報通信・インフラ整備』「『業務フロー電子化』『契約書の電子化』の大きく6つのテーマに分けられました」

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松戸:「見えてきた課題に対して、関連する複数の部署が分科会としてチームを組み、グループ会社のメンバーも加え、横断的に解決策を考えることにしました」

「具体的には、『人事・コミュニケーション』分科会では、在宅勤務のガイドラインの改訂、コミュニケーション低下対応として1on1や社内SNSの導入。『オフィス』分科会では、メインオフィス集約を検討。ABWやサテライトオフィスの導入などを実施しました。『事務・コールセンター』分科会では、顧客情報を扱うため制約が多いものの、デジタルツールの活用により在宅勤務で行える業務範囲の拡大にトライしています。『情報通信・インフラ整備』分科会では、ノートパソコンとスマートフォンの配布や、会議ツールとしてTeamsをグループに展開し、リモートワークでも社内会議に参加できるようにしました」

「他にもペーパーレス化や電子契約システムの導入を実施していますが、システムをなるべく共通にしてグループ間での決裁や契約をスムーズに行えるようにしました」

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松戸:「ハード面の整備はやることがかなり明確になりましたが、施策は社員一人ひとりが意義を理解し、自分ごととして行動しなければ意味がありません。そこで、『Workstyleリ・デザイン』『Workplaceリ・デザイン』『Work processリ・デザイン』の3つに整理し、この3つは密接に結びつくもの、情報通信などのインフラ整備は土台になるものと位置づけてビジュアルで伝わるようにまとめました」

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3つの改革の考え方と施策を社員に浸透させる

小笠原:「3つの改革を一緒に進めていくのだというプロジェクトの意思が感じられますね。では、このビジュアルを使って社員の方にどのように伝えていったのですか」

松戸:「3つのテーマの考え方と具体策をセットにして、それぞれの施策は何のためにやるのかがわかるように発信しました」

「例えば、『Workstyleリ・デザイン』の考え方は、『オフィスに集まらなくてもできる仕事をわざわざ通勤時間と体力を使ってオフィスでやる必要はない』。そのため、施策としてリモートワークを前提としたルールと手当ての見直しをします、リモートでもコミュニケーションが活性化するツールを導入します、と説明しました」

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松戸:「『Workplaceリ・デザイン』では、生産性高く働くために働く場所の選択肢を拡充します。オフィスのあり方を捉え直して、オフィスはグループ内のコラボレーションやビジネスパートナーと協業する場所と位置づけます。
そのため、社内のABW化を進め、サテライトオフィスを拡充し、さらにオフィススペースの使い方を見直して将来的な拠点配置の最適化をしていきます、と説明しました」

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松戸:「『Work processリ・デザイン』は、ハンコと紙によって発生する業務のムダを排除して、ペーパーレス化を起点とした業務改善を継続していきます。そのため、電子署名やワークフローシステムの拡充をすすめます、と発信しました」

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働き方改革はみんながハッピーになるための取り組み
ニュースレターやイメージ動画でメッセージを浸透させる

小笠原:「改革のポイントは、この4つだと思います。

  • ①課題抽出のフェーズで社員の声を収集
  • ②課題整理のフェーズで課題を整理
  • ③解決策検討のフェーズで関係部門横断プロジェクトで、解決策立案に取り組み
  • ④最後の施策浸透フェーズで社員が自分ごととして捉えられるように進める

では、社内への浸透施策などは、どのようなに社員を巻き込んでいかれたのですか」

松戸:「グループ共通のポータルサイトにニュースレター形式で活動の進捗を掲載して、『特定の会社や部署だけでなくグループ全体、あなた自身のこと』と認識してもらうようにしました。働き方改革というのは、本来みんながハッピーになるための取り組みのはずなので、ワクワク感を持って楽しく読んでもらえることを意識してつくりました」

小笠原:「ワクワク感という言葉がありましたが、写真にちょっとした吹き出しを入れるなど楽しそうに進めていることが伝わると感じましたし、部長陣も楽しそうに積極的に協力してくださっている雰囲気でしたよね」

松戸:「ニュースレターの発信だけではなく、自宅やサテライトオフィスも含めたABWの働き方をイメージできるように動画も作成しました。見知らぬ俳優さんに演じてもらってもリアリティがないので、グループ横断でさまざまな部門のメンバーに出演してもらい、親近感を持って見てもらえるようにしました」

小笠原:「文字だけではなかなか伝わらない部分もあると思いますし、こうした動画でさまざまな働き方を見ることで、自分の働き方はこの人と一緒だなとイメージすることができますよね」

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松戸:「ABW導入に向けて管理職対象にマネジメントに関する不安と解決策を考えるワークショップも開催しました。初めての取り組みにはどうしても不安や反発がつきものなので、この場で思い切り意見を出してもらうことで、こんな風に思っていたのは自分だけじゃないと安心できて、新しい働き方への理解が深まったように思います」

「また、新しい場所への移転ではなくオフィスにいながらのリニューアルなので、そのスケジュールに合わせて段階的に、全社員対象としたオンラインセミナーを実施しているところです。新しい働き方への理解と使い方の説明をセットで伝えています」

最後に小笠原が、新生銀行グループが改革をうまく進められているポイントを3点にまとめてセミナーを締めくくった。

1.部門の垣根を越えたプロジェクト体制づくり
担当部署ごとに施策を打ち出すのではなく、社員が自分事として捉えられるように社員目線で改革を進めている点。特に部長クラスが主担当のようにプロジェクトに参加しているため決定が早い。

2.社員の巻き込み施策の徹底
反対意見の人もいるなかでその意見に耳を傾け、説明会やヒヤリングなど対話の機会を多く設けて不安や不満をすくい上げ、ただ掲示して終わりではないさまざまな広報手法で情報発信をするなど、社員をうまく巻き込んでいる点。

3.+α信念を持ったメンバーの改革担当継続
プロジェクトメンバーが改革を自分事として、この改革が進めば会社がもっと良くなると信じて取り組んでいる点。



【図版出典】「金融機関がグループ全体で取り組む改革実況レポート!「働き方リ・デザイン」のためにオフィスABW化推進を加速する3本柱の改革」セミナー投影資料

文/中原絵里子