レポート
今こそ見直すことに価値がある、ファイリング改革!
WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.12
2021年9月16日・17日にコクヨが開催した『WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS』から、コクヨ株式会のワークスタイルコンサルタント古川が登壇した「今こそ見直すことに価値がある、ファイリング改革!」の様子をレポート。働き方改革を進めるにあたっての「ファイリング」の重要性や、紙書類・電子ファイルなど文書管理のコツについてレクチャーした。
登壇者
古川貴美子(コクヨ株式会社 ワークスタイルイコンサルタント)
ファイリングは一番身近な働き方改革
ワークスタイルイノベーション部では、企業の働き方改革を幅広くサポートしているが、なかでも「ファイリング」(紙書類や電子データなどの情報を適切に管理すること)に関するコンサルティングを強みとしている。セミナーの導入として、ファイリングと働き方改革の関係について説明した。 みなさんは日々、生産性向上に取り組んでいらっしゃるでしょう。その際に、多くの企業では、残業削減など時間・コストを下げることに注力しがちです。しかし、このやり方だけでは生産性を著しく高めるのは難しく、成果向上にはつながらないでしょう。 そこで、少し視点を変えて考えてみましょう。企業として最も大切なのは、成果を上げることです。成果は「生産性×時間・コスト」という数式で説明できます。つまり、時間・コストを削減するのではなく、生産性向上そのものにフォーカスすることが重要なのです。 私はさまざまなお客様の働き方改革をお手伝いさせていただいていますが、重要なのは従業員一人ひとりの時間の使い方を変えていくことだと考えています。例えば、欲しい情報を探すのに時間をかけていては、新しいコト・モノを創出しづらく、成果を上げることができません。 しかし、ファイリングの方法を改善して必要な情報をすぐ検索できるようになれば、それだけでも時間を生み出すことにつながります。同じ時間で高い成果が出せる状態を意識しながら、働き方の変革に取り組んでいきましょう。ファイリング実践で、業務効率化が期待できる
続いて、ファイリングを考える基本となる「ドキュメントライフサイクル」の考え方と、ファイリングに取り組むことで得られるメリットについて解説した。 ファイリングのメリットをお伝えする前に、まずはファイリングに取り組むうえで重要な「ドキュメントライフサイクル」という考え方についてご紹介しましょう。これは、紙の書類や電子データが作成されてから廃棄されるまでのサイクルを指します。 例えば紙の書類なら、文書をつくる(作成・活用)→近くにないと業務効率が落ちる書類を執務内キャビネットで管理(保管)→保存期間が決まっていて廃棄できないが倉庫や書庫で管理可能な情報(保存)→法律や社内規程で定められた保存期間が過ぎたら機密書類であれば溶解処理や細断を行う(廃棄)、といった流れで進めます。このドキュメントライフサイクルを滞留させないことは、とても大切です。 なお、法律や社内規程で定められているトータルの保存年限は変えずに、執務スペースでの保管年数を短くし、外部での保存年数を長くするのも一案です。このやり方によって、オフィスにおける書類削減を実現しやすくなります。 ファイリングに取り組み、ドキュメントライフサイクルを着実に回すことには、さまざまなメリットがあります。大きく分ければ、以下の4つに集約できます。 ①業務効率・業務品質の向上 ②セキュリティの向上 ③フレキシブルな働き方の推進 ④書類保管スペースの効率化 中でも①の「業務効率・業務品質の向上」は、働き方改革を進めるのに役立ちます。ここで私が特に強調したいのが、「業務効率の向上」です。 コクヨの調査では、平均的なビジネスパーソンは、情報の検索・保管・引き継ぎに1日30分かけています。つまり、書類や電子データを探したり収納したりするのに、1日30分費やしているわけです。 これを1か月実働20日間で計算すると、1か月10時間、年間で考えると120時間です。しかし、ファイリングに取り組んでこの時間を半減できれば、月に5時間、年間60時間を生み出すことが可能になり、この時間で新しい価値をつくることも可能になるのです。 日々、情報を元に情報をつくり出す仕事をしているので、ファイリングの改善は一番身近にできる働き方改革と言えます。 ④の「書類保管スペースの効率化」は、限られたオフィス空間を有効に使うのに役立ちます。改善例を1つご紹介しましょう。 あるお客様のオフィスでは、ワーカーの方が帰宅するときにもデスクの上と下に書類があふれていました。また、デスクの左右にはデスクワゴンが1つずつ置かれ、あまり見ない書類がぎっしり収納されていました。 そこでお客様とご相談し、ワーカー一人ひとりが保管するワゴンを1つに減らしました。すると空きスペースが生まれたので、オフィスをレイアウトし直して新たに打ち合わせスペースをつくることができました。オフィス空間を付加価値の高い場へと改善することに成功したのです。ファイリングを実現するための3つのアプローチ
続いて、社内でのファイリング実践に役立つ「3つのアプローチ」を紹介した。 ファイリングのメリットは数多くありますが、実践しようとすると現場の従業員にかなり負担がかかるのも事実です。私たちはファイリングをお考えのお客様に向けて、「3つのアプローチで取り組むことが重要です」と、お伝えしています。政治学的アプローチ
従業員の中には、ファイリングに対して前向きになれない人が必ずいます。このような人にアクションを起こしてもらうためには、トップの方によるメッセージを記事化して社内ポータルサイトで発信したり、取り組み推進に向けてプロジェクトを立ち上げるなどして、会社としての本気度をアピールすることが大切です。
論理学的アプローチ
「書類を現状の70%に削減」といった目標だけでなく、いつ・誰が・何をしたらよいかなどの具体的な手順を文書にまとめ、社内で共有しましょう。
心理学的アプローチ
「忙しいのに時間をかけてファイリングをやりたくない」という従業員の方に、「なぜできないのですか?」と聞いてもやる気を出してもらうのは難しいでしょう。「どうしたらできるでしょうか?」と問いかけ、一緒に課題解決に取り組んでいくことが大切です。また、「ここまではできた」という成果を見える化したり、できているところをほめたりすることも、心理学的アプローチとして重要です。
すぐにでも始められる「情報推理術」
ここからは、紙文書と電子データに分けてファイリングの実践テクニックを披露した。紙文書の整理術:デスクまわりの
紙文書の整理術として、まず徹底したいのが「クリアデスク」です。デスクの上・下に書類は置かず、よく使う書類もファイルボックスにまとめ、立てて保管しましょう。ちなみにこのファイルボックスは、帰宅するときにはデスクワゴンの手前に収納するのがお勧めです。 デスク周りに書類がたまっていると、どこにどの書類があるのかがわかりにくく、たとえ紛失してもわからないはずです。「自分はどこに何があるかわかっているから大丈夫」という人もいるかもしれませんが、その人が休暇をとる場合にほかの人への引き継ぎがうまくいきません。「書類は会社の資産であり、自分は担当者として管理している」という意識を持って整理に取り組みましょう。 また、デスクの上下に書類があると、作業場所が限られるため、ワーカーは悪い姿勢で仕事をしなければならず、業務効率が下がります。地震のときにも、デスクの下に緊急避難ができません。健康面からも安全面からも、デスク周りには書類を置かないルールを徹底しましょう。
紙文書の整理術:キャビネット
キャビネットには、バインダーに綴じた書類を立てて収納するのが基本です。書類を綴じずに横積みで置くと取り出しにくいうえ、紛失しても気づきにくいはずです。また、キャビネットの上にバインダーを置くのも、落ちてくるリスクがあるのでお勧めできません。 バインダーの背表紙にはタイトルを記入しますが、書類の内容や作成日・作成者名に加えて、「いつ廃棄するか」「いつ倉庫に移動させるか」も書いておくのがお勧めです。このようにしておけば、書類の棚卸しのときにすぐわかって便利です。 なお、同系統の書類は同じファイルにまとめるなど、常に整理・整頓に努めましょう。整理・整頓を徹底すれば、必要な書類がすぐ取り出せて、業務効率がアップします。
電子データの整理術:クリアデスクトップ
電子データも紙文書と同じで、デスクトップにファイルやフォルダが散乱していると、必要な情報がどこにあるかわからず、探すのに時間がかかってしまいます。 また、デスクトップにデータがあるということは情報共有ができていないので、ほかの人に引き継ぐのにも苦労するはずです。共有サーバーにデータを移動させ、デスクトップの整理整頓を徹底しましょう。
電子データの整理術:ファイル名の標準化
電子ファイル名の統一ルールがないお客様は意外に多いです。しかし、統一ルールをつくっておけば検索性が上がり、情報が探しやすくなります。ぜひ部署内で統一ルールをつくっておきましょう。 基本ルールとしてお勧めしたいのが、タイトルの前か後に日付をつけることです。「フォルダを開けるとファイルが日付順に並んでいる」という状態を実現したいなら、タイトルの前に日付をつけます。一方、「種類順にファイルが並んでいる方が都合がよい」という人は、タイトルの後に日付を入れる方がよいでしょう。なお、日付は6ケタか8ケタの半角数字で入れるのが一般的です。どちらでもよいですが、部署内でルールを決めて統一しましょう。
電子データの整理術:フォルダ名の標準化
フォルダ名を標準化しておくことも、検索性アップに役立ちます。具体的にはこの2つのうちいずれかのルールでタイトルづけを行うとよいでしょう。 ①頭に番号をつける よく使う順に若い番号をつけておくと、使用頻度の高いフォルダから上の方に並ぶので便利です。番号をつけないと、フォルダは五十音順に並ぶことになり、あまり使わないフォルダが上位に来ることも。番号をつける際は、後から新しいフォルダを差し挟めるよう、10番もしくは100番ごとに番号を振るのがお勧めです。 ②頭にカナをつける 例えば顧客情報などをフォルダ管理したい場合は、アイウエオ順に並ぶよう、頭にカナをつけるのも1つの方法です。漢字だと、音読み・訓読みの関係で五十音順に並ばない場合もあるので、カタカナの方がよいでしょう。
まとめ
コロナ禍によって、メンバー同士が離れた場所で働く機会が増えつつある今、情報を適切に管理・共有することは非常に重要です。ファイリングに取り組んで不要な紙文書を整理したり、ファイルサーバーの改善を行うことは、情報共有に役立つだけでなく、業務の標準化や作業効率低下の防止、セキュリティ確保、防災、コストダウンなどさまざまなメリットに直結します。この積み重ねによって組織力が強化され、企業として成果を生み出していけるはずです。 ファイリングは非常に手間がかかる地道な取り組みなので、どうしても後回しになりがちです。しかし、早く手をつければ大きなメリットを感じられるでしょう。情報の取り扱い方を変えることは、企業にとって変革の基盤となります。そのことを意識して、計画的に、着実に取り組んでいただければと思います。 【図版出典】「今こそ見直すことに価値がある、ファイリング改革!」セミナー投影資料- 社員の個性を掛け合わせ企業競争力を高める本社移転!
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