レポート
越境体験が個人・組織にもたらす価値とは?
Cross×Campダイアローグ:組織の多様性を活かす「これからの大人のマナビ」の探究1
さらなるグローバル化、オープンイノベーション化が進むこれからの時代は社会人の学びも「社内で深く学ぶ」から「社外で広く学ぶ」への転換が求められている。そこでコクヨ株式会社と株式会社セルムでは、社会人のオープンな学びの場「Cross×Camp」を構想。「組織の多様性を活かす『これからの大人のマナビ』の探究」と題して、2022年1月28日に第1回目のトークセッションを行った。テーマは「越境体験」。越境体験・越境学習のパイオニア、実践者を迎え、越境体験が個人・組織にもたらす価値について語り合った。
登壇者
■小沼大地氏(NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事) ■高田健二氏(海士町グローカルフロンティア大使/JICA職員)
越境学習・越境体験とは?
トークセッションの冒頭では、越境学習の専門家である法政大学大学院の石山恒貴教授による「越境学習」の定義が紹介され、トークセッションのテーマが共有された。 【越境学習とは】 自分自身の所属やキャリア、これまで慣れ親しんできた考え方などの"境界"を超えて、新しい機会に触れることで学び、自明で暗黙の前提となっていた価値観の変容があること。 続いて、小沼氏、高田氏、中村氏がそれぞれ自己紹介を行った。 小沼: 現在はNPO法人の代表を務めていますが、少々変わったキャリアで今に至ります。まず、大学卒業後、JICAの青年海外協力隊として中東のシリアに2年間派遣されました。帰国後はマッキンゼー・アンド・カンパニーに勤め、その後、企業と国際協力NGOとの結節点を作りたいと考え、NPO法人クロスフィールズを立ち上げました。クロスフィールズでは、働く人と社会とをつなぐ越境プログラムを提供しています。 その一つ「留職プログラム」は、企業・組織の若手を国内外のNGOやスタートアップ、社会的企業などに派遣する人材育成プログラムです。また、管理職向けの「社会課題体感フィールドスタディ」は、実際にインドのスラム街や福島県南相馬市、島根県海士町などといった地域を訪れるプログラムです。 越境体験・越境学習は、自分自身の人生においても事業としても取り組んできたライフテーマなので、今日のこの場を楽しみにしてきました。 高田: 大学卒業後に就職して以来、26年間ずっとJICAに所属しています。肩書きにあるように海士町グローカルフロンティア大使も務めています。海士町は日本で一番イケている自治体の一つ。JICAの職員として2017年に出向し、2年間の予定が2回も延長していただきました。 海士町以外にも、昨今はいろいろなところからお声がけをいただいており、これは個人で続けてきた越境体験のおかげだと感じています。今日は皆さんとのトークを通して私自身も学びたいと思っています。 中村: 2018年に新卒で入社し、現在、社会人4年目です。大学では建築を学んでいましたが、コクヨではワークスタイルコンサルタントとして民間企業や官公庁の働き方の支援をしています。 私自身、越境体験に興味はあるのですが、実際はなかなか機会を得られていないのが実情です。今日は、そんな私からお二人に、越境について3つの質問をしながら進めていきたいと思います。
Q1:越境体験を始めたきっかけを教えてください。
「やってみたら面白かった」が次の一歩につながる
小沼: 越境体験って、会社や組織を超えるだけじゃなくて、割と範囲が広い概念だと思うんです。要は、本人が越境体験と捉えるかどうか、なのかなと。 僕の場合、最初の越境体験はJICAでシリアに行ったことですね。22歳のときでしたが、自分がそれまで経験してきたのとはまったく違う世界で、最初は衝撃を受けました。そこでいろんな出会いがあって、面白いことができて、新しいことに挑戦するのって楽しいなと体感したんです。 越境体験が自分にとって成功体験になったことで、新しいフィールドに挑戦すること、いろんな人に会ってみること、どんどん行動することが、人生における当たり前になっていきました。 中村: なるほど。私にとっての越境体験や越境学習って、組織から機会を与えられて取り組むイメージが強くて。今日こうして小沼さんや高田さんとお話をするのもコクヨという組織を通して得た機会ですし、組織にどう役立つか、みたいな組織の枠内で考えがちでした。 小沼: それも大事な視点だと思います。組織の中でルーティン以上のことをやるのも、越境体験の一つです。 前出の法政大学大学院の石山恒貴先生は、『行って帰ってくるのが越境だ』とおっしゃっているんです。社会人に当てはめると、行くだけじゃなくて、戻ってから越境体験をどう組織に活かすかが重要だ、ということ。 自分が所属する組織にどのように還元できるだろうかと考えたり、それを行動に移したりすることは、まさに越境体験が生み出す価値だと思います。
「人とちょっと違ったことをしてみる」が価値になる
高田: 「私の最初の越境体験は、大学時代ですね。静岡の浜松で育ち、東京の大学に進学したのですが、大学では周囲にいろんな経験をしている人がいました。スポーツの強い大学だったこともあり、なかにはオリンピッククラスの人も。そういう"すごい人"がたくさんいる場に身を置いていると、心地良くないんですよね。 自分にはどういう価値が生み出せるんだろう...とモヤモヤ考えるなかで、今からではオリンピック選手にはなれないけど、経験を積むことで価値がつくれるんじゃないかと考え、いろいろなことをやってみました。 その一つが災害時などに緊急援助を行う学生団体で、ダメもとで企業に協力を依頼したら応えてくれた...ということも。そうした経験を通して、自分たちの思いを伝えたら動いてくれる大人がいるんだ、行動を起こせば協力してくれる人がいるんだ、という成功体験が得られました。 加えて、自分がやってきた活動を評価してもらう機会があり、評価されたことで改めて価値に気づけたという部分もありました。 小沼: 日本には挑戦する人が少ないから、ちょっと変わったことをすると、意外と評価されるんですよね。すると目立つし、目立つとまた新しいチャンスが舞い込んでくる。そうやって雪だるま式に大きくなっていく感じがします。 高田: 人とちょっと違ったことをするというのは、すごく価値があることだと思っています。JICAでは英語力が求められますし、語学に長けた人がたくさんいます。でも、相手が英語を話さない場合など、語学力だけでは乗り切れないシーンも多々あります。 どうやってコミュニケーションを取るかを考えた結果、私が習得したのがマジック。これがコミュニケーションに抜群に効くんです(笑)。
大事なのは、一歩踏み出すこと
中村: まずはやってみることで変わっていく、人と違うことをやってみること、強みや武器をもつことが大事...ということが見えてきました。私も自分自身の成長、経験拡張のヒントにしたいと思います。 高田: 中村さんのように、こういう話を聞いて自分も何かやってみようと心が起動する人って、10人に1人くらいなんですよね。私がマジックの話をして、じゃあ自分もやってみますと言うのは10人に1人くらい。でも、実際にやってみる人はほとんどいません。 小沼: 本当にそうなんですよ。今日、このトークを聞いてくれている人の中で、いい話だったなと思ってくれる方が6割いたとして、実際に何かしら越境的な行動に踏み出す方は残念ながら多くはないと思うんです。その一歩が踏み出せるかどうか、ですよね。 高田: 一歩踏み出すと、いろんなものが変わってくる。踏み出す人が絶対的に少ないから、踏み出すだけでも価値が出るんですよね。
Q2:越境体験をして自分自身に起こった変化はなんですか?
越境体験により他者評価も自己肯定感も高くなる
高田: 周りが評価してくれるようになりました。私は本業であるJICAの職員だけでなく、海士町のグローカルフロンティア大使、島根県親善大使、島根県立大学の客員教授などを務めているのですが、越境体験を積み上げたからこそこうしたオファーがあったのだと思っています。 自分がやりたいからやってきた越境体験を評価してくれる人がいるというのは、最初は驚きでしたね。 中村:私も最近になって、周りの評価って大事だなと思うようになりました。評価されることで見えてくるものに気づいたというか。 最初は、評価されることをどこか恐れていたんです。建築を学んだうえでコンサルタントになったという珍しい経歴もあって、自分の努力をいつ誰が評価してくれるんだろう...という漠然とした不安がありました。 小沼: 他者評価の話が出ましたが、越境体験の価値の一つが、自己肯定感を高めることだと思っています。僕の場合はシリアに行ったことで、自分とは違う価値観を知ることができました。 日本にいたときは、偏差値が高い方がいいとか、いい会社に入った方がいいとか、そういう物言わぬ物差しがドンとあった。ところがシリアに行ったら、日本人よりずっと少ない年収でも、みんな笑っていて、僕らよりずっと幸せそうだったんですよね。 そういうまったく別の価値観に触れた経験があると、たとえ周囲から評価されなくても、自分の物差しで自分を評価・判断できる。結果的に、自己肯定感が高まると思うんです。だから、自分のなかにいろんな物差しをもっておくことって、とても大事だなと。 中村さんのケースで言うと、建築士としての物差しとコクヨ社員としての物差しの両方をもっておくことが大事なのかなと思います。 高田: 私なんて、周囲から評価されたのは40代半ばくらいからですよ。言いたいヤツは何とでも言え、自分はやりたいことをやり続けるんだ...と行動してきた結果、気づいたら評価されるステージになっていた...という感じです。バズるのに15年くらいかかりました(笑)。
越境は生存戦略的ライフハック。 枠内だけではガラパゴス化してしまう
小沼: 変わり者であり続けた、あいつ何やってるんだ...を耐え凌げたのはすごいですね。高田さんはなぜ、自分らしくあり続けられたんですか? 高田: それは、主語を"私"にしているからですね。会社・組織が...ではなく、自分はこれをやりたいんだと。それがブレなかったから、たとえ評価されなくても突き進めたんだと思います。 小沼: いやあ、それは強いですね。 高田: 会社・組織は僕個人の人生すべてを最後まで面倒見てくれないですから。組織内では認められていても、ガラパゴス化していて、一歩外に出たらまったく使い物にならない...という状況にはなりたくないなと。どこに行っても"高田健二"で勝負できるようになりたいと考えたら、やるべきことは自ずと越境になるんですよね。 今日この場で話すことを含めて、枠を超えていろんなことをやっていかないと、まずいだろうなという危機感がベースにあります。 小沼: なるほど、生存戦略的越境なんですね。 高田: 言われてみると、私にとって越境は、ライフハック的な位置づけなのかもしれません。マジックをやっている間は、会話はないんですよ。乾杯してちょっと話して、マジックして終わり。当然、え、あの人何者!?...ってなりますよね。いい加減にしろと気を悪くする人もいれば、おもしろがってくれる人もいる。後者のような人を大切にして人間関係を深めていくと、自ずと周囲に心地良い人が集まる環境が作れるんですよね。 職場以外にそういう居場所があることって、大事だと思うんです。失敗して落ち込んだときも、そこで癒されて元気を回復して、またご機嫌モードになれる。退避場所としての越境、というのもあるのかなと思いますね。
越境者にとっては大事なのは、 安心して戻れる場所があること
中村: 退避場所としての越境っていいですね。ただ逃げるんじゃなくて、こういう目的のときはここ...と自分の意思で選べるよう、休む環境の選択肢を増やすのは大切だと思います。 小沼: 中村さんにとって、退避場所は? 中村: 今いる部署ですね。部のメンバーには恵まれているなと感じます。この相談だったらあの人...みたいなルートがいくつもあるので、うまく切り替えられています。そういう意味でも、コクヨは居心地がいいです。 小沼: 越境体験って、送り出す側もカギなんですよね。行って帰ってきて組織に価値を還元することを考えると、組織のリーダーが行っておいで、その経験を聞かせてねと、越境する人の背中を押すことが大事。そうやって送り出してもらうと、越境体験が成長につながるんだと、越境する人も安心できると思うんです。 一方、送り出す側の理解がないと、越境した人は変わり者扱いで終わってしまいます。安心して戻ってこられる場所があることは、越境する人にとっては本当に大事。 だから中村さんにとって心理的な退避場所が職場だというのは、越境に最適な環境だということです。
"Chance"に "Try"することが"Change "につながる
中村: 私も越境体験を望めば背中を押してもらえる環境にいると思うのですが、そもそも私のような20〜30代の社会人は、どうやって越境の機会を得ることができるのでしょうか。チャンスの掴み方について、アドバイスをいただけますか? 高田: 知人がやっているプラスティーという学習塾があるのですが、chanCeのCにTryのTを組み合わせるとGになってchanGeになる、つまり、チャンスに挑戦することで変化が起こる、という意味が込められているんです。 私自身、このT(Try)をプラスすることを大事にしてきました。具体的に言うと、私のことをよく知っている人から、この人だったら合うんじゃないかと人を紹介してもらえる関係性を築くことですね。 人を紹介していただくことで生まれるチャンスにトライすることが、その先でチェンジが起こることにつながっていると思います。 中村: チャンスにトライすることがチェンジにつながる...素敵ですね! ありがとうございます。
ちょっとだけ変えてみる。 その小さな変化が、どんどん大きくなる
中村: 小沼さんのクロスフィールズでは留職プログラムを実施されてきましたが、そこに参加する方々はどうやってチャンスを掴んだり飛び込んだりされているのですか? 小沼: 留職プログラムに挑戦するのはけっこう大きなアクションですが、いきなりそういうことをする人は少ないですね。留職プログラムの参加者って、ちょっとだけ変わったことをしてきた人が多いんです。 例えば、男性で育休を取ったとか、学生時代に留学していたとか、普通とは少し違うことをやることに対して成功体験をもっている。小さなことを積み重ねているうちに、大きな越境に至っていた...という感じです。とはいえ、留職プログラムも一つのきっかけでしかなく、そこで終わりではありません。 留職プログラムでインドに行ったことをきっかけに、社内でインド向けのビジネスを立ち上げて、今、リーダーを務めている人もいます。 中村: みんな最初は、小さなことから始めていると? 小沼: はい。小さなことをやってみたら、楽しかったり自分の成長を感じられたりして、それが成功体験になってハマっていく...というケースが多いです。ですから、"ちょっとだけ変えてみる"というのがキーワードかなと。 例えば、帰り道をちょっと変えてみるとか、高田さんの話を聞いてマジックをやってみるとか、そうした小さな変化が起きると、次に2つの変化が起きるんです。 1つが、長期的な変化です。今、この場で方向の角度を1度変えると、数年後には大きな変化になっていますよね。今は見えないくらい小さな変化でも、長い目で見ると大きな変化につながるということです。 もう1つの変化が、1回変わると、その後もどんどん変わっていく...ということ。小さなことからどんどん大きく、が一つのポイントになるのかなと思います。
越境先では、自分の「正しい」が正しいとは限らない。 大事なのは、流儀や価値観に染まってみること
高田: 一般的にはPDCAと言われますが、私はDCAPがいいんじゃないかと思っているんです。 Do、つまり行動から始める。それが周りからチェック(Check)される。そして、謝る(笑)。Aは、Apologize(謝る)のAです。勝手に動いてすみません、失礼しました...と謝る。それで結果的に、パフォーマンス(Performance)が変わってくるんじゃないかなと。 まずは動いてみて、何か言われたらすみませんと謝る...を繰り返していくと、変化が生まれてくると思うんです。20代は謝っても許されますから、若いうちはやることをやって謝ればいい、Do→Check→Apologize→Performanceで行こうというのが、私からのアドバイスです。 中村: 面白いですね。社会人になってから、感謝と謝罪の言葉が言えることって大事だなと実感しています。自分が正しいと思っていると、周りの意見を聞きそびれてしまうなと。 間違ったときに素直にごめんなさいと言えること、指摘してくれた人にありがとうと言えること、この失敗を活かしますと言えることによって、世界のつながり方が変わっていくのかな...と感じるようになりました。 小沼: 中村さんの素直さに驚愕しています(笑)。素直さって、越境体験においてもすごく大事な資質なんですよね。 留職プログラムに参加する人に伝えているのが、自分が正しいと思い続けたら越境する意味がないよ、ということ。その土地の流儀や価値観に染まってみないと自分のなかに何も入ってこないし、越境体験にならない。 素直に、オープンになって、その土地に染まっていくことがとても大事だと思っています。 高田: 異文化のなかに身を置くと、自分が正しいと思ってきたことが正しいとは受け止められないシーンによく遭遇します。 大事なのは、いかに相手に歩み寄るか。私も海士町で、何度も謝りましたから(笑)。
Q3:越境体験を実践するためのポイントは?
自分のなかにある多様性を自覚しつつ、 それを混ぜて活かし合うことを考えてみる
小沼: 僕たちが提供するプログラムは比較的大きな越境体験ですが、小さな経験も含めてすべて越境体験だと思っています。例えば僕で言うと、子どもの小学校のPTA役員や少年野球のコーチを務めていて、立場によっていろんな"帽子"を被っているんですよね。 今日はクロスフィールズの代表としての帽子を被っていますが、明日は土曜日なので父親としての帽子を被ります。皆さんそれぞれいろんな立場に立つことがあると思うのですが、大事なのは自分のなかにある多様性を自覚しつつ、それを混ぜること。つい別の顔として捉えがちですが、自分の仕事にこの経験をどう活かそうか...という視点で捉えると、実はもうそれは立派な越境体験なんですよ。 高田: 先ほども出ましたが、大事なのは二歩を踏み出すこと。一歩踏み出しても、一歩だけでは届かないことも多いので、もう一歩踏み出してみるのです。二歩踏み出すことで、ようやく届く世界があるんじゃないかなと思います。 また、越境体験は、自分自身が物理的に何かの経験をすることに限りません。APU(立命館アジア太平洋大学)の出口学長は、"人と出会う、本を読む、旅をする"の3つを異文化体験、越境体験だとおっしゃっています。私自身、知人に薦められた本を読み、驚くほどの越境体験をしたことがあります。 中村: もう一歩踏み出す...。二歩目を出すと、その後も次々と歩み出せるんでしょうか? 高田: 例えば、今度またご一緒しましょう...とその場では言っていても、本当に連絡する人は少ないもの。だからこそ、もう一歩踏み出して自分から連絡することが希少価値になります。私はお会いした方とはすぐにSNSでつながるとか、すぐにメールでご連絡するようにしています。
「〜すべき」ではなく、自分のWantで判断する
小沼: 越境体験って何から始めたらいいんですか...とよく質問されるのですが、感情に素直に、自分がやりたいこと、好きなこと、ワクワクすることをやるのが一番だと思います。 正しいかどうか、良さそうかどうか、やるべきかどうかではなくて、好きか嫌いか、やりたいかやりたくないかが大事。 主語を"私"にして、Wantで動くことでどんどん加速するんじゃないかなと思います。 中村: 実際、小沼さんは好きなことが挑戦につながった経験はありますか? 小沼: 今はPTAの活動ですね。PTAをやっていると、偉いですねと言われるんですが、僕にとってはやりたいからやっているだけ。一般的には面倒くさいと思われることでも自分は苦にならない、むしろ好きだというものがある人は、越境体験への感度が高いと思いますね。 自分が好きなもののなかでも、みんなはそうでもないもの、に目を向けてみると面白いかなと思います。 中村: 高田さんにとって、みんなはそうでもないけど自分は好きなもの、はありますか? 高田: マジックですね(笑)。トランプはどこにでも持ち運びができて、パッと見せられて、みんなをあっと驚かせられる。しかも、トランプで一歩踏み出す人がいないから、珍しがられるんです。 とはいえ、私は最初からマジックが好きだったわけではありません。マジックをやることによって驚きを与えられたり関係を作れたりすることに喜びを感じているうちに、結果的にマジックが好きになった。 だから、好きだからやるだけでなく、やってみたら好きになる...というのもありなんじゃないでしょうか。
視聴者からの質問
人生100年時代、ミドルシニアの越境体験が増加。 若手が越境しやすくなるという価値も創出
視聴者Q:ミドルシニアにも越境体験は必要だと思うが、仕事をしながら越境体験をしている人はどれくらいいるか? 小沼: 越境体験は幅が広いですが、最近増えているのがリカレント教育です。人生100年時代と言われるようになり、ミドルシニア世代の学び直しが増えています。以前は越境体験というと20〜30代の社会人が自己研鑽を目的に行う...という印象が強かったですが、それがミドルシニア層にも広がっている印象です。地域でのプロボノ活動など、いろんなところに機会はあるんですよね。そして、ミドルシニアが越境体験をするもう一つの価値が、若手が越境しやすくなること。 違う帽子を被ってみて、その経験を部下に話す...ということも大事だと思いますし、今後は越境するという感覚やその価値を肌で感じて理解していることが、マネジメントの必須要件になってくると思います。 視聴者Q:コロナ禍でリアルな越境が難しいなか、越境体験や越境学習は人に会ったり場所を変えたりしなくてもできるものなのか? 高田: 本を読むとか、尊敬している人から誰か人を紹介してもらうとか、オンラインの勉強会に参加するとか、できることもあるのではないかなと思います。 小沼: コロナ禍で確かに越境しにくくなっている面はあります。クロスフィールズのプログラムの一部をオンライン化して運営していますが、偶発的な出会いが生まれるという観点では、やはりリアルには勝てない面もあると実感しています。 一方、コロナ禍によって良い変化もあったと思うんです。例えば、地域とのつながりは確実に増えていると感じます。テレワークにより通勤がなくなったことで時間が増えた方も多いと思うので、仕事以外のことをするチャンス。ぜひ、地域に目を向けてみてほしいと思います。
越境体験を通してたくさん失敗すること、 その失敗を学びに変える経験が、成功体験になる
視聴者Q:一歩目がうまくいかなかったときに再び一歩を踏み出す原動力は? 高田: 私の場合は、そういうときは自分が元気になれる退避場所で自分をご機嫌モードにしてから、また踏み出す感じですね。仲良しの友だちと美味しいワインを飲みに行くとか、サウナに行くとか、自分をご機嫌モードにもっていくルーティーンを作っておくこと、自分を自分でメンテナンスすることが大事かなと思います。 小沼: そもそも、"失敗"ってなんぞやと。逆説的ですが、失敗のない越境体験は、失敗なんじゃないかなと。越境体験を通していっぱい失敗することが、結果的に成功体験になると思うんです。もし、"失敗=周りからの評価"という意味であれば、そんなのは無視してほしいですね。失敗を学びに変えるマインドこそが大事なんです。
枠を超え、立場を超えて、行ったり来たりする "ちょっと違うを選択する"をルーティンに
視聴者Q:自分の"帽子"に気づくのは意外と難しいもの。どういうマインドセットが必要? 高田: 自分の帽子や強みに気づくためには、場所を変えることが大事なのかなと思います。いつもと違う環境に身を置いてみて初めて、ああ自分の帽子ってこういうものだったのかと見えてくるのかなと。 小沼: まさに越境は、自分の帽子に気づくための行為なんだと思います。越境した先では立場が変わるから、自分の帽子を脱がないといけない。すると、いやでもこんな帽子だったんだと気づくことになる。そして、もとの立場に戻ったときには、脱いだ帽子をまた被る。こうして行ったり来たりする、帽子を被ったり脱いだりする...というループを繰り返すことが大事。つまりは、"ちょっと違う選択をする"という、今日の話の起点に戻るのかなと思います。 中村:これまでは越境体験と聞くと、他業種交流、異文化交流...といったワードが浮かんで、"越境体験=起こりにくいもの"と思っていました。でも、今日お二人のお話を聞いて、身近にも越境体験があるんだ、自分も知らずに越境体験をしていたんだという気づきがありました。 じゃあ自分にはどんな一歩が踏み出せるか...と考えると、今日の気づきや経験を後輩たちに伝えることなのかなと。社内の若手だけでなく、学生やコクヨに興味をもってくれている人に向けて発信することに挑戦してみたいです。今日は本当にありがとうございました。
小沼 大地(Konuma Daichi)
大学卒業後に青年海外協力隊としてシリアに赴任し、現地NGOにてマイクロファイナンスの事業に従事。その後、外資系コンサルティングファームを経て2011年にクロスフィールズを創業。社会課題の現場をビジネスの世界とつなぐことで、行き過ぎた資本主義の世界に対して一石を投じるとともに、ソーシャルセクターの発展に貢献したい。大のスポーツ好きで、広島カープファン。大学時代はラクロスに捧げ、U21日本代表に選出されたことも。2児の父。
高田 健二(Takada Kenji)
早稲田大学人間科学部卒業後、独立行政法人国際協力機構(JICA)に就職。国内外での駐在を経て2017年に島根県隠岐郡海士町に出向。海士町では、埼玉県教育委員会と島根県教育委員会の連携事業、東京オリンピック・パラリンピックにおけるミクロネシア連邦のホストタウン事業をはじめ幅広く地域活性化に貢献。その功績から、「海士町グローカルフロンティア大使」に任命される。JICA職員としての活動にとどまらず、遺島使(島根県親善大使)、島根県立大学客員教授など多数の肩書をもつ。現在はJICAにて地方自治体や税関などの行政分野の来日研修・オンライン研修などに携わる。
中村 彩(Nakamura Aya)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルリサーチャー
2018年コクヨ入社。働き方のコンサルティング業務のほか、社内社外セミナー、新人研修企画などの活動にも着手。