リサーチ

2023.01.27

「不測の事態」における働き方

休み中でも仕事をせざるを得ない状況

2020年からのコロナ禍により、自身が感染者や濃厚接触者になった、子どもの学校や保育園が休校・休園になったなどといった、「不測の事態」を経験したというワーカーの声をよく聞くようになった。これからのポストコロナ期においても、働き手の多様化に伴い、さまざまな事情から不測の事態で休みを取らざるを得ないワーカーは増えると予想される。実際に不測の事態に直面した人は、どう仕事に対処し、どんなサポートを必要としたのか。コクヨが実施した調査の結果をもとに解説する。

約6割が不測の事態による休みを経験

まず事前調査として「過去2年間に、予定外の理由(子どもの病気・介護・自身の病気など)で休んだ経験はありますか?」と5000人のワーカーに質問したところ、中期的休み(1週間程度)を経験した人が27.0%、短期的休み(1~2日間程度)が31.3%とそれぞれ約3割みられました。

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休んだ原因を聞いてみると、休んだ期間が中期・短期いずれも、約44%の人が「自分自身が理由」(病気やケガ、忌引など)と回答しました。逆に考えると、半数以上の人は他者のために休みを取っていることがわかります。内訳を見ると、中期間・短期間とも「育児」が約3割、「介護」が1割前後でした。なお、「ペットが原因で休んだ」という人もそれぞれ1割みられました。コロナ禍以降、ペットを飼う人が増えており、今後はペットが原因で仕事を休む人がさらに増えることも考えられます。

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不測の事態による休みの実態

「過去2年以内に不測の事態による休みを経験した」という人に、休み期間中の行動や意識について質問した結果、周りに頼らず事態を乗り切ろうとするワーカーの姿や、不測の事態に対応しきれていない企業のあり方が見えてきました。

休み中に仕事をした人が約8割

「不測の事態による休み中に仕事をした経験がありますか?」と聞いたところ、「既定の時間通り仕事をした」という人が約65%、「規定の勤務時間より少なく仕事をした」人が約14%で、合計で約8割みられました。つまり、不測の事態でも、少なくとも1日程度は仕事に対応しなければならなかった人が多かったことになります。

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「不測の事態による休み中に仕事をした」と回答した人に、さらに「自身で望んだことか?」を質問すると、4人中3人が「必要に迫られて対応」という結果で、望んで仕事をした人は限られていることがわかります。

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「不測の事態においても働きたい」人が6割

不測の事態が起こったときに「どんな働き方が理想ですか?」と聞いたところ、「自身で仕事を調整し、両立」「外部サービスを利用し、調整した仕事を両立」「外部サービス等を利用し、通常業務」と回答した人が合計で約6割みられました。つまり6割のワーカーは「不測の事態が起こっても『仕事のことは自分で対処したい』」と考えているわけです。

ケア対象別に見ると、自分自身に「不測の事態が起こっても何らかの形で働きたい」と考えている人が約6割に達しました。自身が病気やケガなどで心身に不調を抱えている場合、仕事をすると大きな負担がかかるのはワーカー自身も予測できるはずです。「それでも働きたい」と思う背景には、休むことを躊躇するような企業文化もあるのではないかと危惧されます。

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上司や同僚・部下に頼った人が各6割

「不測の事態に陥ったときに、誰かを頼りにしましたか?」という質問に対しては、「上司」「同僚・部下」と回答した人がそれぞれ約6割、「同居している家族」が約2割みられました。多くのワーカーが、職場のメンバーや家族など日常生活で接している人にサポートを受けて事態に対処したことがわかります。

気になったのが、「誰にも頼らなかった」と回答した人が13%と少なからずみられたことです。「外部パートナー」や「外部サービス」に頼った人も1割未満と少なく、「できるだけ自助努力で乗り切りたい」というワーカーの本音がうかがえますが、不測の事態において多くのことを1人で抱え込んだ結果、疲弊する人もいるのではないか、と懸念されます。

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周りの協力を得られた人が多い一方で
仕事面であきらめたことがあるワーカーも

「不測の事態において実現できたこと・あきらめたことは何ですか?」と聞いてみました。
「実現できたこと」に関しては、「自分の睡眠時間の確保」や「上司や同僚・部下の理解・協力」、「有給休暇などの制度の取得」などを挙げた人が多く、周りの協力を得つつ自社の制度を活用して、自身のQOLをある程度確保できた人が多いことがわかります。

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他者のケアのため休んだ人からは
QOLを確保や周りの理解を求める声も

さらに、「不測の事態による休み中に一番優先したかったことは何ですか?」という質問を投げかけてみました。ケア対象が自分自身・他者いずれの場合も「優先したいことはなかった」と回答した人が4割と多数みられましたが、「仕事の質を保つこと」「仕事を予定通り終えること」も上位に挙がりました。不足の事態でも責任をまっとうしようとするワーカーの姿が見てとれます
なお、ケア対象が他者の人は、「睡眠時間の確保・リラックス」や「上司の理解を得る」「食事の時間」などを挙げる人も目立ちました。家族のケアで睡眠や食事の時間を削ったり、上司の理解・協力が得られず神経をすり減らしたりしている人が一定数いることがわかります。

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不測の事態を乗り切るために
ワーカーが求めているサポート・制度

ワーカーの不測の事態において、企業が果たすべき役割を明らかにすべく、「あなたの勤務先にどんなサポートがあれば、不測に事態でも理想の働き方が実現できると思いますか?」と聞いてみました。すると、「フレキシブルな就業制度」と回答した人が約6割、「オフィスと自宅以外でも仕事ができる制度・システム(テレワークなど)」と「時間単位で取得できる有休」が各4割みられました。予想外の事態に対応するために、時間や場所の面でフレキシブルに働ける制度を求める人はやはり多いことがわかります。

また、「上司・同僚・部下の理解」と「チームで仕事・責任を分散できる仕事体制」を挙げた人も約4割みられました。不測の事態で休みを取らざるを得ないワーカーの事情を職場のメンバーも共有し、業務を属人化させないための取り組みなどが必要でしょう。

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不測の事態によって起こった意識変化

不測の事態を経験したことで「意識の変化はありましたか?」と質問してみると、「自分自身の働き方を変え、生産性の向上を目指す」や「職場仲間・上司とのコミュニケーションの機会を増やす」「仕事仲間とチームで取り組む体制を作る」などを挙げる人が目立ちました。「自身の働き方を見直すとともに、周囲とのコミュニケーションを強化していきたい」という、ワーカーの前向きな意志が感じられる結果といえます。

ただ一方で、「よりストレスのないキャリア形成(キャリアダウン)」や「独立も含めて、両立しやすい職場への転職を検討するようになった」と回答した人も、それぞれ1割超みられました。不測の事態は社員の離職・転職・キャリアダウンのキッカケともなり、企業にとっては人材損失の危機となる可能性もあるのです。

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まとめ

今回の調査全体からは、休み中にも仕事に対応しようとする人が多いことや、不測の事態に自力で対処しよう、無理をしてでも頑張ろうとするワーカーが多いことが明らかになりました。そしてその際に、上司や同僚からの心ない言葉や態度にさらされた人が非常に多い現実も見えてきました。
心ない言葉や態度が出てくる背景には、「休みを取るのはよくない」といった企業文化や、組織的な理解不足があるからだと考えられます。また休み中に仕事をしなければならないのは、仕事が属人化していることも原因ではないかと推測できます。

今後は、テレワークがますます日常化して職場メンバーの実情が見えづらくなるうえ、ジョブ型雇用が増えて「その人でなければできない仕事」が顕在化することも予想されます。企業としては、不測の事態に向けた体制づくり、チームづくりを推進することが必要でしょう。そしてなによりも、休むことを"悪"としない、誰もが安心して休める企業風土を醸成していくことが求められます。


調査概要

実施日:2022.3.26実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカーのうち、直近2年以内に「不測の休み」を体験したワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件(事前調査:5000件)

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第42回「不測の事態に対する柔軟性」


川口 りつ子(Kawaguchi Ritsuko)

コクヨ株式会社ファニチャー事業本部クリエイティブディレクション部/デザイナー・一級建築士・オフィス管理士
商業空間からオフィス、3rdプレイスまで、様々な空間構築に設計者として携わる傍ら、デジタルを活用した設計手法の開発・教育に取り組んでいる。一児の母であり、ワーキングマザーならではの経験を通じて感じた事を、設計やコンサルティングなどにも生かしていきたいと考えている。

作成/MANA-Biz編集部