組織の力

2023.10.25

国交省航空局安全部の働き方改革〈後編〉

「働きやすさ」から「働きがい」へのシフトに向けて

国土交通省航空局安全部では、職員がやりがいを感じながら働ける職場環境の実現を目指して2022年度に働き方改革・オフィス変革を実施した。改革に取り組んだことによってどんな成果が得られたのか。省庁ならではの苦労はなかったのか。そして今後にどうつなげていくのか。担当者の藏智彦様に、コクヨ株式会社コンサルタントの坂本崇博がお話を伺った。
右奥・右前)国土交通省航空局安全部 伊藤貴様・藏智彦様、左奥・左前)コクヨ 小川敦也・坂本崇博

「心のゆとりが持てるオフィス」の
必要性をじっくり説明することが大切

――オフィス変革で苦労した点は?


坂本:オフィス変革にあたって、ご苦労なさったポイントはありますか?

藏:苦労したものの一つとして、予算執行に向けた他部署への説明です。例えば、目が休まるグリーンや遊び心のある打ち合わせテーブルを購入するには、予算執行を認めてもらう必要がありますが、これまで役所では働きがいと実際のオフィスを結びつける文化はなかったので、どうしても「この植栽や家具は、行政にとって必要なのか?」と疑問を感じる職員はいたのではないか、と思います。

坂本:民間企業でも、オフィスにグリーンやフラワーアレンジメントを配するにあたって「そこにコストをかける必要はあるのか?」という疑問の声が上がるケースはよくみられます。どのようにご説明なさったのですか?

藏:必要投資だと理解してもらうために、「職員がやりがいをもって働ける環境をつくる」というビジョンを改めて強調し、職員がゆとりを感じながら仕事をできるオフィスをつくるためだと説得しました。これにより、より効果的な行政サービスにつながるのだと。
また、「省全体として働き方改革に取り組んでおり、今回のオフィス変革はその一環である」と理解してもらえたことも大きかったですね。ゆくゆくは省全体を働きやすいオフィスに変えていきたいので、まずは私たちの部署で導入し、効果検証を行うことを説明しました。「よい行政サービスを提供したい」は国交省全体の思いでもあるので、納得してもらうことができました。

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坂本:航空安全部様においては、航空行政範囲の拡大なども進んでいる中で、これまで以上に創造的・挑戦的な姿勢が求められるタイミングです。ゆとりあるオフィス環境で働きやすさを確保することは、時代に合わせた働き方をするための布石になると感じます。




オフィス環境に対する満足度が
30%→70%と飛躍的に向上

――オフィス変革でどんな成果がみられた?


坂本:今回のオフィス変革の成果をお聞かせ下さい。

藏:オフィス環境に対する職員たちの満足度は、飛躍的に向上しました。アンケート数値でいうと、変革前は満足度30%でしたが、リニューアル後は70%にまで上昇しました。
また、フリーアドレス化に当たり一定頻度のテレワークを必須化したこともあり、特に子育て世代の職員からは「テレワークをする環境が整って、柔軟な働き方ができるようになった」と喜びの声が上がっています。

坂本:コクヨでは、「オフィスはワーカーをサポートするだけのものではなく、企業や組織の思いを体現するメディアの役割を果たす」と考えています。オフィスでフリーアドレスを導入するとなると全員分の座席はないわけですから、「テレワークを推奨する」と示していることになりますね。

藏:「オフィスはメディア」という考え方はすばらしいですね。また、オフィスの話題からは逸れてしまいますが、残業時間の特例を撤廃し、原則、月45時間、年間360時間を前提としつつ、やむを得ないケースでも上限である月100時間・年間720時間を厳守することを独自に定めました。「残業がむしろイレギュラー」という認識を職員間で共有できたことも改革の成果です。


――新しいオフィスに今後期待することは?


藏:「オフィスはメディアである」という観点からいえば、人材採用の意味でも新しいオフィスが一役買ってくれるのではと期待しています。官庁訪問などの機会にもこのオフィスを活用しています。

坂本:「ゆとりある働き方」を体現するオフィスが採用活動のアピールポイントとなるなら、オフィス構築をお手伝いしたコクヨとしてもうれしい限りです。

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省庁全体に拡大していきたい

――今後取り組んでいきたいことは?


坂本:今後、オフィス関連に限らず取り組んでいきたいことはありますか?

藏:オフィスに関しては、「ロッカーの位置をもっと使いやすくしたい」といった運用の中で明らかになった課題はあるので、アンケートなどを通じて職員の声を吸い上げながら改善していきたいところです。
大きな課題としては、「働きやすい環境」をいかに省全体、ひいては霞ヶ関全体に拡げていくかです。
そういった意味では、現在私たちは、部内の「完全ペーパーレス化」に取り組んでいます。安全部ではさまざまな規制をもっていますが、そうした規制に基づく手続きを全て電子化するのはもちろん、職場内でのやりとりについても、完全にペーパーレスで行えるよう、現在システム整備や運用を検討していているところです。なかなか役所ではデジタル化が進まないというイメージがあるので、この取り組みはぜひ形にして、他にも広げていきたいですね。

坂本:航空局安全部様が当初から目指されている働きがいは、安全・快適な働きやすい環境があって初めて生まれてくるものだと感じています。余裕がない環境では、挑戦心や創造性は出てきにくいでしょう。
職員のみなさまの働きやすさが担保されれば、今後の業務において新しいチャレンジをする土壌が生まれ、働きがいも高まっていきそうですね。

藏:その通りです。時代の変化と共に新しい技術が生まれ、航空行政が激変しつつある中で、職員も積極的に産業育成に取り組んでいく必要があります。その挑戦が働きがいにつながるのではないでしょうか。
そもそも国交省の業務内容は、「自分たちの仕事は社会の発展に還元されている」という実感を得やすいものだと私たちは思っています。ただ、やりがいがあるからといって、労働環境が過酷であってはなりません。働きがいの前提となる「働きやすい環境」を今後も追求し、優秀な人材を採用できるようSNSなどでも発信していきたいと思います。

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文/横堀夏代 撮影/石河正武