トレンドワード

2024.08.21

企業と社会のサステナビリティを両立させる「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」

トレンドワード36:サステナビリティ・トランスフォーメーション

不確実な環境において企業には、長期的・持続的に成長原資を生み出す力を向上させ続けるのと同時に、気候変動や人権問題への対応など、社会の持続可能性への貢献という二重の意味でのサステナビリティが求められるように。その両立をめざす考え方であるサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)について、その重要性や背景、実践に向けたポイントを解説する。

SXとは

SXとは、経済産業省が2020年に設置した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」で提唱された考え方です。
「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」によると、「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」を同期化すること、そのために必要な経営・事業変革を行うことがSXであると定義されています。そして、その実現のために企業と投資家など多様なプレイヤーが建設的かつ実質的な対話をしながら磨き上げていくことが、これからの「稼ぐ力」の本流であると述べられています。

SXとSDGsの違い

どちらも持続可能性な社会の実現をめざして取り組むべき目標ですが、SDGsは国際サミットで採択された2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットで構成された国際目標であり、SXはこれらの目標を達成するための手段の一つとして、企業が経営変革を行うこと。企業が環境や社会に与える影響の大きさを考えると、SXの取り組みなくしてSDGsの実現は難しいといえます。


SXとDXの違い

SXとDXはいずれも企業価値を高めるための変革ですが、SXは持続可能性を重視しつつ社会貢献も踏まえた経営戦略であるのに対し、DXはデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスに変革をもたらし、新しい価値を創造するための取り組みです。どちらも経営戦略上重要ですが、目的に違いがあります。


SXとGXの違い

GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは温室効果ガス削減目標達成に向けて、再生可能エネルギーなどの自然に配慮したグリーンなエネルギーへの変革をめざす動きのこと。どちらも環境問題の解決と経済成長の両輪をめざす取り組みですが、GXが自然エネルギーへの変革に特化しているのに対して、SXは人権問題などのより幅広い視野での変革をめざしています。




SXが重視される背景

企業にSXが求められるようになった背景として、気候変動や資源の枯渇、急激な技術革新、国際情勢の不安定さとそれに伴うサプライチェーンリスク、人権問題、サイバーセキュリティ、パンデミックなど、事業環境の複雑化と不確実性が高まっていることが挙げられます。そうした環境下で企業のレジリエンスを高めるため、長期的な社会からの要請を経営に反映させていくことが、リスクと機会に対応することにつながると考えられています。 事業の持続性を担保するためにはこうした課題を経営課題と捉えて対処していかなければ、変化に対応できなくなっていくとも言えます。




企業がSXに取り組む重要性とメリット

企業がSXに取り組む意義として、第一に事業環境の変化に対応することが自社の持続的な競争優位確保につながることが挙げられます。
また、SXの推進は投資家や消費者、求職者に対する企業イメージの向上にもつながります。SXの取り組みは、SDGsの目標7(エネルギー)・目標9(産業・技術革新の基盤)・目標12(つくる責任、つかう責任)・目標13(気候変動)・目標14(海の豊かさ)・目標15(陸の豊かさ)など、さまざまなゴールの達成に関連します。ESG経営や人的資本経営の観点からも、こうした社会課題に対する企業の姿勢は、社会的評価や消費行動の判断材料としてますます注目されるようになっています。
さらに社会課題に取り組むことは、金融機関や投資家から評価され支持を得ることにもつながります。経済産業省は2023年からSXを通じて企業価値向上を実現する先進的企業を「SX銘柄」を選定。SXへの取り組みを表明することで資金調達がしやすくなるなど、ESG投資家からの信頼やビジネスチャンスをつかむことにつながると言えます。






SXの実践に向けたポイント

SX実現に向けた具体的な取り組みとして、「伊藤レポート3.0」に記載されたポイントは3つあります。

社会のサステナビリティを踏まえた「目指す姿」の明確化

社会の課題解決に対して企業や社員が取るべき行動の判断軸となる価値観を明確化し、そのうえで自社の事業活動を通じて解決すべき社会課題を特定させます。そのうえでどのように社会に価値を提供して長期的かつ持続的に企業価値を向上させるのか、長期ビジョンを明確にします。


長期価値創造を実現するための戦略の構築

長期的なリスク要因や事業機会となる要因を分析し、目指す姿と長期ビジョンに基づいたビジネスモデルを構築。その実現に向けて中期経営戦略などの実行戦略に落とし込みます。必要に応じてイノベーション創出に向けた投資や、将来のリスクに備えた経営の多角化など、直近の利益には直接つながらない戦略を検討することも重要です。


KPIの設定・ガバナンスの整備と対話を通じた更なる磨き上げ

めざす姿と長期戦略に関連付けてKPIを設定すること、その長期的実行に向けたガバナンスの構築など、戦略実現のための経営体制や仕組みを構築します。また、効果的に情報開示し、長期的な視点で企業経営の在り方について投資家との対話とエンゲージメントを深めることを通して「価値創造ストーリー」を磨き上げていきます。



企業の具体的な取り組みとしては、再生可能エネルギーへの転換、廃棄物削減やリサイクル促進などの環境負荷軽減の実践、透明性の高い経営体制の構築や設定したKPIに応じた報酬制度の設定、コンプライアンスの徹底、地域への教育支援や災害時の支援活動といった地域と協働した社会貢献活動などが挙げられます。




まとめ

SXは企業のサステナビリティだけでなく、社会のサステナビリティを同時に推進する取り組みです。限りある資源や気候変動、技術の変化等への対応は、短期的利益にはつながりにくいものの、長期的な視点で見れば必要不可欠。その社会的意義を投資家や取引先などと対話を重ねて理解を求めることがSX実現に欠かせません。ESG経営への注目などサステナビリティへの対応の重要性は世界的に高まっています。その中でSXに長期的視点で取り組むことは、新たな機会や評価につながっていくはずです。


Sustainability Transformation Workplace 次の100年をつくるワークプレイス

サステナビリティを中心とした「SX時代」が到来し、企業はESG投資などを通じてサステナビリティに注力。コクヨと船場はSXワークプレイスの在り方を考えるための提携を発表。SXワークプレイスは、社会課題に対する意識と行動変容を促す共感、循環、挑戦の3機能を重視。循環、共有、健康など8つのキーワードが重要視され、持続可能な経営戦略の実行が求められている。SXWPの未来像を示すレポートは、企業と従業員のサステナビリティ意識を高めることが期待される。
Sustainability Transformation Workplace 次の100年をつくるワークプレイス
3_wor_036_001.jpg





作成/MANA-Biz編集部