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2024.09.04

最先端の技術で医療やマーケティングの常識を変えるIoBとは

知っておきたいトレンドワード37:IoB(Internet of Bodies/ Behavior)

人の活動や行動履歴などの膨大なデータを蓄積し、医療やサービスに活用することが実現している。新型コロナウイルス感染症の拡大で人の行動履歴の把握や非接触での発熱データの収集などのニーズも高まり、さらに注目が集まっている。どのようなデータを収集することでどんな価値を生み出しているのか、今後さらにどのような展開が期待されるのか、最新の技術について解説する。

IoB(Internet of Bodies/ Behavior)
とは?

IoBとは、次の2つの意味を持つ言葉です。
1つ目の「Internet of Bodies」は、人の身体をインターネットに接続することを意味します。例えばペースメーカーやウェラブルデバイス、スマートフォンやIoTの
センサー、顔認証システムなどを通してデータを収集し、活用することなどが該当します。 2つ目の「Internet of Behavior」は人の行動やふるまいの情報をインターネットに接続することを意味します。例えばスマートフォンやタブレット、パソコンなどを使ってデータを収集して活用することなどが対象となります。

IoT(Internet of Things)との違い

IoTは車や家電など「モノ」をインターネットに接続し、ユーザーからの指示を受けて操作したり、情報を収集したりすることで、より生活を便利にするための技術です。例えば機器に「音楽をかけて」や「電気をつけて」と話しかけてオンオフを切り替えたり、自動車にセンサーデバイスを取り付けて自動運転させるなどもその一つです。
一方IoBの場合、接続先が「人」であるところが大きな違いとなります。IoTデバイスに蓄積された膨大なデータをIoBと掛け合わせることで、趣味嗜好や行動傾向などを解析し、まったく新しい機能やサービスが実現されることが期待されています。






IoBが注目されている背景

IoBに注目が集まっている背景として、スマートフォンやウェアラブルデバイスなどの小型で高性能なデバイスの普及によって、個人のデータを収集しやすくなったことや、AI等デジタル技術の発達によって、膨大なデータの解析や分析がしやすくなったことが挙げられます。また、新型コロナウイルス感染症の影響で人の行動を把握する必要に迫られたことや健康に対する意識が高まったことも影響していると思われます。




IoBで収集可能なデータとその活用方法

Internet of Bodiesとしては、体温、睡眠データ、歩数などの運動データ、心拍数、血圧、血糖値、血中酸素濃度などのデータを収集し、予防医療や治療計画の策定、ヘルスケア管理などに活用されています。心拍数の変化などに基づいて運転者に注意喚起やフィードバックをしたり、顔認証で個人を特定してスマートフォンなどのロックを解除するなどもInternet of Bodies の一つです。

Internet of Behaviorとしては、購入履歴、SNS投稿内容、閲覧履歴、住所、GPSでの位置情報などを、マーケティングでの個別最適化、遠隔治療や慢性疾患のモニタリング、個人に合わせた治療計画や健康管理プログラムの作成などに活用されています。また、行動情報をモニタリングすることで、不正検知や災害など緊急時の対応、製造業の現場等での労働安全性の確保などにも活かしています。さらに学校現場や教育業界などでのサポートの個別最適化などに活かすことも期待されています。自動車の急加速や急ブレーキ履歴などが保険料に反映されたり、レンタカーでポイントが加算されるなど、利用先は広がっています。




IoBの活用によるメリットとリスク

IoBを企業が活用することで想定されるメリットとして、サービスの個別最適化による顧客満足度向上や需要予測精度の向上、顧客の行動を知ることによる課題解決の質向上など、自社商品やサービスをより個人に合わせてきめ細やかにしていくことができます。また、従業員の行動データを活かした生産性向上や病気リスクの早期発見、環境負荷のモニタリングなども可能になります。

一方で想定されるリスクには、プライバシー侵害などの倫理的リスクや、サイバーテロなどによる情報漏洩やデータ改ざん、自然災害や不正アクセス等による医療機器などの誤作動などが考えられます。膨大なデータを安全に管理し、適切に活用するためにも万全なセキュリティ対策が必要です。また、誤作動やサイバーテロ等による事故があった場合の責任の所在も明確にしておく必要があります。




IoBの3つのフェーズ

IoTには「定量化」「体内化」「ウェットウエア」の3つのフェーズがあるとされています。

定量化

IoBデバイスから生理情報や位置情報など、人の情報を収集・計測するフェーズです。ウェラブルデバイスやスマートフォンなどを使って、定量的にデータを収集して活用することなどが該当します。


体内化

実際に体内にデバイスを埋め込むことで、より精度の高いデータを取得するフェーズが体内化です。代表的な例が心臓ペースメーカーです。他にも人口網膜や人口内耳、インスリンポンプなど、人の身体機能を補助するさまざまな医療機器の開発が急速に進められ、活用されています。


ウェットウエア

脳に直接デバイスを接続することで、脳の活動を直接測定するフェーズです。IoBの最終段階とされ、安全性の懸念や倫理的な理由などから実現のハードルはまだまだ高いですが、理論的な研究や初期段階の実験などはすでに進んでいます。
例えばイーロン・マスク氏が創設したニューラリンク社は、脳とコンピューターを直接接続するインターフェイスの開発をめざしており、2024年3月に脳インプラントを人間の患者に初めて施術し、頭で考えるだけでコンピューターのマウスを操作できるようになったことを発表して話題になりました。




IoBの今後の展望

IoBとAIが融合することによって、データ収集も分析や活用もさらに高度化することが予測されています。今後ウェットウエアのフェーズまで研究が進めば、脳で考えるだけで機器に直接指示するなどが実現するかもしれません。IoBの進化は医療分野だけでなく、創薬、教育、エンターテイメント分野、認証の精度向上など様々な分野で期待されています。実現に向けて、さらなる倫理的なガイドラインの整備やプライバシー保護の検討が必要です。

IoBの進化は今後ますます加速することが予測されます。自社でどのような生理情報や行動データを取得できれば商品やサービスに活かすことができるかを検討し、データ収集と活用を適切に行えばビジネスの可能性はより広がっていくでしょう。





作成/MANA-Biz編集部