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ポストCookie時代のマーケティング戦略 リテールメディアが変える消費者体験
トレンドワード38:リテールメディア
アメリカではすでに主要なマーケティング媒体として急速に拡大しているリテールメディア。その背景にはコロナがもたらした購買行動の変化や、ウェブマーケティングのルール変更がある。新たなマーケティングの戦略として注目されるリテールメディアについて、その特徴や活用するメリットなどについて解説する。
リテールメディアとは
小売業者が自社のプラットフォームを広告スペースとして提供し、メーカーやブランドが消費者に直接広告を届けるメディアとして活用する仕組みのこと。メディアはウェブサイトやアプリなどのオンラインと、店頭POPやサイネージなどのオフラインにわけられます。 リテールメディアには小売企業が独自に蓄積したファーストパーティデータ(第三者を介さずに収集したデータ)を活用し、ターゲティングを高精度化できるという特徴があります。 ファーストパーティデータとして、メディアの設計次第で、顧客のプロフィール情報や購買履歴、ECサイトの閲覧履歴や検索キーワード、アプリの起動頻度やプッシュ通知の開封率、ポイント獲得・使用履歴、問い合わせ履歴、キャンペーン参加データ、決済ツールなど、多様な情報を収集し、蓄積することが可能です。これらをうまく活用することで、従来の広告より購買意欲の高いタイミングで配信したり、高度にパーソナライズした提案などが実現できます。これらのデータをうまく活用するには、小売りとマーケティングの両方の知識と経験が必要となります。
リテールメディアを活用するメリット
リテールメディアの活用には、小売業・メーカー・消費者それぞれにメリットがあります。
小売業
小売業者は消費者の購買意欲を喚起するためのマーケティングや、メーカーとの合同キャンペーンなどによるブランド認知向上や販売促進に活用できます。また、自社メディアを広告媒体として提供することで、高利益率な新たな収入源の確保にもつながります。
メーカー
メーカーにとっての魅力は、リテールメディアが消費者に直接リーチできる媒体であること。マス広告よりも精度が高いため高いコンバージョン率やROIが期待できます。例えば特定のエリアや年齢層、購入履歴のある消費者層に対して、新商品のプロモーションやブランド認知向上のためのキャンペーンを発信することが可能です。
消費者
消費者にとってのメリットは、自分の興味関心やニーズに合わせた広告が表示されること。自分に最適でお得な情報をタイミングよく、効率的に得ることができます。結果的に満足度が上がり、購買行動やリピートにつながることが期待されます。一方、個人情報が適切に管理されているかなどのプライバシー保護への不安を感じさせないよう、注意が必要です。
リテールメディアが注目されるようになった背景
リテールメディアが注目されるようになった背景に、プライバシー保護やセキュリティの観点からCookieのマーケティング活用が制限されるようになったことが挙げられます。
AppleやGoogleなどがサードパーティーCookieを制限・廃止すると発表するなど、世界的な潮流になっています。日本でも2022年施行の改正個人情報保護法により、Cookieを第三者に提供して個人情報の紐づけを行う場合には本人の同意が必要となりました。
その結果Cookieレスの広告ターゲティングや効果測定が可能な技術へのニーズが高まり、制約を受けにくいリテールメディアの需要が高まっています。
また、コロナ禍で急激にEコマースが成長し、ECサイトやオンラインでの購買が浸透。その結果、収集し蓄積するデータが大幅に増え、メーカーが広告を打つ場所として魅力的な選択肢に成長しました。さらにDX技術の発展によって、膨大な顧客データを分析し、活用しやすくなったことも影響しています。
リテールメディアの活用事例
リテールメディア市場は先行するアメリカでの成長がめざましく、2023年時点で市場規模7兆円を突破。ウォルマートやAmazonなどの小売り大手ではおすすめ商品の提案などによって大きな成功を収めています。ウォルマートのWebサイトの月間利用者数は1億3000万人と言われるほど。今後さらに発展し、2027年には市場規模15兆9000億に達する見込みで、2028年にはデジタル広告の25%を超え、テレビ広告収入を超えると予測されています。 日本でも大手ECサイトやコンビニエンスストア、スーパーマーケット、家電量販店、ドラッグストアなどでリテールメディアの活用が盛んになっており、年々発展・拡大しています。アメリカに比べるとまだまだ小規模ではありますが、2027年には2.6倍の市場規模になると予測されています。
まとめ
オンライン中心、オンラインとオフラインの組み合わせなど、購買行動が店舗のみで完結しなくなっているなか、リテールメディアは小売業にとって本業以外で利益を得る新しいビジネスチャンスといえます。 日本はアメリカほど小売業が大手に集中しておらず、小規模業者が分散しているという市場特殊性があります。しかしそれを逆手にとって、地域密着型のきめ細かい提案やオムニチャネル戦略の強化、季節性や地域性を活かした広告など、強みにすることもできるはずです。 メーカーにとっても消費者にとっても利益がある仕組みとして、リテールメディアは今後さらにパーソナライズされ、オンラインとオフラインがよりシームレスな広告体験になっていくことが期待されます。今後さらに機械学習が進むことで、より広告のパフォーマンスは向上し、メーカーのマーケティング戦略において重要な役割を果たすと見込まれ、小売り側にもメーカーにも、専門性の高いDX人材の必要性がより高まっていくはずです。