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企業存続を脅かす「2030年問題」。その影響と対策
知っておきたいトレンドワード:2030年問題
少子高齢化は目に見えて進行し、労働人口の減少はすでに実感値となりつつある。労働者不足と国内市場の縮小により、日本の国際競争力はさらに低下する可能性も。待ったなしの「2030年問題」に企業はどう向き合うべきか、解説していく。
2030年問題とは
「2030年問題」とは、2030年には総人口に占める高齢者の割合が30%を超えると見込まれることに伴って顕在化する問題の総称です。今後急激に人口減と高齢化が進み、日本の人口は2050年には1億人を、2070年には9000万人を割り込むうえ高齢化率は約39%になると見込まれています。税収やGDPの減少に加えて、医療費等社会保障費の高騰や労働者不足によるサービスレベルの低下、人材不足倒産などさまざまなリスクが考えられます。
2030年問題と2040年問題との比較
2040年には団塊ジュニア世代が65歳を迎えることに。そのため労働者の減少と、高齢者割合の増加が同時に起こるのが「2040年問題」の特徴です。総人口の4人に1人が75歳以上になり、さらに医療や介護の需要が増加。社会保障制度の限界や人手不足とインフラ不足のため、医療や福祉サービスの提供に深刻な問題が生じるリスクが非常に高いと考えられています。
2030年問題が企業に与える影響
2030年問題は当然企業にも多大な影響を与えることが予測されています。具体的にどの様な影響があるのでしょうか。
労働者不足と人材獲得競争の激化
2030年時点での人手不足は、女性や高齢者、外国人労働者を活用しても深刻で、650万人とも700万人とも言われています。人手不足による受注機会の損失やサービスレベルの低下のほか、従業員の退職や採用難、人件費高騰などを原因とする人手不足倒産の件数は2023年でも313件、2024年上半期時点で前年を上回る163件に達しており、2030年にはさらに加速していると見込まれます。 労働人口減に伴う人件費や採用コストの高騰や、超売り手市場のためよりよい条件の会社を求めて転職を考える人も増加すると予想され、特に専門人材の獲得競争は激化するでしょう。
社会保障費のさらなる増加
現役世代を中心とした人口の減少に伴い税収は増えないにもかかわらず、年金や医療・介護費などの社会保障費は大幅に増加していくことが見込まれます。2018年には121兆円だった社会保障費が2025年は140兆円前後、2040年には190兆円前後まで増加するという見通しです。後期高齢者になると一人あたりの医療費や要介護認定率は上昇するため、医療費や介護費は今後大きく増加していくことになりそうです。今後GDPが増えていかなければ、現役世代の負担はより重くなっていくでしょう。
国内市場の縮小
1億人を超える人口がいたからこそ国内消費に依存していても成り立っていた企業や業界は、現在より30%減という大幅な国内市場の縮小によってビジネスモデルが成立しなくなる可能性も。特に食品や日用品、衣料品等の生活必需品や不動産の国内需要は減少が見込まれ、地域密着型からグローバルに展開していかなければ先行きは厳しくなりそうです。 一方、世界に先んじて超高齢化社会に突入する日本の対応に世界中が注目しています。ロールモデルがないため難しい判断に迫られることになりますが、成功すれば世界に向けて少子高齢化に対するソリューションを提案することもできるはず。そこに新しいビジネスチャンスがあるとも言えそうです。
2030年問題に向けて企業が取るべき対応
こうした待ったなしのリスクに向けて、企業も今から早急に対応を進める必要があります。
デジタル等の活用による省力化・効率化
まずはRPAやAIの活用やDXを推進することで、今より少ない人数でも事業を継続できる体制をつくることが急務となります。同時に、リスキリングによって環境変化のなかでも柔軟な判断や対応ができる人材を育成することも不可欠です。
作業・業務の見直しと人材の再配置
デジタルやロボット等の活用で生産性を最大限まで上げるのと同時に、業務フローの見直しや効率化と、それに伴う人材の再配置も必要です。不要な業務や過剰な対応は思い切ってどんどん切り捨てる判断が求められます。
多様な潜在労働力の活用
それでも労働者不足は必至のため、ミドルシニアや地方人材、介護や育児による退職者の再雇用や外国人労働者、フリーランスや副業ワーカーなど、幅広い人材に活躍してもらう必要があります。そのため、DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン:多様性・公正性・包括性)の推進や、多様な働き方を選択できる制度と環境の整備が必要となります。特に生涯現役を希望する高齢者は全体の8割と言われており、定年延長や業務委託契約など雇用機会を設けるとよいでしょう。
魅力や働きがいを感じられる人事制度の導入
今いる社員が「この会社で長く働きたい」と思えるように、福利厚生の充実や育児・介護との両立支援など、エンゲージメントを高め、魅力や働きがいを感じられる「選ばれる企業」にするための取り組みもますます重要になります。
こうした土台を固めたうえで、グローバル市場の開拓や新たにニーズの高まる異業種への参入など「攻め」の経営に転じていくことが企業の生存戦略となっていくでしょう。まとめ
2030年問題はすべての企業にとって避けられない課題であり、経済を低迷させないよう今からしっかりと向き合い、早急に施策を打つ必要があります。来るべき時代の変化に向けて何に投資し、何をやめるのかといった意思決定のスピードを上げ、状況を見極めながら柔軟に対応していく姿勢が求められます。