組織の力
2016.04.26
新興国への留職が日本企業の在り方を変える日〈前編〉
今、ビジネスマンに必要なのは、スキルではなく、マインドだ!
社会課題に取り組む新興国のNPOや企業に人材を派遣。本業を活かして社会課題解決に挑む「留職」プログラムを提供するクロスフィールズ。日本企業の人材育成をしながら、同時に新興国の課題解決も求められる、日本ではまだ珍しい研修プログラムを提供している。パナソニック、日立製作所、ハウス食品、日産自動車など、大手企業が次々と導入しているプログラムとは? 代表を務める小沼大地さんに、今、日本企業に必要なこと、そして、これから必要とされる人材についてお話を伺った。
社会課題を抱えた現場こそ
「想い」を再生する絶好の環境
「企業が成長し、規模が大きくなるのは素晴らしいことです。でも、その中で大きなものを喪失してきた。それは、もともと日本企業にある『企業理念』や『志』、『想い』です。それを取り戻す機会があれば、まだまだ世界で通用する元気な日本人、日本企業はたくさんあると思うのです」
クロスフィールズを立ち上げたのが2011年。日本企業は大丈夫なのかな......と感じていた時期も正直あったという小沼さん。でも、5年という月日を経て、"日本企業はやっぱり素晴らしい組織である"という確信を得たという。
「やはり、日本企業が持つ『理念』って、他の先進国にはないものなんです。仕事とは社会課題を解決するため、人々の暮らしを豊かにするためのものである。そんな『理念』のもとにつくられた大企業ばかりが揃う国は珍しい。その企業理念のもと、志を持って働く人が増えれば、確実に日本は世界中から求められる存在になります」
企業理念のもと、志を持って働く人を増やすこと。人生のほとんどの時間を、仕事に費やすと考えれば、まさに人間教育を目指すのが「新興国への留職」。でも、なぜ派遣先が、新興国なのかを聞いてみると「新興国には解決すべき社会課題がたくさんあり、そうした課題に取り組む組織では、目の前に自分が助ける人がいる場合が多い。誰のありがとうに繋がっているのかを体験しやすい環境があるのです」と返ってきた。
派遣先の新興国でのミッションは様々。プログラムを利用する企業のミッション、派遣される人材が持つスキルなどを総合的にヒアリングして、それに合った社会問題を抱えるNPOや企業を選定していく。例えば、インド民芸品の海外への販路拡大を担う営業担当や、インドネシアで注射器の品質管理の改善に取り組む人、村で採れる収穫物を使って新商品を開発する食品メーカーの研究者......。まさに、そこで暮らす人たちが、明日の生活、未来のために働く現場で、日本人だから持てる技術を使って社会問題を解決する、ハードな内容だ。
「新興国のNPOや企業には、志や想いを持って活動するリーダーたちは多くいるけれど、課題解決をするスキルが十分にない。逆にスキルはあるけれど、志を失いがちな日本企業。高い志を持って新興国の課題に取り組むリーダーたちと働く経験を通じて、日本人たちは失った『志』を取り戻して帰ってくる。その人が、取り戻した志や想いを会社の中で仕事のなかで発露していくことで、その企業は活性化していくんですね」
日本人特有の資質を活かせば
日本企業はもっと元気になる
クロスフィールズが5年間で派遣した日本人は100名。これまで派遣した団体に、もう一度サービスを受けたいか? と聞いてみると100%がイエスと答えるという。「派遣されてきた日本人は、本当に僕たちのために朝から晩まで一生懸命に働いてくれて、どれだけ働いても給料も変わらないのに、真剣に向き合って、必死に考えてくれて、そのことが本当に嬉しい」と、派遣したほぼ全部の団体からいわれるという「留職」。日本は世界中から求められる人材が豊富なのだ。
「日本企業の良さに加えて、日本人も本当に世界では稀な資質があるんですね。僕は大きくいうと、2つあると感じているのですが、ひとつはインテグリティ(integrity)。社会に対して誠実に向き合う、倫理観をもっているということ。そして、もうひとつが、ラグビー日本代表の快進撃のときにも注目されたディシプリン(discipline)。そう、日本人特有の勤勉さや、ルール違反をせず、規律を守れる姿勢です。世界に出てみると、この資質は、とても素晴らしいものだと気がつくことができるんです」
だからこそ、この日本人の資質を生かして何ができるのか? を考えること。他国の真似ではなく、日本企業がもともと持っていた理念に立ち返り、日本人がもともともっている資質を生かしていく。スキルがないのではなく、もっと活かすべきものがある。もっと出していくべき資質がある。そんな本質に戻ってくることができるのが、クロスフィールズが提供する「留学」ならぬ、「新興国への留職」。新興国に留まり、働く在り方、自分の在り方を問い直す時間、そして学びを得て、人として成長を遂げることができるプログラムなのだ。
後編では、「留職」で養われるリーダーシップ、そして人間としての成長について、詳しく伺っていく。