組織の力

2016.04.28

新興国への留職が、日本企業の在り方を変える日〈後編〉

留職プログラムで育まれるリーダーシップとは?

社会課題に取り組む新興国のNPOや企業で、本業を活かして社会課題解決に挑む「留職」プログラムを提供するクロスフィールズ。ただスキルを身につけるだけでなく、現地での実践が、帰国後の仕事を変えると、リピート希望が絶えない企業研修プログラムとは? 前編では、新興国に飛び出すことで、日本企業の多くが失った「志」や「想い」を持って働くマインドセットができるという話を伺った。後編では、そこで養われるもの、そして人間としての成長について、代表の小沼大地さんに伺った。

真の自立・自律が必要となる
社会課題解決の現場

働く在り方、自分の在り方を取り戻す時間......というと、もしかしたら、自分探しの旅といった印象を抱くかもしれない。でも、この「留職」は、そんなに生半可な気持ちでは通用しない。なにせ、派遣される先は、新興国の社会課題を解決している現地のNPOや企業というリアルな現場だ。彼らが研究所と呼ぶ場所に案内されれば、そこにはビーカーや計測器もない。データを処理するパソコンもなく、調理器具しか揃っていないことは当たり前のような環境。そういった、ある意味過酷な現場で、課題を解決して帰ってくるのだから、かなりの覚悟を求められる。そのため、派遣前には面接などを重ね、課題へのコミットメントを明確にしているとも。


「現地に赴くと、予想外のことばかりが起きます。調理器具しかない研究所に連れて行かれ、現地の人たちからは"日本人の素晴らしい研究者が来た!""どうか私たちに新しい商品をつくってください"と真剣な眼差しで見つめられる。この人が自分たちを救ってくれるんだ! といった大きな期待と、日本企業の看板を背負うんです。何もない中で、大企業から派遣された自分ひとりが、2〜6ヶ月の間で、ひとつのプロジェクトを完成させなければいけない。新しい商品開発がミッションであれば、新しい食品をつくり、それを売ることで村の生活が豊かになる商品を生み出すことがミッション。そうしなければ、目の前の人たちを助けることができない現実にぶち当たります」

もちろん、言語もカルチャーも違う。いつも当たり前にあったものがない。いつも指示を仰いでいた上司も、そこにはいない。そんな中、数ヶ月で結果を求められる環境は、日本にいたら想像もできないだろう。

「だからこそ、自分で自分を動かすしかありません。自ら考え、自ら行動する。真のリーダーシップが育まれます。会社の看板は背負うけれど、会社のいろいろは使えない。誰も指示は出してくれない中で"個"の能力を発揮するんです」



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「自分たちの生活を豊かにしたい!」と、純粋な思いで働く、現地の人たちとの出会い。そして、彼らからの大きな期待も、派遣してくれた会社の期待も一気に押し寄せてくる。自分に何ができるんだろうか? 最初の一週間は自問自答する日々を送る人も少なくないそう。そして、皆がどこかのタイミングで経験するのが「覚悟」。ここでのミッションを果たそうと覚悟を決めたとき、人は自分で自分を動かし、これまでにないリーダーシップを発揮していく。

「この過程を経て、ひとつのプロジェクトを完成に導いたとき、これまでにない喜びが待っています。それは、自分だけでなく、現地の人たち全員が「歓喜」に溢れる瞬間。この道のりを進む道中に、人の成長があります。成長とは何かを乗り越えた結果ではなく、道のりにある。その道のりすべてを経験できるのが留職です」



小沼 大地(Konuma Daichi)

大学卒業後に青年海外協力隊としてシリアに赴任し、現地NGOにてマイクロファイナンスの事業に従事。その後、外資系コンサルティングファームを経て2011年にクロスフィールズを創業。社会課題の現場をビジネスの世界とつなぐことで、行き過ぎた資本主義の世界に対して一石を投じるとともに、ソーシャルセクターの発展に貢献したい。大のスポーツ好きで、広島カープファン。大学時代はラクロスに捧げ、U21日本代表に選出されたことも。2児の父。

文/坂本真理 写真/曳野若菜