レポート

2016.06.02

ビジネスモデル・キャンバスでイノベーションを起こす〈前編〉

都市型イノベーションの場「品川塾」が開講

今春、品川にキャンパスを構える多摩大学大学院と、品川エリアの企業がコラボレーションして、都市型のイノベーションを考え、発信していく場として「品川塾」が開講する。そのオープニングイベントが去る4月5日に開催された。世界各国で始まっている都市型イノベーションとはなんなのか? 前編では、品川塾塾長・紺野登教授と多摩大学大学院教授・河野龍太教授による講演を紹介しよう。

企業、行政、大学、ユーザーとともに創る
都市型イノベーションの時代

「人々が集まる都市にこそ、イノベーションが必要とされる時代に突入しおり、企業の中だけでなく外部とのコラボレーションによってイノベーションを生み出すケースが増えてきています。例えばグーグルもニューヨークにオフィスを構え、コーネル大学にオフィスの一部を貸し出している。今後は、世界中の都市で、こういった流れが出てくるでしょう」(紺野教授)
 
講演の冒頭、世界の流れから、日本にも都市型イノベーションの必要性を説くのは、品川塾塾長を務める多摩大学大学院・紺野登教授。氏曰く、2050年には、世界人口の約7割がニューヨークやロンドン、東京などの都市部に集中し、今は考えられない問題が、都市に増え、都市こそが社会問題の温床になる。同時に新たな社会、経済価値の場になる可能性が多く、今から街ぐるみでイノベーションをスタートすることが欠かせないとも。
 
「たとえば、UBER(ウーバ)やAirbnb(エアビーアンドビー)などは、まさに都市環境をより良くするために生まれた産業です。それは世界中の都市で必要とされ、すごい勢いで広がっています。このように、世界中のどの都市でも通用するサービスが、今まさに、都市から生まれているんです」(紺野教授)
 
また、講演の最後に登壇した多摩大学大学院・河野龍太教授は「Airbnb(エアビーアンドビー)の普及に見るように、今は普通の民家が民泊となり高級ホテルと競合になる時代。ICTとグローバル化の進展によって、競争環境が激変している。もはや、これまでの戦略を持続するだけでは生き残れない時代に突入している」と語気を強める。
 
日本企業でも「イノベーションに力を注ぐ」との声を聞く機会は増えているが、ただ、企業内や業界内に止まったものでは、世界の流れについていけない。「企業、行政、大学、ユーザー、地域社会とともにオープンで多様性のある都市発のイノベーションのエコシステムを創る」ことが重要と河野教授は続ける。
 
 
 

品川エリアから
都市型イノベーションを!

「イノベーションは、オフィスや研究所では起きません。机に座っているだけでは、何も起らない。これからは、街に出て、顧客や市場、社会の現場を観ること。そして、そこから試行錯誤を繰り返さなければ、本当の意味でのイノベーションは起こせないのです」と語る紺野教授。「都政でも『東京発グローバル・イノベーション特区』という、国際基準のビジネス空間づくりプロジェクトを押し進めています。東京には世界有数のビジネス街がありますが、目立ったイノベーションは、まだまだ少ないのが現状です。千代田区の東京駅周辺エリアなどは動いていますが、他はどうでしょうか?」(紺野教授)
 
世界各国の動きに比べ東京は、まだ手つかずの問題が多くあり、ポテンシャルはあるのに、イノベーションが起こせていないとも。
「品川エリアには先進的な企業がたくさん集まっています。ただ、外部とのコミュニケーションがない。地域としてのポテンシャルはあるのに、イノベーションが起こせていないのが現状です。そこで、品川塾がハブになり、大学、企業、行政を繋いで、一緒にイノベーションを考え、発信していく場になろうと思っています」(紺野教授)
 
 
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品川塾

品川塾は、品川にサテライト・キャンパスを構える多摩大学大学院(ビジネススクール)が触媒となって機能し、「知の創造」を切り口に、近隣の、そして品川に集まるイノベーション志向の企業や個人のネットワーク支援をしていこう、という試みです。品川を東京のイノベーション・スポットとして位置付け、イベントやワークショップ、垣根を越えたプログラム、人材育成(イノベーターシップ)のためのネットワークなどを展開していきます。

文/坂本真理 写真/栗木妙