ライフのコツ
2017.08.09
こどもの「やってみたい」が世界を変える
こどもが自分の可能性を信じられる社会を目指して
国内外の貧困や差別から子どもをFree(解放)する。
「子どもには世界を変えられない」という考えから、子どもをFree(解放)する。
これら2つのミッションに基づき、こどもの支援事業を世界的に展開しているフリー・ザ・チルドレン(2016年に団体名をWEに改称)。創設時よりこどもが主体的に活動することを旨とし、積極的に社会問題に取り組み、アクションを起こせるようサポートしてきた。メンバーの活動ぶりや活動を通して育まれる力、広がる可能性について、認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン代表理事の中島早苗さんに伺った。
- 12歳の少年からはじまった
世界のこどもたちを救う活動 - フリー・ザ・チルドレン(FTC)は、1995年、カナダに住む12歳の少年・クレイグ・キールバーガーによって設立された。きっかけは、ある新聞記事。クレイグ少年は貧困国の過酷な児童労働の現実を知り、この問題に対してこども自身で取り組もうと立ち上がった。その後、FTCのネットワークは世界的に拡がり、現在では370万人以上のこどもや若者が活動する国際協力団体に成長している。2016年には、「こどもだけでなく、大人も含めてみんなで協力して、みんなの地球、みんなの問題に取り組んでいこう」という思いから、WEに改称。誰もが大切にされ、違いや個性が尊重される社会の実現を目指している。
- 日本支部の認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)は、1999年の設立以来、国内外でこどもの支援事業に従事している。海外事業としては、「教育」「水と衛生」「保健」「収入確保」「農業と食料」の5つを柱とし、貧困地域の自立を応援する支援プログラムを開発している。例えば、フィリピンやインド、ケニアなどで、こどもが教育を受け、家族が自立できるよう、企業や現地パートナー団体などと協力して支援活動を行ってきた。また昨年は、フィリピンの視覚障害者支援事業のためにクラウドファンディングで1,000万円近い資金を集めた。資金は今後、フィリピン国立盲学校の寮修繕と点字プリンター購入に充てる予定だ。
- 一方、国内では、こども代表委員がリーダーとなり、世界のこどもの権利を守るための事業をこどもたち自ら企画し、活動する「子ども主体事業」、国際問題や社会問題解決に向けて行動を起こせるこどもたちを育てる「子ども活動応援事業」、学校などでの出張授業や講演会、ワークショップなどを行い、世界のこどもたちの状況や権利のことを伝える「アドボカシー事業」、「子どもの権利を守る」という同じゴールをめざして活動するグループや団体と協力・連携する「ネットワーク事業」の4つを軸に活動している。
例えば、貧困や虐待に苦しむこどもの支援や災害復興支援を展開。昨年は熊本で、小さなこどものいる母親に向けてアレルギーに配慮した食料を支給したり、入院しているこどもたちにくまモンのぬいぐるみを贈ったりという支援活動に携わった。その他にも、書籍や教材の制作、海外を訪れるスタディツアーや国内外での合宿型プログラム『Take Action Camp』の実施など、広く活動を展開している。
- "Gift + Issue = Change"
アクションを起こせば、世界は変わる - 主軸となる4つの国内活動の中でも、FTCJが特に力を入れているのが「子ども活動応援事業」だ。
FTCJのメンバーには、FTCの方針や活動に賛同し、自らも社会問題に対して何かアクションを起こしたいと思った18歳以下のこどもなら、誰でも登録ができ、現在は約1,600人(2016年12月末時点)のこどもたちが登録している。 - このメンバー登録したこどもたちから、「やってみたい」という気持ちをより引き出し、問題解決のための具体的な行動ができるよう支援するのが「子ども活動応援事業」。事務局のスタッフは、イベントや活動の情報をメールマガジンで配信したり、電話やメール、オフィスで疑問・質問に対応したり、毎月1回のウェルカムデーの実施などメンバー同士が交流できる場を設けたりして、こどもたちをサポートしている。こうした支援はあるが、主体はあくまでこどもたちだ。メンバーは、すでにあるグループやプロジェクトに参加してもいいし、自分で企画してアクションを起こしてもいい。どんな小さなことでも、アクションを起こしたら事務局に報告することになっている。
- 「"Gift(才能=好きなこと、得意なこと)+ Issue(社会問題)= Change(変化)"がFTCのモットーです。日々の生活の中で、自分が得意なことや好きなことを楽しみつつアクションを起こせば、世界は変わる。こどもたちには、そういうスタンスで活動してほしいと伝えています。例えば、中高生メンバーたちがメーカーと共同で寄付付きのチョコレートを開発・販売している「チョコレートプロジェクト」では、広報活動までメンバーが行っています。また、過去には、チャリティサッカー大会を開催し、集まったお金をインドの学校設立資金として寄付した子や、パンづくりが好きで、近所のカフェの一角で自分がつくったパンを売り、そのお金をインドの井戸整備に寄付した小学生もいました。自己プロフィールに関心のある社会問題について書いた、好きな芸能人のラジオ番組にフェアトレードについて投稿し、番組中に読んでもらった、というアクションを報告してくれた子もいます。これらも立派なアクションです」
- 「こどもには無理」のひと言で、
可能性の芽は摘まれてしまう - 社会問題に関心があるこどもが、主体的かつ具体的にアクションを起こすには、周囲の大人のサポートが不可欠だ。創設者のクレイグ少年の発想がかたちになったのも、家族をはじめ周囲の理解と支援があったからこそ。「『子どもには世界を変えられない』という考えから、子どもをFree(解放)する」というFTCのミッション実現のためにも、大人の存在は大きい。
- 「身近に相談できる大人、サポートしてくれる大人がいることがとても大切です。こどもはやりたいことがあっても、経験や知識がないぶん、どうすれば実現できるかがわかりません。親や先生に相談しても、『まだ無理』とか『大きくなってからやればいい』とか言われてしまうと、そこで道が閉ざされてしまいます。せっかく出た可能性の芽が、摘まれてしまうのです。現に日本では、自分がアクションを起こしても社会は変わらない、と考えるこどもの割合が先進国の中でも高くなっています(※)。こどもたちが自分の可能性や存在価値を感じられる社会をつくっていくことが、私たち大人の役割ではないかと思うのです」
- ※日本を含めた7カ国の満13~29歳の若者を対象とした意識調査(我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 平成25年度)より
- 視野を拡げ、考え、行動することで、
こどもは可能性を開化させていく - FTCJのメンバーが取り組む社会問題は幅広い。貧困や人権侵害など海外の問題だけでなく、学校でのいじめやマイノリティ差別の問題など実にさまざまだ。問題意識を持ち、自分に何ができるかを考え、行動に移していくというプロセスを通して、こどもたちは大きく成長する。メンバーからは、「活動を通して、一歩踏み出すことの大切さ、そして、自分の可能性が無限大だということを学んだ」、「いろいろな人の話を聞いたり意見を交換したりすることが好きになった。国際的な社会問題に限らず、興味のあることに対して積極的に行動できるようになった」などの声が寄せられている。
- 「世界に向けてグローバルな視点を持つことももちろんですが、身の周りにある地域社会の問題に目を向けられるようになります。いまだ多様性に対して非寛容な国である日本にいながら、視野を拡げ、同時に深めることで、相手の立場に立てるようにもなります。活動を通して自信がつくという部分もあります。内気で消極的だった子が人前で堂々とスピーチができるようになったり、かつていじめで負った心の傷を仲間との交流により少しずつ克服していったり、それぞれに変化があります。そして、こどもたちを見ていて感じるのが、その秘めた可能性の大きさです。大人なら躊躇するようなことにも挑戦する勇気や行動力、柔軟性、そして発信力には、私たちが驚かされるほどです」
- 中島さんをはじめとする事務局スタッフの夢は、2年後の2019年度に「WE DAY」を開催すること。カナダでは2006年から開催されており、ボランティアなど何らかの社会的アクションを起こしたこどもたちが一堂に会する。毎年2万人あまりが参加し、世界的に有名なアーティストも応援に駆けつける一大イベントだ。「社会問題に対してアクションを起こすことを、"カッコイイ"に変えていきたい」というのが、中島さんの願いだ。
- 「何かおかしい、気になる、間違っていると思う...そんなときに、こどもであっても堂々と意見を言ったりアクションを起こしたりできる社会、一つひとつのアクションから変わっていく社会、そして、違いを認め合い、互いを尊重し合える共生社会。FTCでは今後も、他団体とも連携しながら、そんな社会の実現に貢献していきたいと思っています」
- 社会に、世界に目を向け、あらゆる問題を「自分ごと」としてとらえること。そして、それに対してあきらめることなく解決策を模索し行動すること。もしかすると、すべてのこどもにその芽生えがあるのかもしれない。こどもの可能性は、大人が思っている以上に大きく深いものなのだ。
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1995年にカナダで創設された国際協力団体「フリー・ザ・チルドレン」の活動理念に賛同した中島早苗氏(現代表理事)が、日本支部として1999年に設立。現在は約1,600名のこどもたちがメンバーとなり、国内外のこどもに関する社会問題に取り組んでいる。事務局では、メンバーの育成や活動支援のほか、出張授業や講演会などを通したアドボカシー事業や、インド、フィリピン、ケニアにおける海外事業なども展開。その理念と活動が高く評価され、多くの企業・団体から支援・協力を得ている。教科書に取り上げられるなど、メディア掲載も多数。
文/笹原風花 撮影/石河正武