組織の力
2017.10.23
イノベーションを起こし続ける、研究者集団リバネス〈前編〉
『人と違うことが価値』の組織マネジメントと人材育成
大学や企業などから知識を集め、分野や業種の枠を越えてコミュニケーションを行うことで新たな知識を生み出す「知識プラットフォーム」を構築し、世の中にない新たなプロジェクトを立ち上げている株式会社リバネス。新規事業の立ち上げなどに取り組むも、思うように進まず苦労している企業が多い中、同社は次々とイノベーションを創出している。リバネスの代表取締役CEOの丸幸弘氏に、社内にイノベーションを起こす考え方やリバネス独自の社員教育法などについてお聞きした。
個を核とした組織形態
『個のネットワーク組織』
イノベーションを創出するうえでの、重要な特徴の一つにリバネス独自の組織形態がある。丸氏は、そのスタイルを『個のネットワーク組織』と呼んでいる。
「リバネスでは個(個人)の力をとても重視しています。しかし、重要なのは研究者としての知識やスキルではなく、考え方(理念)です。個人の考え方(理念)は、『自分は今まで何をしてきたのか』『これから何をしたいのか』『どんな世界をつくっていきたいのか』といった問いを繰り返すことで生まれます。そして外部には、これまで社員みんなで開拓してきた、専門知識・スキルをもった企業や大学などのリソースがある。だから、個人の考えを中心に外部のネットワークを使っていけば、すごく面白いことができる・・・、これが『個のネットワーク組織』です。
リバネスなら社員一人ひとりが、自分の中にある考え方を軸に情熱で周りの専門家たちを巻き込み、プロジェクトを推進していくことができる。これがリバネスの強みになっています」
いまの時代、経理や法務などの専門スキルは外注ができ、将来的には、人工知能に置き換えられる可能性もある。そういう意味でも、リバネスのような『個のネットワーク組織』は今後企業に求められる一つの組織のカタチかもしれない。
"人材育成"よりも、
研究者の心・考え方を養う"教育"が大切
社員の教育についても、リバネスは、他社とは一線を画している。
「僕たちは、"教育"と"人材育成"は似て非なるものと考えています。"教育"は心を育てるもので、『自分は今まで何をしてきたのか』『これから何をしたいのか』『どんな世界をつくっていきたいのか』といった問いを繰り返し、個人の考え方を深めていくことであり、リバネスの研究者として理念を揺るぎないものにしていくことです。一方、"人材育成"とは業務に必要な能力やスキルを身につけるもので、たとえば英語やプログラミングの専門スキルを研修などで磨いていくことですが、リバネスでは"人材育成"はやりません。なぜなら能力は外から調達できるからです。英語が必要なら通訳を雇えばいいし、外にある無限の能力を使えば補える。でも心の教育、考え方の教育はリバネス社内でしかできない。だから"教育"に力をいれているんです。
個人の考え方やリバネスの研究者としての理念がしっかりあれば、それはもう一企業の社長と同じだと思うんです。リバネスには70人の社員がいますが、いわば社長が70人いるようなもの。そんな社員が、『今はまだ世の中に無い面白いことをやろう』、『世界を変えていこう』というそれぞれの想いでプロジェクトを担当しているんですから、仕事が楽しくないわけがない。全員いつも前のめりで取り組んでいます」
そして、社員の"教育"の一環としてリバネスが最も大切にし、続けているのが、子どもたちに最先端のサイエンスを伝える『出前実験教室』だ。難しい科学を子どもたちにもわかるように伝えることで、コミュニケーションスキルを養うのはもちろんのこと、研究者が自分の研究者としての原点を見つめ直すいい機会にもなっている。
「理解できないことを曖昧にごまかす大人と違って、子どもは意味が通じなければ『わからない』とはっきり言います。だからこそ『なぜ、その研究をしているのか』『その研究は、科学の発展や社会の繁栄にとってどんな意味があるのか』という根本的な問いと向き合わざるをえなくなる。社員たちには、入社後3年間はこのトレーニングを積んでもらいます」
社員(研究者)個人の可能性が拡がるチャンスを与えながら、"教育"を通じてコア人材への成長を促していく。そして一人前になれば、個のネットワーク組織を自ら形成し、リーダーとして新しいプロジェクトを創出していく。リバネスでは教育・環境・組織などあらゆる場面に置いて、「個(考え方も含めて)」を活かすというブレない考えが貫かれている。イノベーションを起こすためには、この重要性を再認識することが大切なのではないだろうか。
後編では、リバネスが考えるこれからの働き方や、リバネスでしか創り出せないイノベーションの秘密などについて、詳しくお聞きしていく。