レポート

2018.07.20

WORKPLACEからWISEPLACEへ
イノベーションを創出・加速支援する場づくりとは

第1回 働き方大学
KOKUYO×三井不動産セミナーレポート

業種・業界を超えたオープンイノベーションを目指し、イノベーションセンターやイノベーション組織を立ち上げる企業が増えている。一方、成功事例は乏しく、悪戦苦闘する企業が多いのが現状だ。そうしたなか、『WORKPLACEからWISEPLACEへ イノベーションを創出・加速支援する場づくりとは』と題したセミナーが、2018年6月20日(水)、Tokyo Midtown HibiyaのBASE Qにて開催された。その様子をレポートする。

イノベーションの「場」のモデル

イノベーションセンターは建設工事が先行するケースが多く、竣工と同時にプロジェクトチームが解散し、実際に使うべき人たちに活用されないケースが多々あります。

その理由を探ると、

「どうやって運営・活用すればいいかわからない」
「(トップの判断でつくったため)誰のため、何のためにつくったのか、現場が腹落ちしていない」
「組織の現実とのギャップが大きい」
「関係者を巻き込めていない」
「ワークショップやイベントをやることが目的になってしまっている」
「周囲に成功事例がない」
「経営陣に投資対効果を説明できない」
「イノベーションに必要なスキルや運営に適した人材がいない」

など、大きくはソフト部分に課題があるようです。立派なハードがあっても、ソフトが充実しなければイノベーションは起きません。そこで必要になるのが、"戦略"や"型"です。

イノベーションといえばアメリカ・シリコンバレーが有名ですが、シリコンバレーと同じことが日本でできるかというと、それは難しいでしょう。
イノベーションが生まれる環境として、シリコンバレーには「開放的でクリエイティブな文化」「エンジェル投資家などによる潤沢な資金」「世界トップレベルのIT系人材が集積」といった特色があります。

一方、最近はヨーロッパでも、イノベーションに取り組む中堅都市が増えています。多様な文化圏が入り交じるヨーロッパ各地で、「地域の生活文化に根ざした都市固有の魅力」「EUや自治体によるサポート」「未来志向の多様なクリエイターのネットワーク」などの特色をいかし、都市レベルのイノベーションに取り組んでいます。スタートアップで熱いタリン(エストニア)、リビングラボなどが広がるヘルシンキ(フィンランド)、多様なクリエイターが集うベルリン(ドイツ)などで、シリコンバレーとは異なる動きが見られます。

このようにシリコンバレーとヨーロッパではイノベーションのタイプに違いがあるように、それぞれのイノベーションセンターにおいても、その目的や地域性を含めた戦略が重要になります。日本におけるイノベーションを考えたとき、世界的にもクリエイティブシティとして注目を集める東京の他、全国に魅力的な都市がたくさんあるので、それぞれの魅力をいかした、ヨーロッパのイノベーションが参考になるのではと思います。

また、シリコンバレーとヨーロッパにはネットワーク関係があり、どちらが優れているという話ではなく、日本もこうした世界的な流れに乗っていく必要があります。

いま世界は、「オープンイノベーション2.0」へと向かっています。オープンイノベーション2.0をひと言で説明すると、「産学官民の連携」です。1.0が主に企業を中心としたオープンな研究開発の手法であったのに対し、2.0は産学官民の共創が基本です。4重螺旋を描くモデルで表されるように、スタートアップ、大学、企業、市民、行政といったステークホルダーを相互にネットワークして、未来社会において価値のあるイノベーションを目指しています。

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ここで改めて、日本のオープンイノベーションの課題を整理すると以下の3つに集約できます。

いろいろな技術があっても、何をしたいのかがわからない。
セクター間の壁や受発注関係、上下関係などが硬直化しており流動性が低い。
ベンチャーや若い人たちが活躍できるチャンスが少ない。

こうした現状を打破するためには、"WORKPLACE(働く場)"を"WISEPLACE(賢い場)"に変える必要があり、そのためのポイントが、次の「7つのP」です。もし、イノベーションを起こしたいのであれば、これまでのような働く場ではなく、目的を共有し、流動性が高く、異質なアイデアや人がつながることができる賢い場が求められているからです。

① Purpose(目的)
② People(人々)
③ Program(行程)
④ Process(方法)
⑤ Performance(変化)
⑥ Promotion(展開)
⑦ Place(空間・場)

何があればイノベーションセンターが成功するのかを考えたとき、まず、「場(Place)がある」というのは非常に重要です。多様な人々がいて、そこで思いもよらない出会いがある。物理的な空間には力がありますが、それだけではイノベーションは起こりません。そこで重要になるのが、目的(Purpose)と人(People)。つまり、どんな人たちに関わってほしいのか、そして何をしたいのかということです。共有できる目的があれば、背景や文化が異なる人たちで共創・協働することができます。

次は、行程(Program)と方法(Process)です。目的やアイデアがあっても、イノベーションを実践していくには困難をきわめます。全体をプログラムとして捉え、適切なメソッドを活用していくことが有効です。また、一過性のイベントで終わらせないためにも、それぞれの活動の先にある変化(Performance)を関係者に示し続けることも重要です。

そして、展開(Promotion)。これは、KPI(Key Performance Indicator)というかたちで経営層に示すだけでなく、携わっている人たちの実感としても非常に重要になります。また、社内だけでなく外部に発信することも大切です。外から評価されることで、関係者のモチベーションが上がり次のステージに進める、ということもあるのです。

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※WISEPLACEは一般社団法人Future Center Alliance Japan に帰属する概念です。



齋藤 敦子(Saitou Atuko)

コクヨ株式会社 ワークスタイルリサーチ&アドバイザー/一般社団法人 Future Center Alliance Japan理事
設計部にてワークプレイスデザインやコンサルティングに従事した後、働き方と働く環境についての研究およびコンセプト開発を行っている。主にイノベーションプロセスや共創の場、知的生産性などが研究テーマ、講演多数。渋谷ヒカリエのCreative Lounge MOV等、具体的プロジェクトにも携わる。公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会 ワークプレイスの知的生産性研究部会 部会長など兼務。

齋藤 敦子(Saitou Atsuko)

コクヨ株式会社ワークスタイル研究所主幹研究員。一般社団法人Future Center Alliance Japan理事。設計部にてワークプレイスデザインやコンサルティングに従事した後、働き方と働く環境についての研究およびコンセプト開発を行っている。主にイノベーションプロセスや共創の場、知的生産性などが研究テーマ、講演多数。渋谷ヒカリエのCreative Lounge MOV等、具体的プロジェクトにも携わる。公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会 ワークプレイスの知的生産性研究部会 部会長など兼務。

光村 圭一郎(Koumura Keiichirou) 三井不動産株式会社ベンチャー共創事業部統括、BASE Q運営責任者。講談社を経て三井不動産入社。スタートアップとの協業による三井不動産の本業強化と事業領域の拡大を目指すほか、東京ミッドタウン日比谷にBASE Qを開設し、大企業のイノベーションを支援する活動を行う。

文/笹原風花 撮影/荒川潤