レポート
2018.07.20
WORKPLACEからWISEPLACEへ
イノベーションを創出・加速支援する場づくりとは
第1回 働き方大学
KOKUYO×三井不動産セミナーレポート
業種・業界を超えたオープンイノベーションを目指し、イノベーションセンターやイノベーション組織を立ち上げる企業が増えている。一方、成功事例は乏しく、悪戦苦闘する企業が多いのが現状だ。そうしたなか、『WORKPLACEからWISEPLACEへ イノベーションを創出・加速支援する場づくりとは』と題したセミナーが、2018年6月20日(水)、Tokyo Midtown HibiyaのBASE Qにて開催された。その様子をレポートする。
ケーススタディに学ぶ
国連機関の1つである世界知的所有権機関(WIPO)と米国のコーネル大学が、国の制度、人的資本、インフラ、市場やビジネスの洗練度、テクノロジーに関するデータをもとに各国のイノベーション能力や成果を評価した2017年の「グローバル・イノベーション・インデックス」によると、日本の順位は14位です。決して悪くはありませんが、「生産性」や「働きがい」、「働く人の幸福度」などを総合的に評価すると、日本の先行きは明るくありません。
上位国には、スウェーデン、オランダ、デンマーク、フィンランドなど、年間を通して労働時間が短く、幸福度や働きがいの面でもランキングが上位に位置する国々です。今、働き方改革が叫ばれていますが、イノベーションと切り離して考えることはできません。これらの先進国から事例を紹介します。
【企業のオープンイノベーション IKEA 「SPACE10」】
「SPACE10」はコペンハーゲンにあるIKEAグループのイノベーションセンターです。「Made in Space」をコンセプトに、持続可能な未来社会の創出のため、社会課題をテーマにしたプロジェクトや社会実験などを行っています。コペンハーゲンはクリエイティブかつダイバーシティに富んだ都市で、国家的にデザインを戦略として捉え、国内外から優れた人や企業を集めてイノベーションを興そうとしています。「SPACE10」で用いられているのは、「プレイフルリサーチ」、つまり、ここで活動するリサーチャーやクリエイター自身がワクワクしながら、プロトタイプで社会実装していくという手法です。また、イベントを通して外部から得られた反応や成果をプロジェクトに取り込み、IKEAはそれらを新規事業のヒントにしていくという循環も生まれています。
イノベーションの「場」づくりを
成功させるには
日本人はつい「WHAT(どんなワークプレイス? どんなイノベーション? どんな働き方?)」を考えることから始めがちです。冒頭にお話ししたイノベーションセンターに関しても、投資対象となる物理的な場づくりに偏り、施設見学に行くと、その時点での失敗ばかりに気をとられがちです。ですが、WHATではなく「WHY(なぜイノベーションなのか? なぜ働くのか?)」からはじめることが重要です。
そして、企業は自分たちだけでイノベーションに取り組もうとする"自前主義"ではなく、産(企業・組織)、学(大学などの教育機関)、官(行政)、民(市民)が連携して大目的のために協働する、というエコシステムを形成することが、21世紀においてとても重要です。
昨今は働き方改革が声高に叫ばれていますが、働き方だけを変えようとしてもうまくいきません。今後は、人事制度やビジネスモデル、コミュニティ形成といった要素も含めて、企業のイノベーション、オープンイノベーション戦略全体と紐づけて考えていく必要があるのです。
新たなビジネスの創出と、
それを支えるイントレプレナーを育成する「BASE Q」
三井不動産株式会社ベンチャー共創事業部でスタートアップ向けのオフィススペースやオープンイノベーションの場づくりに携わり、本セミナーが開催されたBASE Qの運営責任者も務める光村圭一郎氏が、同社の新たな取り組みについて講演を行いました。
【光村氏講演概要】
人口減少が進むなか、不動産デベロッパーとして生き抜く道を生み出すために、2015年にベンチャー共創事業部を立ち上げました。主な活動の柱は、ファイナンス(投資・出資活動)とインキュベーション、そしてオープンイノベーション。ファイナンスもインキュベーションも、ベンチャーを理解し、関係を深めるための手段と考えており、ベンチャーと共にビジネスを創造し、それを会社の未来の柱につなげることをなにより重視しています。
BASE Qでは、三井不動産がこれまで培ってきたオープンイノベーションに関するナレッジを、他の大手企業にも提供する仕組みとして「Innovation Building Program」を運営しています。日本の大手企業を対象に、オープンイノベーションを通じた新たなビジネスの創出と優れたイントレプレナー(社内起業家)の輩出をコミットするためのプログラムです。
日本の大手企業は、「組織・制度」「人材」「コミュニティ」の3つの課題を抱えています。具体的には、
✔ 戦略が明確でない
✔ リソースはあるが社内で協力を得られない
✔ 手法がわからない
✔ マインドセットや知識、経験が不足している
✔ 新規事業担当は社内で孤立しがち
✔ 社外の人とつながるコミュニティの不足
などが挙げられます。多くの企業では、こうしたさまざまな課題があるなかで、とりあえずオープンイノベーションをやってみよう、失敗してもいいからやってみようと勢いで動いた結果、成果が出せていないという現状に陥っていると思います。
そこで、「Innovation Building Program」では「伴走ナビゲーター」という機能で、イノベーション戦略の整理からベンチャー企業の探索・マッチング、ベンチャー企業との協業・共創までをサポートしています。ここで重視するのが、「どういうイノベーションを求めるのか? 将来どうなりたいのか?」という目的(Purpose)です。自分たちが何を求めているのかわからないまま会社の知名度だけを使ってベンチャーを集めても、意味がありませんから。
また、BASE Qでは「Qスクール」という学びの場も提供し、ビジネス基礎知識、ベンチャー理解、社内制度・仕組み、プロジェクト推進の4カテゴリーで全20講座ほど設けています。
BASE Qのような場は、あくまでもオープンイノベーション創出のための手段で、そこで活躍するイントレプレナーを育てていかなければ、場はお飾りになってしまうと思っています。
イントレプレナーに必要な要素はダイバーシティ、ビジョン、コミットメント、必要なスキルは共感力、政治力、企画力ですが、サラリーマンは一般的に、外部の新しい人に対する共感力や理解力が鈍化しがちなので、新しいビジネスをつくる企画力や構想力に欠けていると感じています。
BASE Qには夜な夜な"変な人"がいっぱいきて"怪しいこと"を語り合っています。でもそこには、未来の日本社会をデザインする香りがそこはかとなく漂う。そういう空気に触れないと、どれだけ本を読もうが話を聞こうが、ダイバーシティやビジョン形成に必要な刺激は得られないのではないでしょうか。
明確な「目的」を持ったうえで、
さまざまな機会を混ぜ合わせるための"場"が重要
最後に、両者の講演を受け、聴衆からの質問に答えるトークセッションが行われた。
質問:日本企業には成功事例が乏しいということでしたが、成功事例はあるのでしょうか?
齋藤:生活者に近い食品や街づくりの企業のなかにも、場の活用に成功しはじめている企業はあります。オープンイノベーションにおいては、自社がどうありたいかという目的を持ったうえで、集まることにより起こる、意外性や偶然性から、それらを混ぜ合わせて、テーマを共創していく"場"が重要だと改めて感じています。
光村:イントレプレナーは内政派と外交派の2タイプがいると思っています。外交派が社外で得たものを内政派がうまく翻訳して社内に伝えるといったように、お互いの得意な部分を最大限にいかしていくという発想も、オープンイノベーションには必要だと思います。
質問:「7つのP」の中の「Promotion」について、経営層に納得してもらうためには、どのようなKPIなどを示せばよいのでしょうか?
齋藤:場は育っていくものなので、段階別に示す必要があると思います。例えば、初年度はイベントなどのプロジェクト数、将来的にはビジネスのローンチ数など、段階別に複数のKPIを立てて経営層に示していくとよいでしょう。また、イノベーションの量的・質的な結果だけでなく、"組織がどのように変化したか"という過程を見える化する、というKPIの設定もあると思います。
こうして1時間あまりのセミナーは盛況のうちに幕を閉じました。