組織の力
女性の視点がオフィス環境を進化させる
「部門間のコミュニケーション」を促すしかけ
これまでのオフィスは、「業務が効率的に進むこと」が重視される傾向が強かった。しかし近年になって、「自宅やカフェにいるような居心地のよさ」など、今までにない要素がオフィスに求められている。コクヨ株式会社でオフィスファニチャー『DAYS OFFICE』の企画を担当する横手綾美さんは、「男性だけでなく女性を含む多様な人たちが社会を担うようになり、オフィスに求められるものが変化してきています」と指摘する。ワーカーも働き方も多様化する中で、オフィスがどのように変わり、企業価値向上に向けてどのような役割を担っていくのかを横手さんにお聞きした。
- 男性に比べて女性は
居心地の良さを
重視する傾向が強い - 横手さんのチームでは、新しいオフィス環境や家具の開発にあたって、多世代のワーカーを対象に、オフィスや働き方に関する意識調査を行った。すると、横手さんたちが予想していなかった傾向が見えてきたのだという。
「私たちはもともと、WORKをLIFEの一部と捉えている若い世代のワーカーほどオフィスに居心地の良さを求めているのではないか、という仮説を立てていました。確かに全体としてその傾向はみられたのですが、男女差に注目すると、女性の方がより居心地の良さを重視していることがわかったのです」 - データを見ると、全体的に女性の方が男性よりも数値が高く、オフィスの雰囲気・環境に対してのニーズが高いと見てとれる。また、「オフィスの居心地が良い」「いすやデスクの広さなど自席が充実している」「集中できる」といった仕事をスムーズに行える要素を特に重視している。一方で男性は、「会議室やLAN環境など必要なものが過不足なくある」「自分の居場所と感じる」「会社らしさがある」という項目の数値が女性に比べて高い。男女の意識差について、横手さんは次のように推測する。
「女性の社会進出は進んでいますが、とはいってもまだ"働く"ことについては、男性よりも『働くor働かない』を選べる立場にあるケースが多いように感じます。そのため、『働くからには、居心地の良いオフィスで、自分に合った"スタイル"で仕事がしたい』と感じる女性が多いのではないでしょうか。そのため、オフィスの役割も、単なる働く場所、という位置づけから"居心地の良い場所"という付加価値をも求められてきているのだと思います」
- 部門横断型のコミュニケーションを
実現する機能が
オフィスに求められている - さらに調査結果を見ると、「コミュニケーションスペースが充実している」「自由に会話できる雰囲気がある」といった項目も、女性の方がより重視している。さまざまな企業でオフィスに関するヒアリングを行ってきた横手さんは、「『コミュニケーション』は、まさに多くの企業がオフィスの課題と感じている要素」だと指摘する。
「多くの企業が課題と感じているのが、部門を横断したコミュニケーションです。例えば初めて担当する仕事に関する情報が自分のセクションにないと、進め方やパートナーの選び方がわからず、仕事が終わるまでに非常に時間がかかってしまいます。でも、もし部門間でコミュニケーションが活発であれば、必要な情報を持っているかもしれない他部門の人とやりとりができ、仕事がスピーディに進みやすくなります。変化の早い世のなかで、縦割りの組織では生まれない新しい価値をスピード感を持って生みだしたいというニーズが増していると感じます」
- 企業価値を反映したオフィスを
つくることで消費者にも
ワーカーにも選ばれる企業をめざす - では、近年の企業側が求める"オフィス"とはどのようなものだろうか。
「消費者が商品を選ぶときに、そのモノやサービスだけではなく、その背後にある企業の価値観に共感できるかどうかも含めて選ぶ時代になっています。ですから企業側も"その企業の個性を現した"オフィスで働き、その場所から生まれた商品をお客さまに選んでもらおう、という視点に立っています。また、企業の姿勢を体現したオフィスをつくることによって、その企業の価値観に共感する働き手が集まり、よりよい企業活動につながるとも考えられています」 - そのため多くの企業では、オフィスのリニューアルにあたって、「自分たちらしさ(企業の姿勢)」を体現したいと考えるようになっているという。
「オフィスのリニューアルでは、自分たちらしいオフィスをつくることを目的に、総務部ではなくさまざまな部門のメンバーが集まってプロジェクトチームをつくって進めるケースが増えています。このようなチームの方々はオフィスづくりのノウハウがない分、自由な発想で今までの常識を問い直しながら、自分たちらしいオフィスをつくろうとする傾向が強いようです」 - ただし、今までのオフィスのあり方を問い直しながらオフィスをつくるのは簡単ではない。
「オフィスのリニューアルでは、各部門とコミュニケーションを取りながら社内の要望をとりまとめたり、業者と繰り返し打ち合わせをしたりと、時間も手間もかかります。また業者とのやりとりでは、自分たちの要望がどこまで反映されるのか、金額的には妥当なのか、もっとよいプランがあるのではないか......などさまざまな迷いも生じがちです。こういった不安から、『もっと手軽にオフィスがつくれたらよいのに』といった思いもあると思います。オフィス空間を提案する身として、こういった悩みにも応える必要があると感じています」
- 多目的スペースによって
部門間のコミュニケーションを活性化する - 働き方に対するニーズとして多くの企業が挙げる「部門間のコミュニケーション」について、横手さんは「オフィスのつくり方によって解決できるのではないか」と指摘する。その一つの答えが「多目的スペースの設置」だという。
「多目的スペースとは、リフレッシュやミーティングなどさまざまなコミュニケーションを同時に実現できる空間です。例えば、カフェのような居心地の良い空間をつくることによって、いろいろな部門のメンバーが立ち寄る空間になり、コミュニケーションが生まれるのではないでしょうか。また、誰かがミーティングをしている脇でコーヒーを入れたり、席から離れてちょっと業務をしている時に雑談が聞こえたりして、機能別に空間をつくるよりもさまざまな会話が耳に入りやすくなります。そのことによって、他部門のメンバーや業務内容に自然と詳しくなれます。『DAYS OFFICE』では、ソロワークもできるカフェカウンター、ミーティングにもリフレッシュにも使えるソファー席など多目的に利用できる家具を取り揃えて、人が集まりたくなる居心地の良さや、ちょうどよい距離感を生み出す仕掛けを取り入れています」 - 企業に多様な人材が増え、自宅やコワーキングスペースなどで好きな時間に仕事をするテレワークが普及しつつある。オフィス以外の場所で働くワーカーが増える中で、オフィスの役割はどこにあるのだろうか。
「そんな今だからこそ、センターオフィスのあり方を問い直す企業が増えています。一つの答えとして、『ワーカーが集まってコミュニケーションをとる場所』という役割が挙げられます。仕事はもちろん、雑談レベルのインフォーマルなコミュニケーションからイノベーションの種が見つかるケースも多々あります。そのために企業は、時間をかけてでも足を運びたくなるオフィスをつくろうとしています。私たちも、お客様の要望を常に察知し、求められるオフィスを提案していく必要があると感じています。オフィスのニーズは時代にあわせて変化していくものですが、ほしいオフィスをお客様自身がいつでも簡単に思い描けるよう、私たちはオフィスリニューアルのためのプランニングアプリも開発し、要望に応えようとしています」 - 女性が社会でますます活躍するようになり、オフィス環境に求められる要素も変化しつつある。ワーカーのニーズに合わせて「自分たちはどんな働き方をしたいか」「その働き方をするためにどんな環境が必要か」と常に問い直しながらオフィスを見直すことによって、企業価値を高め続けていけるのではないだろうか。
横手綾美
コクヨ株式会社ファニチャー事業本部に所属。コミュニケーション空間バリューチームの品川グループ課長補佐。2015年より、「居心地の良いオフィスを、だれでも、自由に、楽しく、かんたんに。」をコンセプトとするオフィスファニチャー「DAYS OFFICE」のプランニングアプリ開発を担当する。
「居心地の良いオフィスを、だれでも、自由に、楽しく、かんたんに。」というコンセプトのもとに開発されたオフィスインテリアシリーズ。自宅のリビングにも置きたくなるようなデザインテイストで、家具を設置するだけで居心地の良い空間を手軽に実現する工夫が随所に施されている。専用のアプリを使えば、パズルのように簡単にレイアウトが作成でき、3Dイメージや金額もすぐに確認する事が可能
文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ