組織の力

2019.08.19

明治安田ビルマネジメントが実現した全社レベルの業務標準化〈前編〉

トップの強い思いと行動力が現場を動かす

全国約570棟のビル管理を手がける明治安田ビルマネジメント株式会社では、2018年春から本社と全国9つのセンターが一丸となり、業務標準化に取り組んでいる。中でも具体的な成果として同社が挙げるのが、ドキュメントの管理基準を明確にし、ファイリングシステムを全センターで統一したことだ。浅野紀久男代表取締役社長は、「効率的な働き方を実践するうえで、今回の標準化は非常に意義あるものだと自負しています」と強調する。ファイリングの統一が効率的な働き方にどう効果的なのか…。実際の取り組みはどのような流れで行われ、どんなメリットがあったのか。浅野社長と、チームを率いて業務標準化を推進した増田宏伸氏、上田俊一氏にお聞きした。

適切なファイリングによって
業務もオフィススペースも効率化できる

ファイリングとは「ルールに従い、分類・整理し、保管から保存、廃棄への流れを運用していく仕組」を指す。一つひとつは地味だが、積み重なれば業務効率化やオフィススペースの効率化、ひいては経費節減につながるとして注目され、ファイリングシステムの導入に取り組む企業が増えている。

ではなぜ、ファイリングに経費節減効果が期待できるのか? それは、ファイリングを適切に行うことで情報を探す時間やムダな書類を保存するスペースを削減できるからだ。今回の業務効率化でファイリングコンサルティングを務めたコクヨ株式会社によると、一般的にファイリングの手法を整えることによって、200人規模の企業では年間4000万円ほどの経費節減が見込めるという。



多様化するビルマネジメントの
ニーズに応えるために業務品質向上を目指す

同社は、親会社である明治安田生命が所有する全国約570棟のビル管理を主な業務として、テナントの誘致や建物・設備のメンテナンス業務などを手がける老舗ビルマネジメント企業だ。全国に9つのセンターがあり、200人を超える職員が業務に取り組んでいる。

2017年秋から同社では、本社と各センターのメンバー約60名による「業務品質高度化タスクフォース」をつくって改善活動に取り組んでいる。業務品質高度化を発案した理由を、浅野社長は「お客さまに選ばれる企業であり続けるため」と語る。

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「近年はビル管理やオフィス環境に対するニーズが多様化し、今まで以上の業務品質が求められます。さらに、現場の働きやすさを高めて職員一人ひとりが自分自身を磨いたり、家族と過ごす時間を増やしたりするためにも、業務の効率化が不可欠と感じました」(浅野社長)



現場からはファイリング方法の
標準化を望む声が目立った

タスクフォースはいくつかのチームに分かれて活動しており、「業務標準化」というテーマを担うチームのリーダーはビル業務企画管理部の増田氏(現・明治安田生命保険相互会社不動産部)、サブリーダーはビル運営事業部の上田氏が務めることになった。

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左)増田宏伸氏 右)上田俊一氏



業務標準化の中でも改善を望む声が高かったのが、各センターで保管している書類のファイリングに関してだった。増田氏は、改善前の状況を振り返って「ひと言で言えばバラバラだった」と指摘する。
「弊社では、3~4年ごとに異動する職員が少なくありません。新しいセンターと前のセンターとでやり方が違うと、必要な書類がどこにあるのかがわからず、探すのに必要以上の時間がかかってしまいます。そして新しいセンターのやり方に慣れた頃にはまた異動があり、別のファイリングのやり方を覚えなければいけない。短いサイクルでも中長期的に見ても、時間のムダが発生していました」



ファイリングの課題1:
書類の分類方法が異なる

具体的な違いとして増田氏は、標準化されていなかった要素として、まず書類の分類法を挙げる。
「ビルマネジメント業務では、ビルに関する各種図面やビルに入居いただいているテナント様との契約書、ビル管理を私たちと共に担ってくれる協力会社との契約書など、さまざまな書類が日々作成されますが、それらの書類を、ビルごとに分けているセンターもあれば、業務内容ごとに分けているところもあったんです。異動してきた職員は、つい慣れたやり方をしてしまい、後でやり直すこともあったようです。またセンターによっては、担当者によって分け方が違う、なんてこともあったようです」



ファイリングの課題2:
書類のタイトルルールが守られていない

ビル管理という同じ業務を行っている以上、作成される書類の内容も当然同じになる。
「ただし問題なのは、書類のタイトルルールはあれど厳密に守られていなかったことです。つまり、同じ内容の書類でも、センターや場合によっては担当者によって呼び名が違うという事態が発生してしまうのです。異動した職員は、『○○という書類がない!』と探すのに時間をとられることも多かったと聞きます」(増田氏)



ファイリングの課題3:
ファイリングに使うツールがバラバラ

書類の分類方法はタイトルだけでなく、書類を保管するために使うファイリング用品もセンターごとに異なっていた。
「ツールが違うということは、保管方法も異なるということです。あるセンターでは書類に穴を開けて綴じているのに、別のセンターではクリアファイルで管理しているといった感じですね。このことも、異動してきた職員にとっては戸惑いの元になっていました」(増田氏)

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ファイリングの課題4:
ファイリングに対する意識が統一されていない

増田氏が「目立たないが見逃せない」と指摘するのが、ファイリングに関する意識の問題だ。例えば、保存期間を過ぎた書類に関して、「処分しなければならない」という意識が薄いセンターもみられた。
「基本的には、法令で決められた保存時期を過ぎた書類は順次廃棄していくルールを会社として設けています。しかし、その意識づけが徹底していなかったため、いつか必要になるかもしれない、と10年、20年と書類をとっておくセンターもありました」



明治安田ビルマネジメント株式会社

1963年設立。経営理念として「安全・安心・快適なオフィス環境を、いつまでも」を掲げ、明治安田生命保険相互会社の所有するビルの工事管理や設備管理、オーナーに代わってリーシング(空室対応)やテナント対応などのプロパティマネジメント(不動産所有者に代わり不動産収益性を最大化し価値を向上させるマネジメント)を担う。顧客のニーズにきめ細かく対応し、企業ビジョンである「オーナーならびにテナントから、常に信頼され選ばれるプロパティマネジメント会社」をめざす

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ