ライフのコツ

2019.11.26

私立も学費は無償!不登校もいじめもゼロ?

世界の学び/オープンで幸せなオランダの教育

世界の教育情報第26回目はオランダからのレポートです。LGBTなどのマイノリティに対して寛容なことで世界に広く知られるオランダ。そんなオランダでは、公立、私立に関係なく小中学校の授業料が無料で、個に合わせた柔軟な学びを受けることができます。今回は、2013年にユニセフが行った「先進国における子どもの幸福度」で総合第1位になったオランダのオープンマインドなこどもを育成する教育政策と、多様性に富んだ人材輩出を可能にする秘訣を紹介します。

移民国家オランダの
無償の教育
今、オランダ国内の四大都市(アムステルダム、ロッテルダム、デン・ハーグ、ユトレヒト)では、14歳未満の約6割が、本人もしくは両親の少なくとも一方が外国生まれという移民国家となっています。これは、1960年代の高度成長期の建設ブームのときにトルコやモロッコから出稼ぎ移民が多く流入したことと、2015年以降のシリア、アフガニスタン、パキスタンからの難民受け入れによる結果です。
都市部では移民を受け入れることは当たり前という感覚が強く、移民のこどもたち向けの手厚い支援もあります。小学校入学前には補習校に通ってオランダ語の授業を半年から一年ほど無料で受けることができます。言葉の面の不安を解消してから現地の小学校に転入できる仕組みです。また、オランダ語に不安を感じる中学生以上のこどもたちも、この小学生向けの補習校を利用することができます。
また、このような支援の背景には、オランダが一貫して行ってきた教育の無償化があります。1900年に最初の義務教育法が制定、その20年後の1920年には憲法23条によって「無償の教育」が定められます。小中学校は公立でも私立でも無料で通うことができ、ワークブックや文房具などの教材費も一切かかりません。(ただし、インターナショナルスクールは私立・公立とも有料)
義務教育は5歳から16歳(※1)までで、移民を含むすべてのこどもが学校に通う義務があります。小学校は4歳から12歳までの8年間、その後は中高一貫教育となり、コース別にわかれます。各自が単位を取得する方式で、日本の大学のようなシステムです。職業中等学校(VMBO)が約4年間、高等一般教育(HAVO)が約5年間、大学準備一般教育(VWO)が約6年間あり、コース別の受講比率は、職業中等学校が54%、高等一般教育が24%、大学準備一般教育が22%となっています(2010年のデータ)。
※1:16歳以降17歳までは、週2回のみの部分的義務教育となる。
オランダの中高一貫教育では、学習指導要領と卒業までの成長を測るための全国学力調査に沿って、指導が行われていますが、授業内容は学校が自由に決めることができます。学力調査では、教科ごとの成績を他のこどもと比べることは一切なく、個人の成長を測る個人内評価に終始。標準的な教科書(最近の主流はアプリ)はあるものの、こどもたちの習熟度によっては学年の垣根も飛び越えてフレキシブルに授業を組み立てることができます。日本のような受験制度はなく、学力調査を参考に進学先を決定。能力に合わせて、他コース編入や転入、飛び級も可能で、流動的な教育制度が特徴です。
オランダ国内には15の大学(2017年現在、私立は1校)があり有料ですが、年間約20万円(2017年現在)と学費が安い上に、1年目の学費が半額、教員不足のため教員養成コースは2年間半額といった補助が手厚いのが特徴です。しかし、大学の入学資格を得るには、オランダの中等教育において最高レベルのVWOの卒業資格が必要なため、大学進学率は10%以下と低く、オランダにおいて大学進学は狭き門なのです。そのため、大卒はまさにエリートで、生涯年金も高いと言われています。
移民/マイノリティに
開かれた国だからこその課題
移民のこどもに対しても教育対策を積極的に行っているオランダですが、2015年以降の急激な移民増加によって、移民や移民を含む社会的少数派、いわゆるマイノリティをとりまく問題もでてきています。地域によっては難民センターがあり、ときとして、異人種間の若者同士の揉め事などから警察が出動するようなトラブルにつながることもあります。また、一見すると移民のこどもたちは楽しく学校に通っているようにみえますが、補習校に通った後、現地校に転入したものの言葉や文化の違いからストレスを抱えてしまうケースもあるそうです。
2001年、世界で初めて同性同士の婚姻が認められるなど、オランダでは早くからマイノリティの人権が法律で保護されてきましたが、LGBTや移民などのマイノリティに対する人権問題に関して、意見が対立している地域も存在するようになり、教育から変えていこうとする動きが出てきました。
寛容で健全なこどもを
育成するための学校での取り組み
マイノリティの人権問題への取り組みとして、2012年より初等および中等教育において『性の多様性教育』が義務化され、人権教育として学習指導要領にも盛り込まれました。「自分自身とほかの人の心と体の健康」についてワールドオリエンテーション(総合学習の一種)の授業を通して学び、性や人種の多様性について理解を深めることで、寛容な心の育成をめざしていす。
また、2012年には健康や体について学ぶ『ヘルシースクールプログラム』がスタート。これはEUの『ヘルシープロジェクト』の一環で、小学生を対象とした週一回程度のフルーツの無料配布。食育によって心も体も健全なこどもを育成するための試みですが、経済的に恵まれない移民のこどもや、偏食傾向があるこどもにもメリットとなっています。
さらに、不登校対策としてスクールソーシャルワーカーが週1~2回学校を訪問。教師、保護者、児童と面談を行ない、「勉強ができない=レベルが合っていない」と判断されれば、一学年下げることもあります。また、特別な支援を必要なこどもに対しては、学校と地域の保健所や福祉センターが連携を取り、必要に応じて医療機関につなげるなど不登校児を出さないためのきめ細やかな支援体制を整えています。
また、驚くべきことに、オランダではいじめがほぼゼロなのだとか。個人内評価にくわえ、フィンランドのいじめ予防プログラムなどを導入し、いじめの原因となるストレスが生じない環境をつくることで、こどもたちは自分らしくのびのびとした学校生活が送れるのです。
すべてのこどもに門戸が開かれたオランダの手厚い教育が、こどもたちの幸福度に大きく貢献していることは間違いないでしょう。学力主義に偏らずとも、こうしたフレキシブルな教育を享受して大人になったこどもたちが、ゆくゆくは多様性を理解する優秀な人材となり、包括的なオランダ社会をさらに発展させていく原動力となっていくのではないでしょうか。

ハモンド綾子

グローバルママ研究所リサーチャー。日本でメディア会社勤務後、1999年渡英。ファッション/ホテル業界勤務を経て、2006年よりライター/リサーチャー/翻訳者として活動中。イギリス人の夫、バイリンガルの息子2人と4人暮らし。


グローバルママ研究所

世界33か国在住の170名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2017年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。