レポート
2020.01.17
やる事・やり方を変えて倍速で働く仕事術~時間を生み出すコツを伝授~
WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.8
2019年11月22日(金)に開催した「WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS」から、「やる事・やり方を変えて倍速で働く仕事術~時間を生み出すコツを伝授~」の様子をレポート。日本は今後、急激に人口減少が進むといわれている。例えば、これまで10人で行っていた業務を6人でこなさなければならない未来がやって来るかもしれない。つまり、労働人口の減少に対応しながら、生産性が高い国であるアメリカに追いつくためには現在の2.5倍の生産性が求められる。ワーカーは今すぐ現状の倍以上ともなる成果をあげなければいけない切迫した状態といえるが、生産性を高めるにはどのように仕事に取り組むべきなのだろうか。
働き方改革とは
「時間の使い方改革」である
スピーカーであるコクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部コンサルタントの立花保昭氏が提案するのは、業務効率や生産性の向上、残業削減を実現するための15の仕事術。立花氏が日々実践している手法を紹介しながら、実際に効果を体感できるワークも取り入れた講演を行った。
労働時間(残業時間)を削減させ、生産性を向上させるために重要になるのは、削減すべき時間と増やすべき時間を区別することです。
削減すべき時間=定型的ワーク(上図のグレー部分):定例の会議や資料作成、メール等はトコトン削減
増やすべき時間=創造的ワーク(上図の水色部分):定型的ワークの削減によって生み出した時間を、新しいものを生み出すチャレンジや、競合と差別化するための発案等の創造的ワークに変換
ただ、削減すべき時間と増やすべき時間を区別することが重要といっても、単に時間配分を変えることが目的ではなく、本来の目的は企業の継続・発展です。そこで重要になるのが目指すべき姿(ビジョン)を決めること、そして、ビジョン達成の障害となる現状課題を明確にすることです。現状の課題が明確になれば、その原因(本質的な課題)を深掘りし、適切な施策を打つことができます。
目指す姿(ビジョン)を決める
生産性を上げること自体が目的ではなく、生産性を上げて成果・価値を最大化するのが目的です。達成すべき企業ビジョンを決めることが非常に重要で、その後に初めてワークスタイルが決まってきます。
課題を深掘る
表面的な課題ではなく、本質的な課題にアプローチする必要があります。
・型(ルール、運用、仕組み、制度 など)
・場(空間、動線、ICT、ツール など)
・技(意識、スキル、テクニック など)
上記の3つを同時に変えなければ、働き方を変えることはできません。
企業のあるべき姿を決めたり、本質的な課題の深堀などは、企業全体で取り組むべき「働き方改革」ですが、これからご紹介する「仕事術」は、みなさん一人ひとりが、明日から実践できる「働き方改革」です。一つひとつは小さいことですが、継続していくことで必ず成果が出るものばかりです。自社の継続・発展のためにも、みなさんができる改革の一歩にチャレンジしていただきたいと思います。
定型的ワークを削減する
仕事術13/15選
立花氏の紹介する15の仕事術のうち1~13は、定型的ワークを削減するための仕事術。メール術やファイリング術、会議をシンプルかつ有意義にする方法も伝授された。チームに分かれて会議の課題を挙げるワークでは、理想的な会議の在り方を体感した。
1.メール:タイトルの付け方
締め切りがある案件の場合、今見なくてはいけないメールであることを相手に伝えるため、日付をタイトルに挿入。
タイトル例:【依頼10/5(月)中】○○のデータをください
読んだ瞬間に大体の内容がわかる明確なタイトルが付いていると、メールを開いてもらいやすくなる。
タイトル例:~~の件、2点質問です
簡単な内容はタイトルに書く。これで相手がメールを開く手間が省ける。個人ではなく普段仕事を一緒にやっているチームでやることに意味があるため、チームでルールづくりを。
例:これまで本文に書いていた「ご連絡の件、了解しました」を、「了解。本文なし」とタイトルに書く
2.メール:本文の書き方
最初に要点を書き、後は番号を付けて箇条書きに。返信をするときに「1の件は~」と返すことができる。短い時間で理解できるように整理し、可能な限りスクロール不要の文字量に抑える。
3.単語登録
よく使う単語はパソコンに単語登録を。登録したい単語を選択し「Ctrl+F10」で簡単に登録が可能。
下記は頭文字の入力だけで済むのがベスト。
「お」⇒「お疲れ様です」
「あ」⇒「ありがとうございます」
「じゅ」⇒会社住所
「で」⇒電話番号(03-〇〇〇〇-〇〇〇〇)
4.単語登録:スマートフォン
機種によって多少違うものの、下記の方法で登録可能。頻繁に入力が必要になるメールアドレスやパスワードは、予め登録。入力が面倒なスマートフォンの単語登録は特に効果的。
5.コピーペーストのショートカット
コピーペーストは文書作成において頻出する操作。ショートカットで覚える。
図形のコピーペースト「Ctrl+D」
Dは「ドロップ」という意味で下にコピーペースト。異なるシートにコピーしたい場合は、「Ctrl+C(コピー)」と「Ctrl+V(ペースト)」。
図形の並行移動「Ctrl+Shift+左クリック」
図形を選んだ状態で横に移動させるとズレなし。後から位置の調整が不要に。
書式のコピーペースト「Ctrl+Shift+C」・「Ctrl+Shift+V」
太線や下線など、書式ごとコピーペーストしたい場合に使用。
Shiftは「ルールをシフトする」という意味。コピーのC、ドロップのDなど、キーの意味を知るとショートカットが頭に入りやすくなる。
6.資料作成:パワーポイント
体裁を整えることに時間をかけてしまいがちですが、1時間で資料をつくるとしたら、55分は文言の精査に注力。見栄えは最後にスマートアートで、5分で色やデザインを整える配分で。
7.課題を深掘る
オフィスで集中できない方は、「型(ルール・仕組み)」や「技(意識・スキル)」の視点からも課題を深掘りしていくと、個人で解決できる課題が出てきます。
例えば「机の上が整理されていない」「メールのポップアップを解除していない」など。個人で取り組んだうえで、集中エリアの設置や集中タイムの設定など、組織の中でルールを設定するのが望ましい。場・型・技が全部揃わないと、「集中できる環境」は実現できません。
8.やる事・やり方・やる力で会議を変える:やる事
「もしも」の時用の会議資料の作成をやめてみる、毎週の定例会議を隔週にするなどのトライを。1日1時間の会議が月2回になれば1人2時間の削減、10人の会議なら合計20時間分の削減が可能に。大事なのはトライすること。会議が必要だと思ったら以前に戻すだけ。
9.やる事・やり方・やる力で会議を変える:やり方・やる力
効率的に課題出しをするポイントは、「3~4人」のチーム編成にあります。5人で1チームだと、どんなに誘導しても発言しない人が出てきます。アイデア出しをするときは、5人以上はNG。(ここで5分間のワークを実施。会場で3~4人一組になり、自社の会議の課題を出し合った。目標は20個、今までの最高は26個。27個の新記録を出したチームがあり、会場が拍手に包まれた)
10.ファイリング:クリアデスクトップ
・デスクトップのアイコンは最小限に
・よく使うファイルやプログラムは「クイック起動」に登録
・データはクラウドに保存
・よく使うクラウドフォルダもツールバーに登録
PCの起動速度向上、検索性向上等のメリットあり。中でも最大のメリットはクラウド活用で社内における知の共有が可能なこと。使いたい人がいつでもデータをコピーし、新たな情報を上乗せすることも可能に。
11・ファイリング:ファイルタイトルの付け方
電子タイトルは「191122_タイトル_バージョン」のように最初に日付を入れ、アンダーバーを入れて読みやすく区切るのがポイント。ファイル名に「最新」・「最終」・「完成」といったワードを使うのは絶対禁止! その代り「完成」というフォルダを作り、最新のファイルを1つのみ保存。途中経過は別フォルダに入れ、3カ月後に削除。これも個人ではなくチームで取り組む。
12.ファイリング:フォルダタイトルの付け方
「10_フォルダ名」、「20_フォルダ名」と先頭に番号を付けて、良くアクセスするフォルダが上にくるように並べる。
10番ごとにするのは、後から10と20の間に挿入したいものが出てきたときに11、12~と付けるため。クライアント別にフォルダをつくるときは、「コ_コクヨ」のように、最初にカタカナ半角で読みの頭文字を入れると、あいうえお順に並ぶ。数が多い場合は、ア行、カ行でそれぞれ一つフォルダをつくることを推奨。
13.フリーアドレスやABWの導入
新しい働き方を導入する際は、そのメリットや目指す姿・ビジョンを社員にしっかり伝えること。コミュニケーションの活性化を目的としているなら、誰と誰のコミュニケーションなのかを明確に。
新しいものを生み出す
仕事術2/15選
15の仕事術のうち14、15は、創造的ワーク(新しいものを生み出す)ための仕事術。Excelを使った「100のアイデアを出す方法」の実演には会場全体から感嘆の声が上がった。
14.5分で100のアイデアを出す方法
Excelの文字列を連結させる関数「CONCATINATE」を使うと、あっという間に100個のアイデアが出る。くだらないアイデアも入ってきますが、それも大歓迎。100のアイデアを出した後、その中から市場になくてつくるのにハードルが高いものを2つ3つ選んで、そこから再度100に膨らませる。新商品開発などで活用すると市場にないものが生まれるかもしれない。
15.マンダラート
発想法の一種。紙に縦3マス×横3マス、合計9マスのマス目を書き、それぞれのマスの中心に「なりたい姿」「深めたい課題」などを記入し、そのマスを囲むように「達成するために必要なこと」「課題に関連した語句」を8つ書く。
大谷翔平選手が高校1年生のときに書いたマンダラートはよく知られている。目指す形をより具体的に書くことが重要で、大谷選手は「ドラフト1位」ではなく「ドラフト1位を8球団から受ける」と具体的に書いている。中でも、「運」というマスに書いた「ゴミ拾い」に大谷選手の凄さを感じる。メジャーの試合でも近くに落ちていたゴミをポケットに入れた場面があった。大谷選手は今でもマンダラートの内容を実行しているのだろう。
「自分は大谷にはなれない」ではなく、彼のような一流の選手でもこんなに小さなことを一つひとつやっているから今の姿があるのだということを胸に、みなさんもぜひ一つひとつを積み重ねていきましょう。
まとめ
働き方改革は、残業時間の削減や柔軟な働き方など、個人のワーク・ライフ・バランスの確立を軸に語られることが多い。しかし、今後ますます深刻化する労働力不足への対応策としても欠かせないものである。紹介された仕事術の中には、メールタイトルや単語登録などは「数秒程度の削減だろう」と感じられる要素もあるかもしれないが、それを5年、10年と続けると大きな時間のロスになる。「何もやらなければ0のまま」と立花氏が解くように、倍速で働く自分をイメージし、今すぐ15の仕事術を実践したいものだ。
立花 保昭(Tachibana Yasuaki)
コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部 ワークスタイルコンサルタント/1級ファイリング・デザイナー/オフィスセキュリティコーディネータ
1990年コクヨ入社。出向した総合商社での大手流通業向け中国製品の開発・輸入・販売、コクヨでの開発営業、及び上海でのカタログ通販ビジネス立ち上げ等の経験を生かし、現在は企業向けの働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポート。