組織の力

2020.02.03

信金中央金庫が「チャレンジする組織風土」の醸成に向けて挑んだABW〈前編〉

新たな価値創造に向けてオフィスと働き方の大胆なリニューアルに挑戦

2020年に創立70周年を迎える信金中央金庫では、2018年8月に業務改革プロジェクトを開始し、ICT環境の整備や業務のペーパーレス化、本店オフィスのリニューアルを行ってきた。プロジェクトの中核を担う総合企画部長の神野善則氏は、「激変する金融業界において、今までと同じやり方をしていたのでは価値を提供し続けることは難しい。画期的なアウトプットを実現するには、働き方と環境を同時に変えることが不可欠だと考え、大規模な改革を実現しました」と語る。前編では、同社が改革に着手した経緯や、方向性の策定についてお聞きした。

「面白い仕事・楽しい職場」に向けて
働き方もオフィスもリニューアル

信金中央金庫(以下、信金中金)では、今回のプロジェクトに着手する以前から、RPA(Robotic Process Automation:PC上で行われる業務を自動化する技術)などを活用した既存業務の効率化などに取り組んでいたが、激変する金融環境に限られた経営資源で対応するため、業務のあり方や職員の働き方をより抜本的に見直すことを決めた。
柴田弘之理事長はプロジェクトの開始にあたって、職員に求める働き方について「面白い仕事・楽しい職場を実現する」「自分で考えてクリエイティビティを高める」といった方向性を打ち出している。

柴田理事長の思いを受け、総合企画部と総務部、人事部、システム部が連携してプロジェクトが本格始動。まずは「ありたい働き方」を検討し、『ENJOY!~for the next innovation~』というコンセプトを打ち出した。総合企画部長の神野善則氏はこのコンセプトワードについて、「新しいスタイルの働き方を楽しむことで一人ひとりが創造性を高め、新たな時代の価値を生み出したい。そんな思いが込められています」と説明する。



激変する金融業界
信用金庫業界がもつ危機意識

ではなぜ、新しいスタイルの働き方が信金中金に求められているのだろうか。神野氏は大きな理由として、近年における金融業界の激変を挙げる。近年は、低金利環境の長期化、デジタライゼーションの急速な進展によるフィンテック企業の台頭などのさまざまな課題により、金融業界全体で危機意識が非常に高まっているという。

「さらに信用金庫業界にとっては、大都市以外で人口減少や高齢化が進んでいることも根源的な問題です。後継者不足によって中小企業の減少が進むことは、地域に根ざした金融機関である信用金庫にとって大きな課題となるからです。信金中金は、全国の信用金庫のセントラルバンクとして業務のサポートを担っており、信用金庫とともにこうした地域課題の解決に尽力しているわけです」

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そして神野氏は、「激変する時代だからこそ、新たなチャレンジをしていく必要がある」と強調する。
「これまで信用金庫業界は、安定したサービスや商品を提供して地域社会の繁栄に貢献し、社会的な信用を得てきました。しかし今後、信用金庫が地域において最も信頼される金融機関となるためには、今まで以上に信用金庫が地域の課題解決に経営資源を優先配分できるように、私たちが縁の下でサポートする必要があると考えています。信用金庫のセントラルバンクである私たちは、信用金庫業界の付加価値を高めるために率先してチャレンジし、新しいものを生み出す使命を担っています。そのために、職員の働き方を変えることが必要だと考えました」



オフィス環境の一新
慣れ親しんだ環境を刷新するビッグチャレンジ

本店リニューアルに向けて、信金中金では、コクヨに働き方改革コンサルティングと新オフィスの設計を依頼し、働く環境とワークスタイルをセットで見直すことにした。そしてまずは、オフィス環境と職員の働き方や意識について実情をつかむためのアンケート調査を実施した。

その結果、オフィスなど職員が働く環境に関しては、「デバイスやネットワーク環境への不満」や「執務デスクで集中しづらいといった意見」が寄せられた。さらに、働き方や意識についても、自席(固定席)での業務比率が非常に高いことや、ちょっとした打合せでも個室を利用する傾向が強いといった特徴が浮かび上がった。

また、『ENJOY!~for the next innovation~』のコンセプト実現に向けても、「働く場を自らが選ぶアクティブな働き方」、「フラットなコミュニケーションの増加」、「より発信型のオープンなミーティング」といった働き方の変化を起こして行く必要もあった。

このような現状の改善と「ありたい働き方」の実現に向けて信金中金では、ペーパーレス化によるデジタルベースの業務運営や、拠点内の無線LAN化といったシステムインフラの整備のほかに、会議室数の見直しや業務内容に応じて自らの意思で働く場所を選ぶABW(Activity Based Working)なワークスタイルを取り入れた、本店オフィスのリニューアルに着手することを決めた。

「例えばオフィスのリニューアルだけを行っても、仕事の進め方が今までと同じなら、せっかくの新しい環境を活かすことができません。逆も然りで、ペーパーレス化やABWだけを取り込んでも、オフィスが今までと変わらなければ、「ありたい働き方」は実現しません。オフィスとワークスタイルを同時に変えることによって初めて、効率化やクリエイティビティの向上につながると考えて、トータルで変えるやり方を選びました」(神野氏)

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働き方を変えようとするとき、「まずはオフィスに小規模なコミュニケーションエリアをつくる」「テレワークをトライアルで施行してみる」といったスモールスタートが有効な場合もある。しかし信金中金は、ファシリティ、ペーパーレス、ICT、働き方をAll in oneで見直すことによってドラスティックな変革を起こそうとした。働き方やオフィス環境、制度などを一気に変えることで、相乗効果が期待できるのも確かだろう。
後編では、全部署での導入に先駆けて総合企画部で導入した新たな働き方と新しいオフィスについて紹介する。

信金中央金庫

1950年に「全国信用協同組合連合会」として創立し、「全国信用金庫連合会」(全信連)への組織変更を経て2000年に現名称に。信用金庫のセントラルバンクとして、全国の信用金庫の地域金融・中小企業金融などの業務のサポートや、金融商品の提供・リスク管理などの経営のサポートを担っているほか、信用金庫業界の資金運用機能として、国内外の金融市場で約38兆円を運用する機関投資家として、金融市場における重要な役割も果たしている。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ