組織の力
いま取り組むべきオフィスの防災とは?〈前編〉
コロナ禍で変化するオフィス防災
東日本大震災から10年。備蓄品の賞味期限を前にオフィス防災を見直す時期を迎えている。コロナの感染症対策が必須な今、防災対策に関する新たな課題も出てきた。早急の課題と今後の防災対策について、コクヨ株式会社HSソリューション部マーケティンググループで企業の防災プランニングを担当する相田勇輝氏が解説する。
企業において 防災意識が高まった背景
まずオフィス防災・企業防災とは、文字通りオフィスにて行われる防災対策・企業が行う防災対策のことです。 企業防災については内閣府のHPに、「企業が果たすべき役割を認識し、防災対策と事業継続の推進に努める」とあります。つまり企業自らが、災害により被る被害を軽減するために何らかの策を講じることと、事業継続計画の整備と訓練などにより、事業を止めない、あるいは早期に復旧させることで社会における責任を果たし続ける、という2つの大方針により構成されています。 オフィス防災・企業防災が定着し始めたのは、1995年の阪神・淡路大震災後の頃。大災害を経験し、自治体や家庭だけでなく、企業にも防災が必要と考えられるようになりました。しかし、当時はまだ具体的に何を備蓄し、どのような対策を行うべきか明確ではありませんでした。 その後、2011年に東日本大震災が発生。それまで災害が起こった場合、企業は社員を自宅に帰すことが基本でしたが、東日本大震災では交通がストップし、多くの人が帰宅困難者になりました。そこで初めて、オフィスの備蓄品を使うという体験をした企業も多く、災害時に必要な物や防災対策の問題点が明らかとなり、企業の防災意識が高まったのです。 さらに、2013年には「東京都帰宅困難者対策条例」が施行され、大規模災害発生時には、むやみに移動せず、3日間はオフィスに滞留することが基本となりました。条例では、企業は従業員向けの3日分の水や食料、簡易トイレ、毛布などの備蓄をするよう努力義務化されました。
コロナ禍前後で 防災対策はどう変化したのか?
こうした流れの中で、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の拡大により、オフィス防災・企業防災の課題も変化しています。
〈beforeコロナの課題〉
2018年、コクヨが企業防災担当者を対象に行ったアンケートによると、「防災用品の管理・運用」が一番の課題でした。 具体的には、次のような悩みが挙がっています。- ●人事異動による防災用品の買い足し、期限到来による防災用品の買い替え・処分に苦労している。
- ●オフィス移転やレイアウト変更による防災用品の置き場所の変更が大変。
- ●防災担当者は2~3年で変わることが多く、防災用品の引き継ぎが課題。他業務との兼務であることに加え、低い業務ウェイトで担わざる得ない環境にあり、引き継ぎが十分に行われない。
〈with/afterコロナの課題〉
コロナ以前からの課題に加え、コロナ禍においては、働く環境が大きく変化し、さらなる課題が防災担当者を悩ませています。具体的には、次のような悩みが上がっています。
- ●変動する出社率に対して、どれだけの備蓄品を用意すればよいか。
- ●災害時に在宅勤務などで防災担当者が不在の場合、オフィスにいる社員だけで対応できるか不安。
相田 勇輝(Aida Yuki)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部 マーケティング本部 HSソリューション部 マーケティンググループ プランナー。2015年、コクヨ株式会社入社。同年より防災事業に参画。年間数百件に及ぶ企業防災のプランニングを行ない、防災担当者との対話を通じた持続性のある取り組みの実現を目指している。また、オフィス防災Lab.リサーチャーとして、実際に防災用品を使用する、被災時下の状況を再現するなどして、想定だけではない実体験に根差した提案を追及している。