組織の力

2021.04.13

いま取り組むべきオフィスの防災とは?〈後編〉

防災用品や災害対策の基礎知識

防災用品の選び方や管理方法、災害別の対策のポイントなど、オフィス防災の基礎知識について、コクヨ株式会社HSソリューション部マーケティンググループで企業の防災プランニングを担当する相田勇輝氏が解説する。

オフィス防災の基本は
「自分の身は自分で守る」

企業防災・オフィス防災では、防災マニュアルの策定のほか、避難経路の確保、安否確認手段の選定、定期的な訓練など多様な対策が求められますが、なかでも重要なのは、社員一人ひとりの防災に対する意識を変えることです。防災担当者に任せっきりではなく、「自分の身は自分で守る」という意識づけを行うことが大切です。

そのためには、防災マニュアルをつくったり、避難訓練を行ったりするだけでなく、社員が普段から防災用品やAEDの場所を認識できるわかりやすい工夫をすることがポイントです。

前回お話ししたように、防災用品を「見せる収納」にすることも、ひとつの手段です。また、コロナ禍の現在は難しいですが、ワークショップなどで防災用品に触れる機会を設けることも、社員の防災意識を高めることにつながります。




備蓄すべき防災用品

防災用品の備蓄は、次の3つに分けられます。

〈基本備蓄〉

3日分の水、食料、簡易トイレ、毛布など条例で定められているもの。

〈深堀備蓄〉

基本備蓄を補う用品。トイレットペーパー、ゴミ袋、オフィスの床に横になるためのマット、栄養を補う野菜ジュースなど、オフィスに滞留中のQOL(暮らしの質)を上げるもの。

〈拡張備蓄〉

ケガをしたときの救急用品、余震に備えてかぶるヘルメットなどの初動用品や、歩いて帰るためのスニーカーなど基本備蓄以外のシーンをカバーするもの。

前編でお話ししたように、「東京都帰宅困難者対策条例」では、大規模災害発生時はむやみに移動せず、3日間はオフィスに滞留するよう明記されています。しかし、直下型地震など大きな災害が起こった場合、3日では交通の復旧は難しいでしょう。

「3日間」というのは阪神淡路大震災のときに出されたデータです。一般的に人間が飲まず食わずで生きられるのが72時間とされ、災害で人命救助をする際も3日を過ぎると生存率が著しく低下します。

そのため、災害発生後の3日間は要救助者を最優先で救助し、オフィスで安全が確保されている人は3日間その場に留まる。つまり、基本備蓄は「救助活動を妨げないマナーとしての備蓄」といえます。
1_org_130_01.png また、基本備蓄については東京都帰宅困難者条例に記載されていますが、深堀備蓄と拡張備蓄については明記されていません。そのため自社で基準を設定する必要があります。




意外と見落としがちな備蓄品

深堀備蓄や拡張備蓄をリストアップする際、意外と見落としがちなものがあるので注意が必要です。

例えば、簡易トイレの多くに、トイレットペーパーが含まれていないことはあまり知られていません。また、防寒対策として毛布は準備してもマットまでは気がつかず、横になると床が硬くて冷たい、ということも。特に体調の悪い人やケガをした人にとってマットは重要になります。

また、ハンマーやバールといった救助工具は、オフィスでは不要と思われがちですが、地震によってドアがゆがみ、個室に人が閉じ込められることがあります。社長室など、災害時に指揮をとる人の部屋は個室になっていることが多いので、緊急事態に備えて救助工具の準備をオススメします。

このように、あらゆる事態を想定し、自社の状況に合わせて備蓄品をリストアップしましょう。さらに、企業で備蓄しているもの、備蓄していないものを明示し、個人で必要なものは各々準備しておくよう、社員に伝えておくといいでしょう。




防災食の選び方

基本備蓄の一つである防災食を選ぶとき、味や量、カロリー、価格などを重視して選びがちです。平時の健康状態で防災食を選ぶため、「災害時でも、食事ぐらいは楽しみたい」「おいしいものを食べたい」と考え、カレーなど普段の食事と変わらないものや、味の濃いものを選ぶことが多いようです。

しかし、災害時は心身ともに疲れ切っていることが多く、体調を崩してしまい、味の濃いものが食べられないこともあります。災害時の体調を想定して、味の薄いものや胃に負担のかからないものを用意しておくことも大切です。

さらに、匂いが強い食べ物は食事中だけでなく、容器などのゴミについた匂いを不快に感じることもあります。災害時は寝食が同じ空間になることも多く、人と人との距離も近いため、食べ物の匂いに対しても、配慮する必要があります。
1_org_130_02.png また、見落としがちなのが食べた後に出る容器などのゴミです。容器がかさばる防災食はゴミを増やす原因になります。防災時は限られた空間に閉じ込められた状態になるため、防災食一つをとっても、あらゆる側面から検討することが重要なのです。



相田 勇輝(Aida Yuki)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部 マーケティング本部 HSソリューション部 マーケティンググループ プランナー。2015年、コクヨ株式会社入社。同年より防災事業に参画。年間数百件に及ぶ企業防災のプランニングを行ない、防災担当者との対話を通じた持続性のある取り組みの実現を目指している。また、オフィス防災Lab.リサーチャーとして、実際に防災用品を使用する、被災時下の状況を再現するなどして、想定だけではない実体験に根差した提案を追及している。

文/籔智子