ライフのコツ
リカレント教育発祥の地・スウェーデンに学ぶ
大人向けの無償の教育制度がもたらした成果とは
昨今、教育と就労をくり返しながらスキルアップやキャリアアップを図る「リカレント教育」が注目されている。「リカレント教育」という概念を初めて提唱し、国を挙げて推進してきたスウェーデンのさまざまな取り組みやその成果についてレポートする。
リカレント教育の強み⑤ 働く場のない若者の受け皿に
就労と教育をくり返すリカレント教育が浸透しているスウェーデンでは、転職やキャリア転換もめずらしいことではありません。一般企業に勤めてみたけれども、やはり手に職をつけたいと考え、専門スキルを身につけるために学び直すといったケースもよく見受けられます。 一方、希望の職に就けず、別の職業のスキルを学ばざるを得ないという場合もあります。特に若いうちは、カメラマンになりたい、アート関係の仕事がしたいなどと、華やかな職業や狭き門を目指して学ぶ人も多くいますが、結局就職できず、もっと堅実な職業に就くために学び直すというのもよくあるパターンです。 『コンヴックス』はこうした若者の受け皿にもなっています。職に就けない、あるいは就いた職が合わずに辞めてしまっても、コンヴックスで新たなスキルを学ぶことで、無職というマイナスイメージを払拭できます。将来の仕事につながる勉強をすることで、やりがいやモチベーションを保つこともできます。
リカレント教育の課題 若者の失業率を上げている?
ただし、何度でも学び直せる環境があることで、かえって仕事が長続きしないという側面もるようです。実際、スウェーデンの若者(15~24歳)の失業率は20パーセントで、完全失業率(2019年は6.8パーセント)に比してかなり高くなっています。
変化し続けるリカレント教育
近年、スウェーデンの景気は停滞気味で、『コンヴックス』を運営する自治体の財政も厳しくなってきています。そのため、コンヴックスが統廃合されたり、学べるコースが少なくなってしまうといった問題も出てきています。 経費削減のために、人気のないコースはカットされてしまうのです。自治体の都合で急に学校やコースがなくなってしまうというのは、学ぶ側にとっては大変な問題です。ですから、学生が反対デモを行うといった光景も見られます。 逆に、社会的な要請からコースが増えるという場合もあります。たとえば、スウェーデンは2000年頃からベビーブームとなっていて、2010年には出生率が1.98まで上がりました。そこで近年は保育士や教師といった職の需要が高くなっており、『コンヴックス』でもこうした資格やスキルを学ぶコースが増設されています。
スウェーデンの社会基盤を支える リカレント教育
このように、設立当初は貧困などにより学ぶ機会を失った大人が、より高度な教育を受けるための場として機能していた『コンヴックス』ですが、時代の変化や社会的情勢によって、その内容や役割も徐々に変わってきています。 今日では、スウェーデンの高校で履修する科目を学び、単位を修得するために、海外からの留学生や移住者が通うケースが増えています。 また、スウェーデンには伝統的なコンヴックス以外にも、自治体や大学、民間の職業訓練機関などが運営するさまざまな生涯教育機関があり、より高度な知識や技能を身につけるために、こうした学校に通う人も大勢います。 失業した、転職したい、キャリアのため新たな学びが必要、もっと別の分野の知識を習得したいなど、動機や目的は人それぞれですが、そうしたさまざまなニーズを満たす場と制度が整っていることが、スウェーデン社会の大きな強みといえるでしょう。
グローバルママ研究所
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。https://gl-stage.com/service/mama/