レポート

2021.11.10

働き方改革促進を「生産性・働きがい」で引き上げる!

WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.9

2021年9月16・17日にコクヨが開催した『WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS』から、株式会社日経リサーチの伊東隆太郎氏が登壇した「働き方改革促進を「生産性・働きがい」で引き上げる!」の様子をレポート。従業員のエンゲージメント・生産性を向上させるための考え方や手法について、コクヨのコンサルタント立花が話を聞いた。

登壇者

■伊東隆太郎氏(株式会社日経リサーチ ソリューション本部 営業企画部 シニア・リサーチコンサルタント)

モデレーター:立花保昭(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント)




近年の日本企業の課題はエンゲージメントの低さ

まずは日経リサーチの伊東氏が、同社の調査からわかった日本企業におけるエンゲージメントのあり方や課題を解説した。

伊東:「日経リサーチ株式会社では、日本国内のマネジメントリサーチや統計調査はもちろん、65を超える国・地域を対象としたグローバルリサーチも手がけています。今回は、さまざまなリサーチによって明らかになった、日本企業が抱えるエンゲージメントについての課題についてお話します」

「そもそもエンゲージメントとは何でしょうか。このセミナーでは、『仕事と職場に対しての自信』と定義したいと思います。仕事内容はもちろん、職場の雰囲気や会社の制度、オフィス環境も含めて、『自分の仕事や勤務する会社を自慢したくなる気持ち』がエンゲージメントの本質だと私たちは考えています。
エンゲージメントに関する調査を企業様に向けて実施する際は、重視項目と関連項目という2つのカテゴリーを設定しています」

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伊東:「2021年7月に日経リサーチでは、世界のビジネスパーソンを対象に意識調査を実施しました。その結果、日本のビジネスパーソンは重視項目・関連項目ともに、他国と比べて意識が低いことがわかりました。
特に、重視項目のうち『自社を就職先としてほかの人に勧めたい』という項目に対しては、『とてもそう思う』と『ややそう思う』の合計が3割未満と低い数値でした。米国や中国が約7割、タイでは約8割と高い数値であることを考えると、日本企業におけるエンゲージメントのあり方には大きな課題があると言えます」

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伊東:「日経『スマートワーク経営』調査の結果を見ると、日本では近年、従業員意識調査を実施する企業が少しずつ増えており、実施ペースも上がっていることがわかります。調査項目の中で企業が特に重視しているのは『仕事の働きがい・満足度』で、社員のエンゲージメントに関心が向けられていることが見て取れます」

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伊東:「ただ、調査結果の活用法については、正解が見つかっていない企業様が多いようです。私たちも、さまざまな企業様の従業員調査をお手伝いする中で、よくご相談いただくのがこの点です。
6~7割の企業様は経営陣で調査結果を議論したり、管理職間で改善策を検討したりされていますが、その先の、状況改善に向けて取り組むところまでなかなかいかないのが実情のようです」




生産性向上の実現は企業にとって必須課題

コクヨの立花は、多くの日本企業が生産性に関する課題を抱えていることを指摘し、課題の具体的内容を解説した。

立花:「今後、日本の人口が減少することは確実視されています。2065年には総人口が9000万人を割り込み、生産年齢人口は現在と比べて4割以上減るといわれています。簡単に言うと、現状は10人で回している仕事を6人でやらなければならなくなるのです。
さらに、国際的に見て日本の生産性が低いことも課題となっています。日本生産性本部が発表した『労働生産性の国際比較2019』では、日本の生産性はOECD加盟国の36か国中21位で、G7の7か国中最下位。アメリカと比較すると65%にとどまっています」

「つまり、2065年に日本の生産年齢人口が4割減ることを考えると、現状の生産性から2.5倍に引き上げないとアメリカに追いつけないのです。生産性向上という課題は、すべての日本企業に突きつけられています」

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立花:「私は多くの企業様と接してきましたが、生産性に関する課題は、例えば以下のようなものがあります。」

  • ①労働時間/残業時間以外で生産性をはかる指標がない
  • ②残業を減らせと指示はするが、具体的な施策は指示がない
  • ③会議室が足りないとの声に短絡的に会議室を増やしている
  • ④オフィスに集中エリアを設置しても集中できない

「これらの課題について、多くの企業様は課題を深掘りできていないと感じます。課題が起こる原因を複数の観点から深掘りして考えられなければ、根本的な解決は望めません。
例えば、新しい働き方に取り組むためにオフィスを刷新しても、オフィスでの運用ルールや、従業員の意識・スキルなどが今までと同じなら、新しい働き方は実現できません。コクヨでは、『型・場・技』という視点からの課題解決をご提案していますが、さまざまな視点から課題を深掘りしていくことが大切なのです」

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調査は課題を明確化するもの
大切なのはアクションを起こすこと

前半で説明したエンゲージメントに関する課題に対して、状況を改善するための取り組みを日経リサーチの伊東氏が解説した。

伊東:「エンゲージメント向上の必須項目だと私たちが考えているのは、KPI(目標達成に向けた具体的な指標)をつくることです。そのプロセスにおいては、『自社におけるエンゲージメントの定義』『何がエンゲージメント向上につながるか』『具体的な取り組み内容』を明確にすることが欠かせません」

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伊東:「特に、自社におけるエンゲージメントを特定することは大切です。『エンゲージメント』という言葉について、多くの人は何らかのイメージを持っているでしょう。しかし、具体的に何を指すかを深掘りしていくと、一人ひとり違う答えが出てくるはずです。エンゲージメントのあり方を全社で共有することで、ゴールに向けてブレずに進むことができます」

「また、従業員エンゲージメントも含めた自社の課題を解決するためには、問題を特定する材料として調査を行うことも有効です。出てきた数値からわかった特徴・課題について、インタビューやワークショップによって問題の本質を明らかにすることで、具体的な改善策を決めることができます。
ただし、大切なのは調査そのものではなく、結果に基づいて何かを変えることです。課題解決のための具体的な施策を打つことで初めて、状況が変化するのです」

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伊東:「エンゲージメント向上施策の事例として、私たちが調査をお手伝いさせていただいたある企業様のケースをご紹介します」

「大まかなプロセスと結果は図の通りですが、ここで注目したいのが、社員の方に調査結果を包み隠さず公表し、危機感を共有したことです。このことによって全員が当事者意識をもって改善行動に取り組むことができました。
また、ワークショップでは、チームに分かれて具体的な改善プランを考えて発表し、投票によって優先順位をつけてから取り組まれました。課題がたくさんある中で、緊急度の高いものから着実に取り組んだのが成功のポイントだったと感じます」

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メール作成など小さな取り組みが生産性向上につながる

続いてコクヨの立花が、生産性に関する課題を解決するための手法を説明。立花がもつ500以上の仕事術の中から、すぐに実践できて効果が高い3つの項目を披露した。

立花:「私はコンサルタントとして500以上の仕事術を持っており、企業様向けのセミナー・研修会などでご紹介しています。いずれも生産性向上に役立つと自負していますが、『メール本文の書き方』や『電子ファイル名のつけ方』など一つひとつは小さな内容で、時短といっても数十秒程度です」

「しかし、このような小さな時短を積み重ねなければ、生産性向上は実現できません。また、仕事術を共有することで、部署全体でムダな時間をカットできるため、大きな時短につながるのも事実です。逆に言えば、小さな工夫が新しい時間を生み出し、その時間で新しい価値を生み出すことが可能になるのです」




生産性とエンゲージメント向上を後押しする
『生産性×働きがいupプログラム』

エンゲージメントと生産性の課題解決について両氏が説明した後で、この2つの課題を解決するのに役立つコクヨと日経リサーチの共同開発によるサービス『生産性×働きがいupプログラム』について、立花が紹介した。

立花:「エンゲージメントも生産性も、現状課題を正確に把握しなければなりません。そして見えてきた現状課題に対して施策を打たなければ、何も改善されません。そこで、改善に向けて取り組むご支援ができればと、日経リサーチ様と共同で『生産性×働きがいupプログラム』を開発しました」

「このプログラムでは、企業様における生産性と働きがい(エンゲージメント)を従業員の方々へのアンケート調査によって測定し、その結果に基づいてソリューションをご提案します。アンケートが5~6分で回答できて負荷がかからないことと、先ほどお話しした『型・場・技』の観点から具体的な打ち手をご紹介できることが、このサービスの特徴です」



生産性×働きがいupプログラム

『働き方改革』を一過性の活動ではなく継続的な活動としていくためには、生産性向上のみに着目するのではなく従業員のエンゲージメントを高め、社員一人ひとりが自分ごととして実践することが大切です。 当サービスでは「生産性向上」と「エンゲージメント」の状況を確認する調査から改革の実施までトータルでサポートさせていただきます。https://www.kokuyo-furniture.co.jp/solution/engagement_up/

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変化を恐れない企業こそが成長を続けていける

最後は質疑応答の時間にあてられ、セミナー視聴者からの質問に、伊東氏と立花が回答した。

Q.:「業界・業種によってエンゲージメントの傾向はありますか?」

伊東:「細かく見ていくとさまざまな傾向がありますが、ひと言でまとめれば、業績が好調な企業の社員は、エンゲージメントも高いケースがよくみられます。企業として上り調子なら、従業員も『自社を自慢したい』『家族や友人に自信を持って勧められる』と感じるのは当然といえるかもしれません」

立花:「一般的には、老舗企業は新しいチャレンジに対して腰が重い傾向があり、従業員にとっては『自己成長の場が少なく、働きがいに乏しい』と感じるのかもしれません。一方で、従業員が快適に仕事ができるよう積極的に働き方改革を進めている企業は、社員のエンゲージメントも高いですね」

最後に立花が、エンゲージメントや生産性の向上に取り組んでいくことの重要性を今一度強調し、セミナーを締めくくった。

立花:「コクヨが2021年に新オフィス『THE CAMPUS』をオープンしてから、就活中の学生から非常に注目されるようになり、エントリーの数も増えたと聞いています。新しい働き方に取り組む姿勢は、企業の未来をつくることにつながるのではないでしょうか。エンゲージメントも生産性も、1つひとつの取り組みはとても小さなものです。しかし、続けることで着実に成果を出していくことができるのです」



【図版出典】「働き方改革促進を「生産性・働きがい」で引き上げる! 社員がテキパキ・イキイキ働くための調査方法と課題解決プログラムの考え方」セミナー投影資料

文/横堀夏代