組織の力
キユーピー株式会社のオフィスカイゼン活動
オフィスカイゼン活動を長く続けるために大切なこと②
オフィスは、生きた人間が日々活動しはたらく場だ。より快適に過ごせるよう、日々進化していくことが望まれる。そして、オフィスカイゼン活動は、オフィスで過ごす人々のほんの小さな気づきや不満を、よりよいカタチに変えていく地道な活動だ。これを長く続け、定着させるにはどのようなことが大切なのか。今回は、キユーピー株式会社の取り組みからそのヒントを探る。
社員が自然に回遊できるオフィスづくりで、 出会いと会話を誘発する
キユーピー株式会社の仙川キユーポートは、2013年に関連会社や複数の部門が移転により集結し、「会話を生み出すためのユニークな場づくりと運用」「グループシナジーを生み、未来へつなぐワークスタイル変革」「研究開発機能との一体化メリットを生かした新価値創造」をオフィスコンセプトとして構築された。 仙川キユーポートには、オフィスコンセプトに基づいて、複数の部門のメンバーが回遊し、出会いと会話を誘発するさまざまなしかけがある。 たとえば社員の全員が日常的に行う行動は何かを考えた時、その中のひとつにゴミを捨てるという行動がある。通常ゴミ箱は部屋の隅の目立たないところに置かれるが、仙川キユーポートでは、あえて人々の動線上の接点となる部分にパントリーを設け、ごみ箱を設置している。それによって知らない社員同士が自然と顔を合わせるきっかけを作り会話を誘発させるという、ユニークなレイアウト構築も行っている。 動線上の接点となるパントリーに設置されたゴミ箱。複数のライトと背後からの自然光で、集いやすい明るい空間となっている。
社内の交流を広げる 「コミュニティ活動(キユーポートコミュニティ)」
仙川キユーポートには、社員同士の会話を促す場づくりや働きやすさを支援するための「コミュニティ活動(キユーポートコミュニティ)」と「ワークスタイル活動」の2つの活動がある。 「コミュニティ活動」は移転と同時に始まった取り組みで、人と人、人と組織のつながりを深め、協働しやすい風土づくりを目的に、多部門から集まった若手社員を中心に活動している。 たとえば「MEET THE HEXAGON」 (※1) というイベントでは、リアルタイムな会社の動きに触れる機会を提供しながら、自社商品について学び、実際に試食して交流を深める企画等を考え実施している。 この活動を通して、日ごろの業務では実際の商品に触れる機会の少ない部門のメンバーが開発担当者から生の声を聴いたり、普段同じオフィスにいても話す機会のない人と会話をするきっかけになるなど、自社商品を通して交流を広げる場となっている。 ※1:六角形(HEXAGON)のオフィスの形状にちなんで名づけられた。 コロナ禍では在宅勤務・リモートワークが増え、社員同士の交流が難しくなったが、少しでもコミュニケーションの助けとなればと考え、社員の一人が講師となり「メッセージに添えるかわいいイラスト教室」をオンラインで開催してみた。当日は、描きたいけどなかなかうまく描けないと感じる人がさまざまな部門から集まり、会話に加えて絵や文字でコミュニケーションをとる方法を学ぶなど、参加者同士の交流がはずむ楽しい会となった。
社員のスキルアップや生産性向上と、 イキイキ働けるオフィスづくりを目指す「ワークスタイル活動」
一方、「ワークスタイル活動」は、それまでの「コミュニティ活動」に加えて、さらに社員のスキルアップや生産性の向上、社員がイキイキ働けるオフィスづくりを目指し、2017年より活動が始まった。 スキルアップや生産性向上を目指した取り組みでは、簡単で皆に関心の高いテーマを選び、自由参加型のセミナーを企画、実施している。 たとえばパソコン講座、時間の上手な使い方、会議の効率化や書類削減のコツなど、個人のスキルアップや成長、チームの業務効率化や生産性アップにつながるさまざまなコンテンツが用意されている。 これらの活動は「コミュニティ活動」とともに、回遊型のオフィスレイアウトに加え、出会いと会話を誘発するソフトなしかけとしての側面を持つ。 さらに活動は社内だけでなく、地域の人々を巻き込んだイベントなども行っている。たとえば、自社の得意分野を活かした、食をテーマにした地域交流イベントでは1500名を超える参加者が集まり、社内外の枠を超えて楽しい時を過ごした。仙川キユーポートを交流の場として出会いは広がっている。
オフィスカイゼン活動で、 働きやすい環境をアップデートさせる
イキイキ働けるオフィスづくりでは、社員にとってより働きやすい環境を目指し、オフィスカイゼン活動を行なっている。 仙川キユーポートに移転して仕事を始め、実際に過ごしている中で、ここはこうした方が便利だな、というカイゼンアイデアが複数生まれている。 たとえばビデオカメラを借りたい場合、貸し出しロッカーの中にある複数のビデオから使いたい機種を選べるのだが、扉を開けなくてもどの機種が入っているか中身が一目で分かる写真を貼ったり、貸し出し状況をその場で確認できる表を添付するといったさまざまな工夫が積み重ねられている。 備品貸し出しロッカーには扉を開けなくても中に入っているものが一目でわかるよう写真が貼ってある。
オフィスの使い方が変われば そこにカイゼンアイデアが必要になる
仙川キユーポートは出会いを促すためオープンなつくりになっており、個室はあまり用意されていない。コロナ禍を経てオンライン会議が増えたことにより、オープンなスペースで声を出すやりとりが増えるなど、オフィスの使い方も変わってきている。 オンライン会議では、つい無意識に声が大きくなりがちだが、周囲で執務しているメンバーにとっては、その声がノイズになってしまう時もある。そのような中、オンラインでコミュニケーションを取りつつ、個々の執務を邪魔しない、誰もが気持ちよく働けるカイゼンアイデアが必要になった。そんな時、声出し禁止の貼り紙ではなく、ピクトグラムや緩やかな表現での表記をするなど、さりげなく周囲への気遣いを促す工夫を施している。 通路の丸テーブルに貼られた注意喚起のシール。ピクトグラムと緩やかな表記で、オンライン会議での声の大きさに対して、さりげなく周囲への気遣いを促す工夫を施している。
仙川キユーポート全体で支える体制づくりが、 全社員への浸透を後押し
これらの活動の企画、運営を担っているのは仙川グループ総務オフィスだ。会社・部門横断型の組織で構成されており、仙川キユーポートで過ごす社員のための企画・運営を行っている。 こうした取り組みはともすると業務の忙しさなどのために参加メンバーがだんだん減って しまうこともありがちだ。しかし仙川キユーポートでは活動を会社全体で支え、社員への 浸透を図りやすくするために、本部長クラス・課長クラスでそれぞれ構成される別の会議体を持ち、活動をより良いものにしていくよう後ろから力強く支えている。このような、 メンバーや活動をバックアップする体制づくりが、活動を長く続ける秘訣のひとつといえるだろう。
まとめ:オフィスカイゼン活動を長く続けるために大切なこと
今回2社の話を聞き、オフィスカイゼン活動を長く続けるためにさまざまな努力や工夫を重ねていることがわかった。その中でも、筆者が、特に大切なこととして心に残ったのは以下の2つであった。
①オフィスカイゼン活動を通して、その先に達成したいものを明確にしておく
リコージャパンのオフィスカイゼン活動は「お客さまへのおもてなし」という会社にとって大切な思いの実現に向けた手段の一つとして徐々に成長していった。キユーピーのオフィスカイゼン活動は、オフィスコンセプトの一つである「会話を生み出す為のユニークな場づくりと運用」を実現するための手立てとして今日まで続いている。 どちらもオフィスカイゼン活動は、整理や片付けなど日々の工夫や行動の積み重ねを通して、ありたい姿を実現するための大切な手段として位置づけられていた。 オフィスカイゼン活動は長く地道な活動だ。ともすると活動自体が目的化してしまいがちだが、活動を通してその先に達成したいものを考えながら、行動していくことが大切ではないだろうか。
②現場の孤立した活動にならないよう、上位層によるバックアップ体制を整える
リコージャパンでは、プロジェクトメンバーの上司が全員オブザーバーとして、気軽に相談に乗ったり協力したりするなど風通しの良い体制が作られていた。キユーピーでは、本部長クラス・課長クラスで構成されるチームを設置し、メンバーの活動や全社員への浸透を会社全体で支える体制づくりができている。 オフィスカイゼン活動を長く継続するためには、現場のメンバーだけが孤立することのないように上位層を組み込んだ体制づくりによるバックアップがとても大切といえそうだ。
樋口 美由紀(Higuchi Miyuki)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/THE CAMPUSオフィスカイゼン委員会ファシリテーター
総合商社、教育企業において顧客向けサービス事業に従事後、コクヨ入社。経験を活かし「人に寄り添い成長を支援する事業」として幼児教育事業を新規に立ち上げ、教育プログラム開発や人材育成、顧客対応などに携わる。その後「ダイバーシティ」「ウェルビーイング」をテーマに、人生100年時代の企業とワーカーのよりよいあり方をリサーチ。現在、2021年2月に品川に新しくオープンしたコクヨのニューオフィス「THE CAMPUS」にてオフィスカイゼン委員会ファシリテーターとして、オフィスカイゼン活動にも携わっている。