レポート

2022.03.29

パターン化されたマナビの思考の枠を超える重要性

Cross×Campダイアローグ:組織の多様性を活かす「これからのマナビ」の探求2

コクヨ株式会社と株式会社セルムが共創する社会人のオープンな学びの場「Cross×Camp」では、「組織の多様性を活かす『これからのマナビ』の探求」と題したトークセッションを開催している。2月18日に行われた第2回目のテーマは、「コンフォートゾーンからの脱却 パターン化されたマナビの思考の枠を超える重要性を考える」。新体操日本代表「フェアリージャパン」元強化本部長の山﨑浩子氏を招き、チームを世界トップクラスに導くカギとなった選手の意識変革や成長について、コクヨ株式会社の鈴木賢一とビジネスとの共通点を探りながら語り合った。

登壇者

■山﨑浩子氏(新体操日本代表「フェアリージャパン」元強化本部長)

モデレーター:鈴木賢一(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント)




思うような結果ではなかったからこそ、
気づきがあった東京オリンピック

鈴木:人は成功に向かって進んでいくなかで、さまざまなことを学びます。ときには失敗することもあるし、それを乗り越えるために違うルートを模索することも必要です。大事なのは、慣れ親しんだコンフォートゾーンからいかに抜け出して挑戦するかということ。パターン化した思考の枠を超えることが成長につながります。
一方、実際は、チャンスはあっても自信がないから、失敗するのが嫌だから、チャレンジしない...というケースは少なくありません。私自身、マネージャーとして働くなかで課題だと感じてきたので、今回はそのあたりも深堀りしたいと思います。

山﨑:私は鹿児島県で生まれ育ち、高校1年のときに新体操を始めました。大学で上京し、全日本選手権では5連覇、1984年のロサンゼルスオリンピックでは8位に入賞しました。
引退後はテレビに出演したりスポーツライターを務めたりしていたのですが、2001年から日本代表の個人競技の指導にあたり、2004年には新体操強化本部長に就任。主に団体競技(フェアリージャパン)の指導を行い、1年のうち350日間は合宿...という生活を選手と共に17年間あまり送り、2021年12月をもって退任しました。

鈴木:フェアリージャパン(団体)は、2021年の東京オリンピックでは8位入賞、オリンピックの2ヶ月後の世界選手権では銅メダルを獲得されましたよね。

山﨑:東京オリンピックは思うような結果ではなかったのですが、うまくいかなかったからこそ気づきがありました。オリンピック前は選手たちの気持ちにまったく余裕がなく、心も体も疲弊した状態で本番を迎えてしまったんです。
演技内容もガチガチに詰まった状態だったので、ピースが一つ外れると全部崩れてしまうパズルのように、一つのミスで崩れてしまって。余白、余裕がある状態だと立て直せますが、それができませんでした。

オリンピックの反省を踏まえ、一生懸命練習するのは当然だけど、余白やあそびも大事だよね...ということをみんなで共有し、実践しました。その結果、2ヶ月後の世界選手権では、2種目で銅メダルを獲得できたんです。私としても、17年間の最後を笑顔で終われてよかったなと思いました。

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新体操は、4年ごとにルールが変わる
環境の変化が激しい競技

鈴木:まずは、今日のお話のベースになる新体操を取り巻く環境やトレンドについて、教えてください。

山﨑:新体操は、選手の技術の進化に合わせて、基本的に4年ごとにルールが変わるんです。
東京オリンピックの前にも大幅に変わり、技術点が青天井になりました。そのため選手も指導者も右往左往して、演技の中にいかに技を入れ込むか、という作業をずっとしていました。音楽に合わせて優雅に...というのは二の次。そうして迎えたのが東京オリンピックでした。
一方、あまりに技術重視になりすぎたため、芸術面を評価しようということになり、2022年からは芸術評価が高くなるルールに改定されました。評価方法の変化に伴い競技自体が変化していくというのが、新体操の世界。ルールの変更によって、評価される人も変わります。

鈴木:4年ごとですか...否応なしに環境が変わり、それに伴い変化が求められる競技なんですね。

山﨑:はい。ルールブックは何百ページもあるんですが、覚えた頃には次のルールになるという感じ。理不尽に思えるかもしれませんが、選手はそういうものだと受け入れていますね。
私が現役だった1980年代頃の新体操がステキだったと、多くの人が言うんです。でも、技術が進化しているから、もうそこには戻れません。特にオリンピック種目になってからは公平性が求められ、主観よりも客観を重視した評価基準、ルールに変わっていきました。そうなると、心を奪われるような演技...というのは主観的評価のため、いくらすばらしくてもなかなか評価にはつながらないんですよね。

鈴木:ビジネスにおいても、細分化して数字を見てKPIで判断して...と客観的に点数化して成果を評価します。そういう意味では、近いかもしれないですね。

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自分で考え、行動する場を与えることが、
" 成長"につながる

鈴木:今回は、成長・チーム・マネジメント・環境の4つのテーマで、山﨑さんにお話を伺っていきたいと思います。まずは、"成長"について。
個人の成長において、達成感やモチベーションが大事なのはビジネスもスポーツも同じだと思います。『やらされてやる』ではなく、『自らやる』『自ら学ぼうとする方向に気持ちを向かわせる』ことが大切ですよね」

山﨑:私が大事にしてきたのは、選手に自分で考える場を与えることです。
13〜15歳のジュニアの選手は、これまで先生に言われたことに従ってきた子が多くて、指示待ちなんです。でも、ずっとそのままでは成長しません。そこで、ある試合前の合宿で、「明日11時からコントロール(試合の予行演習)をやるから、何時に集まってどういう準備運動をして11時に合わせるか、計画を練ってきて」と伝えました。

翌日、みんなで考えたんでしょう、メモには集合時間やウォーミングアップの時間などが書いてあって。これじゃあ遅いなと思ったものの、私からは何も言わずにとりあえず計画どおりにやってもらいました。ウォーミングアップの内容なども決めていなかったため案の定ドタバタで、コントロールも焦ってしまってめちゃくちゃ...。「どうだった?」と聞いたら、選手たちは「準備が足りなかった」と。「明日、もう一度やるから計画を立て直してきて」と、翌日も同じことをすると、少しまともになりました。彼女たちは、工夫することを体感で学んだのです。

もし私が「これではダメ。こうしなさい」と計画を正していたら、自分たちの立てた計画のどこがよくてどこが悪かったのかがわからないまま。でも、自分たちで考える、やってみる、修正する...ということを繰り返すうちに、選手たちだけでいいウォーミングアップができるようになっていくんです。
自分で考え行動する場を与える、機会を与えることが、個人の成長においてはとても大事だと思います。

鈴木:選手たちは、指示をもらい、指示通りにやることが自分の役割だ...という思考の枠を超えたわけですね。

山﨑:みんな指示したら完璧にやるんですが、どうしたらいいかを考える癖がついていないんです。コーチやトレーナーはいつ何があって急にいなくなるかわからない、いつもあなたたちを守ってくれるわけじゃない、自分たちだけでできるようにしなさい...というのが、私の口癖。
腹筋のトレーニングなども、何回やりなさいと指示するのではなく、何回やるかを選手自身に決めさせていました。自分で決めたことだと前向きに取り組むし、もっとやろうという気持ちになるんですよね。

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鈴木:自分で考えて自分で決めることが、行動のモチベーションになると?

山﨑:そうですね。私自身も、人に指示されるのが嫌いなんです。親から勉強しなさいと言われると、やる気がなくなるのと同じです。
私は2つの"そうぞう力"、つまり"想像力"と"創造力"があれば、どこでも生きていけると思っているんです。新体操の指導するうえでも、この2つの力を大事にしてきました。

鈴木:私自身、マネージャーとしてチームのメンバーを育てる立場にありますが、頭ではわかっていてもできていないことがあるなと耳が痛い思いです。

山﨑:とにかく待つことですね。これじゃあダメだよな...と結果を想像しつつ、やってみてごらんと見守ります。それは、どうしたら失敗するか、どうしたらうまくいくかを体感してほしいから。
カーリングの石のように、進む道を誰かに整えてもらっていては、何の学びもなく、成長もしません。

鈴木:人に言われたことを言われたようにやっていると、演技でもビジネスでも、どこかに緊張感が残って、硬さが取れずに最後にこけてしまう...ということがあるように思います。

山﨑:受け身だと、失敗したときの対応力も身につかないんですよね。フェアリージャパンでは、ミスはあるという前提で、それをいかにフォローするかという練習を繰り返していました。
例えば、フープがフロア外に飛んでいったときに誰が予備のフープを取るか、誰に何を渡せば次の技につなげられるか...という練習です。

鈴木:失敗への対応力のトレーニング、いいですね。いつ何が起こるかわからないからこそ、完璧さではなくどう補うかを考えておく。ビジネスにおいても、参考になりますね。

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コンフォートゾーンから抜け出すことが、
"チーム"のさらなる成長につながる

鈴木:次のテーマ、"チーム"に移りたいと思います。フェアリージャパンはまさにチームですが、自分たちの居心地の良さから脱する...といったあたりはいかがでしょうか?

山﨑:まさに、東京オリンピックで力を出しきれなかったのは、成功体験というコンフォートゾーンから抜け出せなかったのが要因です。
2019年の世界選手権では、フェアリージャパンはロシアに続く団体総合2位で、世界に存在感を示しました。ところがその後、コロナ禍の影響でロシア人コーチからの協力が得られなくなる、海外に遠征練習することができなくなるなど、状況が大きく変わっていきました。

一方、選手たちは厳しい練習を乗り越えて2位を勝ち取ったという成功体験から抜け出せず、もっと練習しなきゃいけない、勝たなきゃいけない...と思考がガチガチになり視野が狭くなっていってしまったのです。
自国でのオリンピック開催、メダルがリアルに狙える状況...というプレッシャーもあったでしょう、どんどん沼にハマっていくようでした。成功体験という居心地の良さを追い求めすぎた結果、その枠にとらわれてしまったのです。

鈴木:目の前の仕事でいっぱいいっぱいになっている人に対して、学べ、一歩踏み出せ...と言ってもなかなか伝わりません。自分自身を振り返っても、一歩踏み出した先の世界を部下や後輩にうまく見せられていなかったのは、反省点だなと感じます。

山﨑:選手は自分たちの状況を俯瞰できていませんでしたし、私も追い詰められた選手たちの思考を変えられなかったことは反省しています。
一方、東京オリンピックから2か月後の世界選手権でいい結果を残せたのは、オリンピックでの失敗のおかげ。その意味で、オリンピックでの失敗は、私は失敗ではなかったと捉えています。

鈴木:失敗からの学びが次に活かされたいい事例ですね。




"環境"をつくったら、あとは待つこと。
信じて任せてみる"マネジメント"が主体性を育む

鈴木:続いて、学びを支える"マネジメント"と"環境"について伺っていきたいと思います。ジュニア選手の指導のお話のなかで、成長させるためには場をつくること、そして待つことが大事だとおっしゃっていました。
学びや成長を促すことにおける指導者やリーダーの役割については、どうお考えですか?

山﨑:まず、指導者やリーダーは俯瞰して見ることが大事だと思います。今どの位置にいるのか、どういう状況なのかというのは、少し引かないと見えてきません。
リーダーについては、興味深いことがあったんです。チームのメンバーが15、16歳ばかりだったときがあり、みんなしっかりしていて大人になるのが早いなという印象でした。
一方、今のフェアリージャパンのメンバーは、下は15、16歳から上は25歳くらいまで10歳ほど年齢差があるのですが、年上のメンバーがいる環境だと、15、16歳のメンバーが幼くなるんです。同じ15、16歳なのにこんなに心の成長が違うんだと驚きました。

鈴木:それは先輩やチームのリーダーに対する遠慮から来るのでしょうか?

山﨑:いいえ、チーム内ではみんな平等で敬語も使いません。年上のリーダー的存在がいることで無意識のうちに頼ってしまい、甘えが生じるんだと思います。自分たちで決める、自分たちが率先してやる、責任感をもって臨むといった部分が育たないんです。
そんな経験から、若手を成長させるためには、若手だけのチームを作ることが大事だと学びました。

鈴木:なるほど。組織でも、つい新人が先輩に教えを乞う...という関係性になりがちです。でも、君たちがリーダーだよと新人にやらせてみると、意外にも意思決定力があって、普段とは違う姿が見られる...というケースがあります。
自分で決める機会を提供することって、やっぱり大事なんですよね。

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山﨑:子どもの練習を見ていても同じです。一番年上の学年になれば自分たちで物事を決めるし、大人なんですよね。環境をつくってあげさえすれば、自ずと思考力や判断力はつくのだと思います。

鈴木:とはいえ、選手にせよ部下にせよ、最初はお世辞にも上手とはいえない成果物が上がってくるわけです。つい口出ししたくなりますが、どうすれば待てる、耐え凌げるのでしょうか?

山﨑:最初は、ああ苦しんでるなあと(笑)。見守る人は、そこからの変化を楽しめばいいんじゃないかなと思いますね。
人って、どう変わるかわからないですから。ずっと以前、核となるコーチが辞めてしまい、急遽別の人に担当させたら、ものすごく力を発揮したことがあったんです。この人にこんな力があったなんて自分には見抜けていなかったな...と思って、それ以来、誰がどう成長するかはわからないから、成長を楽しもうと思うようになりました。

言いたいことを堪えて待つというのは最初は大変ですが、選手に自分で考えて行動する癖がついたら、指示がいらなくなるので指導者はラクなんです。そうじゃないと、あれしなさいこれしなさいとずっと言い続けなくちゃならない。
私はその方が大変だと思うので、最初だけ、じっと我慢して見守るようにしています。そして、どんなに変でも下手でも、否定せずにいいところを褒めること。自分でできるんだという感覚、自分でやったという喜びを体感させることが大事です。
自分で考えなさいと言いながら、これじゃダメよこうしなさいと、指導者の思うように進めてしまうのが一番良くないですよね。選手は、せっかく考えたのに結局コーチの言う通りじゃん...とふくれてしまいます。そうなると、成長の芽を摘んでしまうことになりかねません。

鈴木:自分で考える、やってみる、認めてもらえる...の積み重ねで、信頼関係も構築できそうですよね。

山﨑:そうなんです。自分に任されているというのは、指導者が自分のことを信頼してくれているという証し。自信にもなるし、モチベーションも高まります。




心の余白と俯瞰的な視野をもち、メンバーの
思考の枠を広げるのがマネージャーの役割

鈴木:トップアスリートを指導するなかで習得された、褒め方、承認の仕方のコツなどはあるんですか?

山﨑:直した方がいいところを指摘するのも大事ですが、やはりまずは褒めることから。私は、ここはすごくよかったよ、ここをこうするともっと良くなるかもね...というような伝え方をしてきました。
とはいえ、年4回くらいはガツンと雷を落とすことも(笑)。そんなときも、感情に任せて怒るのではなく、どういうシーンでどういう関係性でどういう言葉をかけるかをよく考えるよう心がけていましたね。

鈴木:プレイングマネージャーや中間管理職のなかには、チームのメンバーを気にかける余裕がない...という人も少なくないかと思いますが、心の余白、余裕というのは、人を褒めるうえでも必要ですよね。

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山﨑:そうですね。いっぱいいっぱいになって余裕がなくなると、自分のことも周りのことも見えなくなりますから。
フェアリージャパンでは、以前、精神科医でマジシャンの志村祥瑚先生をメンタルトレーナーに迎えたことがあります。志村先生が一人の選手をみんなの前に座らせて、その選手にトイレットペーパーを丸めたものを出したり消したりするマジックを披露したんですが、先生の手元に集中している選手にはどこに消えたのか全然わからないんです。でも実は、先生は選手から見えにくい角度にポンポン投げているだけ。選手は視野が狭くなっているから全然気づかないんですが、周囲にいる他の選手たちからしたらなんで気づかないの...という感じなんです。
このマジックを通して志村先生が伝えたかったのが、狭い範囲だけ見ていては見えないものがあるんだよということ。私も、俯瞰して見渡す力、視野を広げるための余白、余裕が大事だと再確認しました。

鈴木:マネージャーの本来の役割って、メンバーのやることを管理することじゃなくて、メンバーが力を発揮できるよう、楽しく取り組めるよう、思考の枠を広げてあげることなんですよね。

山﨑:そう思います。自分が10知っているからと、選手にも10教えようとすると苦しいんです。10あるうち3くらいにしておけば、そこから選手が自分で気づいていける。指導者は、教え込むことをやめた方がいいと思います。




失敗かどうかは捉え方次第。
人生の9割は、どう捉えるかで決まる

鈴木:改めて、トップアスリートを育ててこられた経験から、ビジネスパーソンに向けてアドバイスをお願いします。

山﨑:アドバイスなんて大それたことは言えないんですが、やっぱり失敗を怖がらないことですね。私のモットーは、まずはやってみる。ダメならやめればいいだけなので、最初からガチガチに決めないで、いいなと思ったら取り入れてみる。あとは流れに任せるというか、臨機応変に考えることも大事だと思います。

鈴木:失敗は怖くないと?

山﨑:怖くないというか、失敗かどうかは捉え方次第なんですよね。
スポーツライター時代に、サッカーの三浦知良選手にインタビューした際に、「それが失敗かどうかは、後になってみないとわからない」とおっしゃっていて、深いなあと沁みたんです。
東京オリンピックでのフェアリージャパンの結果は失敗に見えるけど、そこを起点に新たな勝ち方を学んでいったという点においては、失敗ではなかったわけです。
私は「人生の1割は自分でつくり、9割はどう捉えるかだ」という言葉が好きなんですが、人生は思い通りにならないことばかりだけど、それをどう捉えてどう活かすかで人生は変わります。失敗したとネガティブに捉えずに、次にどう活かそうと明るく前向きに捉えていくことが大事かなと思います。

鈴木:自分の捉え方次第で大きく変わるということですね。今日は新体操の指導のお話でしたが、仕事するうえでやってきたことと近いなと感じることがたくさんありました。山﨑さんにとって"大人の学び"とは何でしょうか?

山﨑:"大人の"ということですが、私の場合、頭の中は子どもの頃のままなんです(笑)。種子島で育ったのですが、自然が豊かで、植物や星空などきれいなものに囲まれて暮らしていました。
あるもので工夫して何かを作ったり、曲に合わせて踊ったり、自分で創り出す面白さを体感する日々で、還暦を過ぎた今もその頭のまま。
年齢に関係なく、自分が興味をもてばどんなことも学びにつながると思います。ただし、いろんなことに興味をもつには、やっぱり余白が必要だと思いますね。

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視聴者からの質問

Q.今の指導方法にたどり着くまでの失敗体験は?

山﨑:失敗体験というのはあまりないですが、指導を通した気づきはたくさんあります。例えば、技術面で自分が体得しているやり方やコツをいくら伝えてもまったくできない人がいて。自分がやりやすい方法がその人にとってもやりやすい方法じゃないんだ、正解は一つじゃないんだなと実感しました。自分が知っているものだけが絶対的に正しいとは思わないようにしています。

Q.アイデアはどこから湧いてくるのか? 興味の幅をどう広げているのか?

山﨑:私はテレビからヒントをもらうことが多いですね。マジシャンの志村先生も、情報番組に出ているのを見て、面白そうと思って声をかけたんです。普段の生活でも、いろんなところにヒントは転がっていると思います。
例えば、ボールキャッチの動きの練習になるものが何かないかな、けん玉ではちょっと違うし...と考えていたときに、テニスのボールが入っている缶がふと目に入って、あ、これだと。缶を使った動きを練習に取り入れてみたら、バッチリだったことがあります。

鈴木:最後に、長く強化本部長を務めてこられて、一番うれしかったことはなんでしょうか?

山﨑:やっぱり、フェアリージャパンに入りたい、新体操ってかっこいいと、子どもたちが憧れる存在になってきたことですね。ここまで努力してきたのは選手たちですが、指導者としても本当にうれしいことです。

鈴木:今日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。


山﨑 浩子(Yamasaki Hiroko)

鹿児島県純心女子高校時代に新体操を始め、インターハイの団体で団体優勝。新体操の名門、東京女子体育大学に進学し、全日本選手権5連勝を果たす。1984年ロサンゼルスオリンピックでは8位に入賞。同年、現役を引退する。2004年に新体操強化本部長に就任し、年間約350日の共同生活による合宿で強化。2009年からは強豪ロシアで長期間の合宿を行うなどさまざまな強化施策を実施し、2017年以降は世界選手権で5年連続メダルを獲得。2019年の世界選手権では団体総合で銀メダル、ボールで史上初の金メダルを獲得するなど、フェアリージャパンを世界トップクラスに導いた。2021年に強化本部長を退任。現在は後進の育成、新体操の普及に携わる。

鈴木 賢一(Suzuki Kenichi)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部 スペースソリューション事業部ワークスタイルイノベーション部部長
コクヨ働き方改革コンサルティング部門の責任者。各種プロジェクトマネージャーを経て、現職15年。年間50社を超える変革相談を通じて得られた企業の課題から、働きやすさや働く場の生産性について変革支援を行う。

文/笹原風花 撮影/石河正武