組織の力

2022.11.28

コロナ禍を好機に変えた山田コンサルティンググループのマネジメント改革〈前編〉

在宅勤務が増えたからこそ会社に求心力が必要

コロナ禍をきっかけに、多くの企業が在宅勤務を採り入れた。「効率的な働き方ができるようになった」という意見がある一方で、「自社に対する社員のエンゲージメントが低下した」という声も少なくない。この課題と正面から向き合い、マネジメント改革に着手したのが、事業再生やM&A、組織・人事など幅広い分野のコンサルティングを担う山田コンサルティンググループ株式会社だ。前編では、取り組み始めた理由や改革の手法について代表取締役社長の増田慶作氏にお話を伺った。

中堅中小企業経営者の悩みに寄り添うには
異なる専門分野の連携が不可欠

山田コンサルティンググループが改革をスタートさせた直接のきっかけは、2020年からのコロナ禍だった。しかし増田社長は、コロナ以前から社員の働き方に危機感を抱いていたという。

「異なる部課のメンバー同士がコミュニケーションをとる機会が少なく、チーム内だけで仕事を回していました。社員たち自身は課題感を持っていなかったかもしれませんが、私は大きな懸念を感じていました」

仕事に支障がないにも関わらず、なぜ危機意識があったのだろうか。
「弊社の特徴は、中小企業のお客様とお付き合いが多いことです。中小のトップは、自社の経営に関して多様な悩みを抱えていらっしゃることが多く、気がかりなことがあっても従業員と共有しづらいため孤独感をお持ちの方が少なくありません。私たちコンサルタントは、経営者様の悩みに寄り添いながら、的確な解決策をタイミングよく提示していくことが求められます。その際に、例えば事業再生を専門とするチームのメンバーだけで対応していては、相続に関するお客様の課題解決をお手伝いするのが難しいでしょう。幅広い領域をカバーし、中小企業様のニーズを満たすには、異なる専門分野のメンバー同士が連携をとることが不可欠なのです」

そのため同社では創業当時から、異なる専門分野のメンバー同士で横の連携を取ることが奨励されてきた。とはいえ、必要に迫られなければ人はなかなか行動しない。増田社長はその状況に「社員が蛸壺に入ってしまっている」と歯がゆさを感じ、社員間の横連携を増やしたいと考えていたのだ。




コロナ禍をきっかけに
マネジメント手法を変える必要に迫られた

増田社長が行動に踏み切ったのは、2020年4月の緊急事態宣言に伴って社員の在宅勤務が増えたためだ。それまで在宅勤務者がほとんどいなかった同社で、約5割の社員が在宅で働くことになった。顧客とのミーティングもWEB会議システムでおこなわれるようになり、移動時間なども大幅に短縮された。宣言解除後、在宅と出社いずれのスタイルで仕事をするかは個々人に任されたが、在宅勤務を選ぶ社員も約5割みられた。

「確かに、お客様の会社へ出向くための移動時間などが大幅にカットされて、効率的に働けるようになった面はあります。ただ、このままでは社員の間に遠心力が働き、会社からどんどん離れて行ってしまうという焦りもありました。在宅勤務の社員が増えたなら、働き方の変化に応じてマネジメントの手法を変えなければなりません」

さらに、コロナ禍以降に入社した社員をどのようにマネジメントするかも課題だった。
「コロナ前からの社員なら、メンバー同士のつながりもあり、会社に対してある程度エンゲージメントを感じてくれています。ミーティングなども、WEB会議システムを使ってなんとか回していけるでしょう。しかし、2020年の春以降に入社した社員の中には、社内でコミュニケーションをもつ時間が不足したまま在宅勤務をしているメンバー社員も少なくありません。こちらから働きかけなければ離職してしまう危険があり、早急な取り組みが必要でした」




会話を生む仕掛けは
フリーアドレスとコミュニケーションスペース

社員同士がコミュニケーションをもつための仕掛けとして、増田社長が実施したのがオフィスのリニューアルだった。フリーアドレスを導入して固定席の7割をなくし、空いた場所にコーヒーを楽しみながら会話ができるコミュニケーションスペースをつくったのだ。

「コロナ禍が始まって出社する社員が激減し、当初はオフィス縮小を考えました。サテライトオフィス開設も検討しましたが、やはり東京駅に隣接する現在の立地の方がメリットは大きいと考えたのです。そこで、オフィスは縮小せず、有機的な使い方ができるようにリニューアルすることにして、コロナ前からの懸念だった社員間のコミュニケーション不足を解消できるような場所をつくってはどうかと考えたのです」

コミュニケーションスペース設置によって、社員同士がちょっとしたミーティングをする機会は格段に増えた。今後はさらに、異なるチーム同士のコミュニケーション増加が期待される。

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社長が社員1人ひとりとつながり
スピーディーに提案を採り入れる「増田会」

「こちらから社員に近づいていかなければ」という増田社長の強い思いから2020年から始まったのが、社長が社員3~4名ずつと約1時間のミーティングをおこなう「増田会」だ。1日に4クール開催し、1年強かけて全社員とのミーティングをめざす。一般社員が社長と直接対面できる貴重な機会だ。増田社長はこの会で社員から自由に働き方の提案をしてもらい、よいものがあればすぐに施策として採り入れているという。

「社員からの提案によって実現した中で特に好評だったのは、男性社員の育休制度です。子どもを育てている女性社員から『出産後の2週間は女性は身体の負担が大きいので、その間だけでもパートナーのサポートが必要』という説明を受け、説得力のある提案だったのですぐ採用しました。運用にあたっては『育休を取得しない場合はその理由を申請する』というルールを決めたため、パートナーの出産を控えた男性は躊躇なく育休を活用しているようです。それ以外では、ITスキル向上のための施策などをすぐに採り入れました」

働き方に関する社員からの要望は、「この会社で今後も頑張るために、ワークライフバランスの充実やスキルアップを支援してほしい」という前向きなメッセージである。社員の思いをダイレクトに社長に伝える仕組みとして、そして社員同士が顔見知りになるきっかけとして、増田会はうまく機能しているようだ。




ライフスタイルや希望に応じた職種選択で
社員個人のやりがいも組織の生産性も向上

増田社長が改革の一環として今後力を入れたいのが、社員の中に「専門コンサルタント」を増やすことだという。

「弊社のコンサルタントは、お客様にご提案をおこなう総合コンサルタントと、資料作成やデータ分析を手がける専門コンサルタントの2種に大きく分けられます。専門コンサルタントは在宅勤務でも対応しやすいため、育児や介護などでフルタイムワークが難しい社員にも向いています。また、人前に出るよりデスクワークの方が得意な社員の中にも、専門コンサルタントを希望する社員が少なくありません。自分のライフスタイルや資質にフィットする職種を選んで働くことは、社員にとってやりがいにつながるはずです。そしてもちろん、1人ひとりが達成感をもちながら仕事をしてくれれば、組織全体の生産性向上も見込めます」

社員の働き方が一律ではなくなってきた今、これまでと同じマネジメントでは、企業は社員に対して求心力を発揮し続けることは難しくなった。山田コンサルティンググループの場合、トップが強い危機感を抱いて求心力を取り戻すために行動したことで、早くも成果の兆しが見え始めている。小さな違和感を見逃さず、どれだけスピーディーに施策を打つかで、企業の未来は大きく変わるはずだ。
後編では、中核となって同社のマネジメント改革を推進する2名のメンバーにお話を伺う。

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山田コンサルティンググループ株式会社

1989年創業。国内に13拠点、海外に10拠点をもつコンサルティング会社。「健全な価値観」「社会貢献」「個と組織の成長」を基本理念として掲げ、コンサルティング実績は年間2500件を超える。会計・税務・法律・事業・M&A・IT・海外・不動産・教育の専門スタッフを揃え、幅広い領域で顧客企業の経営をサポートする。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ