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2022.12.12

マーケティング5.0 進むデジタル時代のマーケティングの考え方

知っておきたいトレンドワード21:マーケティング5.0

時代の変化に適したマーケティング戦略を提唱してきたフィリップ・コトラーが、2021年、デジタル時代のマーケティングの考え方「マーケティング5.0」を提唱した。その概要を、著書『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』(朝日新聞出版)をもとに紹介する。

マーケティング5.0とは

マーケティングの考え方や手法は、時代の変化とともに変化しています。現代マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラー(※)は、その変遷をマーケティング1.0〜4.0まで定義してきましたが、今回、新しくマーケティング5.0という考え方を示しました。

コトラーは、マーケティング5.0を「人間を模倣した技術を使って、カスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めること」と定義しています。

人間を模倣した技術として例示されているのは、人工知能、自然言語処理、センサー、ロボティクス、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、IoT、ブロックチェーンなどの先進技術です。カスタマー・ジャーニーとは、消費者が製品やサービスを認知し、その情報を収集し、利用・購入を検討、購入、評価・拡散するプロセスのことです。
マーケターは、これらの先進技術を組み合わせることで、マーケティング活動を次のように強化できるとコトラーは説いています。

<先進技術によって強化できること>
●ビッグデータを使って、よりデータに基づいた決定を下せる
●マーケティング戦略・戦術の結果を予測できる
●文脈に合ったデジタル体験を物理的世界に持ち込める
●現場のマーケターの価値提供能力を拡張できる
●マーケティングの実行をスピードアップできる

データに基づき(データドリブン)、かつ、俊敏性を持ったチーム・組織を土台に(アジャイル)、予測マーケティングやコンテクスチュアル・マーケティング、拡張マーケティングを用いることが、マーケティング5.0の構成要素であることや、先進技術を活用して新たな顧客体験や優れた顧客体験を創り出すことがマーケティング5.0の目的であると説明しています。

なお、マーケティング5.0において、テクノロジーは人間の行動パターンを読み取ることはできますが、人間の態度や価値観など行動の背景にある動機は読み取れないため、人間のマーケターにはそれらを解釈することが求められ、人間とテクノロジーは適材適所で共生するということもコトラーは説いています。

※フィリップ・コトラー(Philip Kotler):1931年米国生まれの経営学者(マーケティング論)。現在はノースウェスタン大学大学院(ケロッグスクール)教授。現代マーケティングの第一人者として知られ、日本でも数多くの著書が翻訳されている。




マーケティング1.0〜4.0とは

コトラーは、マーケティング5.0以前のマーケティングを、マーケティング1.0〜4.0に定義してきました。それぞれの概要は次のとおりです。

マーケティング1.0:製品中心のマーケティング

1960年代にかけてのマーケティングは、「製品を売ること」を目的としていました。自社の製品・サービスをいかにして多くの潜在的購買者に売り込むことができるか。そのために、コストと価格を下げる工夫をしながら誰もが満足する機能を持つ製品を生産し、マス購買者に向けて製品の機能的価値を伝えていくマーケティングが主流でした。この製品中心のマーケティングを、コトラーは「マーケティング1.0」としています。


マーケティング2.0:顧客中心のマーケティング

1970年代から80年代にかけて、先進国においては、消費者が物的に豊かになり、また、企業も技術の発展により製品を安価につくることができるようになりました。類似の機能を持つ製品が類似の価格で製造・販売されるようになり、企業間競争が激化しました。

そこで企業は、自社の製品・サービスのターゲット市場について学び、その市場におけるポジショニングを明確に定め、ターゲットのニーズやウォンツに基づいて厳選した特性を持つ製品・サービスを開発するようになりました。この、製品中心のマーケティングから消費者の志向を重視した顧客中心のマーケティングに変化した時代のマーケティングをコトラーは「マーケティング2.0」としています。


マーケティング3.0:人間中心のマーケティング

1990年代から2000年代にかけて、消費者は、インターネットによって自由に情報を得られるようになり、また、2000年代後半には世界的な金融危機にさらされました。それらの影響もあり、消費者は企業に対して社会的責任を求めるようになり、社会や環境に良い影響を与える製品やサービスに価値を見出すようになりました。自らが選ぶ製品・サービスから機能的・感情的満足だけでなく、精神的な充足を得ることを期待するようになったのです。

それを受け、企業は製品やサービスを通じて、社会問題や環境問題への解決策を提示するなど、自社の倫理的責任や社会的責任のあり方をマーケティングに組み込むようになりました。この価値主導・人間中心のマーケティングをコトラーは「マーケティング3.0」としました。


マーケティング4.0

2010年代になると、スマートフォンを始めとしたデジタルデバイスとソーシャルメディアの普及により、マーケティングにデジタルメディアやデジタルチャネルが取り入れられるようになりました。他方で、情報通信技術を利用できる人とできない人との間に生じる情報格差(デジタル・ディバイド)をふまえて、オンラインのみならずオフラインのチャネルも用いるオムニ・チャネル・アプローチの必要性が言われました。

コトラーは、デジタルの時代のマーケティングを「マーケティング4.0」とし、消費者が製品・サービスを認知してから情報収集、検討、購入、評価・拡散するまでのすべてのプロセスにおいてオンラインとオフライン両方の接点を持つことと、評価・拡散まで考慮したマーケティングの必要性を説きました。




なぜ今マーケティング5.0なのか

コトラーが2021年というタイミングで「マーケティング5.0」を提唱した背景には、次の2点があると著書『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』(朝日新聞出版)の中で述べています。

●人工知能や自然言語処理、センサー、IoTなどの技術の進展
●新型コロナウイルス感染症の流行により物理的距離をとることが推奨される中で、
マーケットもマーケターも非接触でデジタルの新しい現実に適応せざるを得なくなった

『マーケティング4.0』を著した当時は、上述の技術はまだ主流になっておらず、マーケティングもデジタルへの移行・適応期にありました。それが、技術の進展によりこれらの技術が利用しやすい価格で提供されるようになったこと、また、パンデミックによる企業・消費者のデジタル化の加速によって、「企業がマーケティングの戦略、戦術、実行で先進技術の力をフル活用するときが来た」とコトラーは述べています。



作成/MANA-Biz編集部