組織の力
次の100年を創る。ダイキン工業の新本社オフィス構築〈前編〉
移転プロジェクトの成功は「自分事化」にかかっている
空調機器や化学製品のトップメーカーとして国内外の市場で成長を続けるダイキン工業株式会社。2024年10月に創業100周年を迎える同社は、100年の節目を前にした2022年に本社移転を実施した。同社では新オフィス構築にあたって何を目指し、どんなプロセスで取り組んだのか。移転プロジェクトの主軸を担った事務局メンバーの大石裕子さん(施設部 担当課長)と密本万吉さん(総務部 総務グループ)に、オフィス設計・コンサル支援を通じてプロジェクトに伴走したコクヨ株式会社の織田茂伸と古川貴美子がお話を伺った。
左から)織田茂伸、古川貴美子、大石裕子さん、密本万吉さん
新本社で目指す姿をチーム全員で じっくり練り上げ「自分事化」を促進
――本社移転プロジェクトで大切にしたことは?
織田:コクヨではこれまで多くの企業の本社移転プロジェクトをお手伝いしてきましたが、何を指針として進めるかは企業様によって違います。ダイキン工業様では、どんなことを重視したのでしょうか? 大石:プロジェクトの本格スタートは2019年です。プロジェクトチームを結成してからすぐ、「新本社でどんな働き方をしたいか」について、メンバー全員でディスカッションを始めました。 経営陣からは大きな方向性として「従業員の生産性向上につながるオフィス」を提示されていたのですが、工場などと違って生産性の指標がなく、「何を生産性向上ととらえるか」は難しいところです。そこで、「ダイキンの強みはなんだろう?」「今後ますます成長していくために変えるべきことは?」などと議論しながら、生産性向上につながるオフィス空間や働き方を模索し、「新本社で強調したい6つの方針」という指標をつくりました。 密本:方針の策定までに1年半かかりましたが、じっくり話し合って目指す姿を言語化していったことで、メンバー全員の目線合わせができました。 「6つの方針」を議論するのと同時に、食堂や会議室といったオフィスのエリアごとに什器や導線を検討する分科会をつくって活動を始めたのですが、それぞれの活動においても「6つの方針」が1つの指針になったと感じます。――プロジェクトメンバーはどのようにして集めたのか?
古川:プロジェクトは40人の大所帯でしたね。事務局の密本さんもプロジェクト開始時点は入社2年目だったということですが、ほかにも若手の方が多いようにみえました。どうやってメンバーを募集したのですか? 密本:各部門に1名ずつメンバーを選出してもらいました。その際にメンバーの性別・年齢は限定せず、「これからのダイキンを担う本社オフィスを、自分事として考えてくれる人を求む」というメッセージを提示しました。 結果としては、新卒2年目から60代の大ベテランまで、幅広い年代の方が集まってくれました。性別としては6:4で女性がやや多かったですね。初期は25名程度でしたが、途中で「ペーパーレス推進」や「社内広報」などの分科会を新設したため、メンバーを増やしました。最終的には、分科会は10以上に増えました。 密本万吉さん 織田:メンバー募集の時点から「自分事」というキーワードを登場させていたのですね。そのメンバーが一丸となって新オフィスの方向性を真剣にディスカッションするわけですから、目指す姿がしっかり固まったのもうなずけるところです。
――プロジェクトを進めるうえで意識したことは?
織田:プロジェクトを通じて、メンバーのみなさんはどんなことを意識なさっていたのですか? 大石:やはり自分事として検討することでしょうか。例えば、家具やカーペットなど1つひとつのアイテムを決めるにあたっても、各分科会のメンバーが全員で実際に現物を見て検討を行いました。 たとえば、受付エリアのインテリアを検討する分科会では、受付カウンターの天板に設置する大理石を選ぶために、関ヶ原の石材工場まで出向いたりしました。メーカーのショールームに足を運び、カーペットの実物確認をした分科会もあります。また応接コーナーの家具を決定する分科会のメンバーたちも、ソファの硬さやテーブルの高さなど、細部まで議論しながら検討を進めていました。 どの分科会も非常にこだわって検討を進めたので、移転の期日がどんどん迫ってくる中で議論が決着しない、という悩みもありましたが...。 大石裕子さん 古川: 1つひとつ丁寧に取り組んでいく中で、「これから自分たちが使っていくオフィスなんだな」と、みなさんオフィス移転をますます自分事としてとらえられるようになっていったのかもしれませんね。
移転前後の継続的な取り組みを 通じてよりよい働き方を追求する
――働き方の変革に向けてどんな取り組みを?
織田:家具もこだわって決定されたためか、移転から1年以上経った現在も、オフィスをとてもきれいに使っていらっしゃって驚きます。旧オフィスでは書類をたくさんデスクに積んでいる方もみられましたが、今はみなさんクリアデスクを徹底されていますね。 密本:せっかくこだわってつくったオフィスですし、書類削減やペーパーレス化などオフィスの使い方変革にも力を入れましたからね。 私は事務局として活動する一方で、ペーパーレス分科会にも所属していました。各部門に向けて書類削減をお願いしたり、書類をどのくらい減らせたかを見せてもらうために、分科会メンバー全員で執務エリアを巡回したりといった活動に取り組みました。多くの人に積極的に取り組んでもらい、「働き方を変えよう」というモチベーションが社内で高まったことが、今も、クリアデスクが実践できていることに繋がっているのかもしれません。 古川:巡回は計4回行いましたね。回数を重ねるごとにみなさんのデスク周りがスッキリしていって、「ここを片付けたから写真を撮って」と笑顔で声をかけてくださる方もいました。他社様だと、「書類がないと不便」とペーパーレス化に消極的な方もみられますが、ダイキン工業様ではほとんどいらっしゃらなかったですね。 左から)織田茂伸、古川貴美子 大石:確かに、いわゆる「抵抗勢力」は少なかったですね。最終的には書類7割削減を実現できて、現在もリバウンドはしていません。 書類削減に成功したことで、新オフィスに置くキャビネットを減らすことができ、費用を節約できたのも大きなメリットでした。 実はペーパーレス委員会が活動を行ったのは、ちょうどコロナ禍と同時期でした。テレワークをせざるを得ない状況になったことで、「書類が手元になくても仕事ができるようにしなければ」と従業員の意識が高まり、ペーパーレス化を推進できた一面もあると思います。
――よりよい働き方を実現していくために、移転後はどんな取り組みを?
織田:移転後も快適なオフィスを維持するために、どんな活動をされていますか? 移転プロジェクトは解散されたとうかがっていますが......。 密本:移転後、「本社オフィス委員会」という組織を立ち上げ、移転プロジェクトのメンバーも20人ほど加わって活動しています。メンバーが周囲にヒアリングを行って現状の課題をあぶり出し、「会議のあり方」「従業員同士の交流促進」など6つのテーマで分科会をつくったので、今後どんな活動をするか検討を進めているところです。 また、移転から1年を経て「イメージした通りの働き方が実現できているか」を検証する必要があるため、社内アンケートも予定しています。 古川:「新しいオフィスをつくって終わり」ではなく、移転後1年という絶好のタイミングで活動を開始なさった点がすばらしいですね。オフィス委員会の今後の活動にも期待が高まります。 後編では、本社移転プロジェクトを支えたダイキン工業様の企業風土についてご紹介していきます。
ダイキン工業株式会社
1924年創業。「空気で答えを出す会社」をコーポレートスローガンに、空調機器をはじめ環境技術を活かした製品・サービスを国内はもとよりグローバル市場でも展開する。