研修の戦略企画を考える

研修担当者に必要なスキル2:なぜ研修を行うのかを明確にしよう

求められる人材像を具体化する

前回お話ししたように、研修をやるときは「営業の話す力が弱いからプレゼン研修」のような対症療法になりがちです。しかし、社員を継続的にスキルアップさせていくのであれば、全体として統一感のある人材育成計画が必要になります。

では、どこから考えればよいのか。これは研修だけに限りませんが、何かを企画するときに必要なのは、WHY(目的:何のためにやるのか)、WHAT(内容:何をやるのか)、HOW(方法:どのようにやるのか)を考えること。今回は"WHY"、つまり研修の目的について考えてみます。

なぜ人材育成をするのか。研修担当者としてはぜひ答えられるようになっておきたいところです。よく「うちの会社の財産は人です」と言いますが、ではどんな人を育てたいですかと聞くと、なかなか具体的な言葉が返ってこない。しかし、研修の企画を考えるのであれば、「どんな人になってほしいのか」をきちんと考えることは非常に大切です。

研修の目的を明確にする近道は、「人材育成の方針」を定めることです。そのために次の2点、「求められる人材像」と「人材育成ビジョン」を考えてみましょう。「どのような人になってほしいのか」と「そのための人材育成のしくみ」を明確にするということです。

「求められる人材像」は会社によってさまざまかもしれません。しかし、突き詰めていくと、次の6つに集約されると思います。①自立している ②人と協調できる ③実行力がある ④顧客のことを見ている ⑤変化に対応できる ⑥独創性がある。ですので、「自社に求められる人材とは?」と迷ったときは、これらの言葉を組み合わせて考えてみるといいでしょう。
たとえば「周りをうまく巻き込みながら新しいことに挑戦し続ける人材」などです。「人材育成ビジョン」は、「協調性とチャレンジ精神を育む環境をつくる」といった表現になるでしょう。

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求められる人材像は
経営の方向性、現状の課題、人事評価から考える

しかし、「求められる人材像」は研修担当者の思いつきで決めるものではありません。以下の3点を調べて整理してみましょう。

①経営の方向性
人材育成は経営方針に沿った形で行う必要があるので、まずは経営の中心となる考え方を理解しましょう。大きくいうとミッション(経営理念:何のために企業が存在しているのか)、ビジョン(未来像:企業の将来のあるべき姿)、行動指針、の3つです。行動指針とは迷ったときにどういう行動を取るべきか、ということ。たとえば安全第一の鉄道会社なら「迷ったときは止まれ」となりますが、ベンチャー企業なら「迷ったら行け」となるかもしれません。

会社によって呼び方はさまざまかもしれませんが、こうした会社のコアになる考え方はたいてい自社のホームページに載っていますので、見てみましょう。

また、中長期経営計画も確認しましょう。これは長い目で見た経営の進め方を理解するためです。ない場合は今期の事業計画でもいいでしょう。

②現状の課題
ES(従業員満足度)やCS(顧客満足度)の調査を実施していればそれをまず見ましょう。実施していない場合は、社内で何らかの意識調査をしていないか調べ、社員へのヒアリングも行ってみましょう。社内外の人が何を考えているのか、どこが弱いのかなどがわかります。

③評価制度
社内の評価制度、特に昇格要件や能力評価に関する項目は一通り見ておきましょう。それらには会社の求める能力が書かれていますので、そことずれた研修を企画しても説得力に欠けてしまいます。

研修担当者は、ついがんばって「私が思う理想の人材像」を考えてしまいがちです。しかし大事なことは、これら3つに代表されるさまざまな変数を整理し、それらと関連づいた一貫したストーリーのある、現場にとっても納得感の高い「人材育成の方針」をつくることです。



下地 寛也(Shimoji Kanya)
コクヨ㈱入社後、行動と環境(創造性、コミュニケーション、場のあり方等)に関する研究・分析を担当。2003年より、クライアントの企業変革のコンサルティングや研修コンテンツ企画を担当する。著書『コクヨの3ステップ会議術』(中経出版)、『コクヨの1分間プレゼンテーション』(中経出版)、『コクヨの5ステップ ロジカルシンキング』(中経出版)、『コクヨの「3秒で選び、2秒で決める」思考術』(中経出版)、『コクヨのコミュニケーション仕事術』(総合法令出版)


2018.08.21
作成/コクヨ

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