組織の力
2016.05.25
18年間の赤字を半年で黒字化。チャレンジし続ける組織に〈前編〉
ハウステンボスに見た華やかな再建成功の裏にある地道な意識改革
2010年4月に株式会社エイチ・アイ・エスの創業者である澤田秀雄氏が社長に就任したテーマパーク「ハウステンボス」は、18年間赤字続きだったにもかかわらず、翌期には黒字に転換。2013年9月期単独決算発表の場では「再建終了」を宣言した。マスコミの報道などでは、まるでマジックを使ったかのように劇的な再建を果たしたと伝えられる澤田社長。社員のリストラは一切せず、既存の組織で再建を成し遂げた澤田秀雄社長に組織のマネジメント術について伺った。
ゆっくり変える
結果を見せる
「7〜8年間ずっと赤字で給料も増えない、ボーナスも出ないということで、負け癖の文化がありました。それをすぐに変えるというのは難しいんですよ」と澤田社長は就任当初、社員の間に蔓延していた重苦しい空気を説明する。それまでに7回も社長が変わっているハウステンボスにまた新しい社長が来て"いいこと"を並べても、どうせまたすぐ次の社長に変わってしまうのではないか。そういう文化は一朝一夕で変わるものではない。
「だから私は"ゆっくり"変えていったんです」と澤田社長は強調する。
当時の社員の平均年齢は40歳ぐらい。他の企業でも求められるような "優秀"な社員は多くが出ていってしまい、残っていたのは "ハウステンボスが好きな" 社員か "ハウステンボスでしか働けない" 社員だった。負け癖がついてしまった彼らを前向きにするために、澤田社長はまず社員を集めて話し合い、働く目標と意義を引き出した。
「黒字にしてボーナスを出しましょう」というわかりやすい目標。
「来園者に感動していただくためのお手伝い」という仕事の素晴らしさ。
これら、失いかけていた企業でいちばん大切なことの再認識が、改革の第一歩だったという。そして、さらに大切なのは、この次だ。おそらく半信半疑ながらも目標と意義をもって仕事に取り組んだ結果、少しだが黒字になって、ボーナスも出た。澤田社長にマジックがあったとすれば、ここのところだろう。ハウステンボスの再建を引き受けたときには地元行政や財界、金融機関の支援を取り付けており、実質的に借金ゼロでのスタートだったという。負の遺産から解放されれば、ハウステンボスは黒字にできる実力をもったリソースだった。だから社員のがんばりで利益が生まれ、ボーナスという最もわかりやすい形で結果を出せた。結果が見えて成功体験を実感できれば、組織改革はいい方向に回り出す。
澤田 秀雄(Sawada Hideo)
ハウステンボス株式会社代表取締役社長。株式会社エイチ・アイ・エス代表取締役会長。澤田ホールディングス株式会社代表取締役社長。旧西独・マインツ大学経済学部に留学後、1980年㈱インターナショナルツアーズ(現 ㈱エイチ・アイ・エス)を設立。その後ホテル業への進出と同時に1998年航空会社スカイマークエアラインズ(現 スカイマーク㈱)を就航し、国内航空料金低価格化のきっかけをつくった。1999年には協立証券㈱の株式を取得し金融業界にも進出。新しいことにチャレンジし続ける日本を代表する実業家。著書としてハウステンボスの再建を題材とした『運をつかむ技術』(小学館)、『H.I.S.澤田秀雄の「稼ぐ観光」経営学』(イースト新書)などがある。