ライフのコツ

2020.03.13

中国全土の教育水準の底上げを目指して

世界の学び/教養を重視する中国教育現代化政策

世界の教育情報第31回目は中国から。2019年2月、中国中央政府から『中国教育現代化2035』が公布されました。この施策で基軸となるのが国語(標準中国語)の強化です。これまでの中国の教育は受験対策に偏っていましたが、今後は全国的に国民の教養・素養を向上させたいという政府の狙いがあるようです。その背景には、国際的にみて国民全体の教育水準が低いという現実があります。今回は、変わりゆく中国の教育事情を上海での取り組みを例に紹介します。

教育水準の底上げで
国力強化を図る中国
国の面積が広大で人口が多く、多民族国家であるため地域性が多様な中国。こうした事情から教育水準にばらつきがあり、中国全土の教育標準化が課題になっています。文化大革命(※1)などの歴史的な背景もあり、日本でいう団塊世代には学歴は中卒という人も少なくなく、世代間の学歴差が大きいことも問題です。
世界各国と比較しても、労働人口に対する高等教育(大学教育)を受けた人の割合が世界トップのカナダ(51%)、日本(45%)、および韓国(40%)に対して中国はわずか15%。人口に対する高等教育機関の数が少ないため、入学のハードルが高く受験戦争が激しくなっています。
さらに、2017年の中国共産党第十九回全国代表大会(通称:十九大)のなかで、習総書記は「中華民族の偉大なる復興は、近代における最も偉大な夢である」という"チャイナドリーム"を掲げています。2年後に迫った2021年の共産党成立100周年、および2049年の中華人民共和国成立100周年に向け、さらなる「チャイナドリーム」実現をめざし、国民の教育水準を上げて国力強化を図ることが、国を挙げての目標となっているのです。
※1:1966年から10年間続いた中国共産党の混乱と内部抗争に至った社会運動。政府の統計によると、文化大革命により殺害された国民は170万人以上。
基礎学力向上の施策は
中国語の強化
国民の教育水準向上を実現するために政府が注力したのが標準中国語教育の強化です。上海を例にあげると、以前は上海市教育局が教科書を指定していましたが、2017年9月から国語の教科書については国の組織である中華人民共和国教育部が編制するものに統一されました。さらに2019年9月から道徳と歴史の教科書も、教育部の指定教材を使用することが決まっています。
小学校では、毎日かならず国語の時間があり(日によっては1日2限)、他の科目より重視されています。中国の教育といえば詰め込み型教育のイメージも強いですが、実際の教科書や宿題をみると、基本に忠実にコツコツと積み重ねて勉強することで基礎学力を養えるようになっています。とくに国語は読み書きが重視されており、音読や寸劇など、声を出したり体を動かして覚える宿題が毎日出ています。
教師の指導力強化で
義務教育レベルの向上を図る
上海では、2018年に『百所公办初中強校工程』というプロジェクトが導入され、公立中学100校が強化校に指定されました。これは、おもに教師の指導力の強化と授業の質向上に焦点を当て、地方教育局主導で、以下のようなプロジェクトが進められています。
  • ■1990年以降生まれを対象とした育成プログラムを受講した教師を優先的に強化校に派遣
  • ■重点高校(大学進学率が高い高校)の生徒や教師の交流の場として合同授業を開催(ロボット制作など)
  • ■大学講師を招いて特別授業を開講(例:教育大学の美術学院講師が版画、書道、切り絵などを指導)
  • ■保護者に学校の様子を知ってもらう活動(オープンスクールなど)
これらのプロジェクトは始まったばかりで一部の地域に限られていますが、中学校を中心に精力的に行われており、政府の教育改革への意欲が伺えます。
また、同時期に高校入試改革も始まり、これまで重視されていた国語・数学・英語の主要科目だけでなく、体育なども試験項目に組み込まれ、さらには普段の成績や素行などの内申も評価される仕組みにシフト。この改革は、従来の主要科目に重きを置きながらも、同時に素養や教養を培うことを狙いとしています。
公共の教育だけに頼れず
習い事が人気
また近年中国では、英語、ピアノ、民族楽器、民族舞踊、水泳、サッカーなどの習い事に通うこどもたちがさらに増え低年齢化ています。国を挙げた教育改革は進んでいるものの、生徒数に見合った広い校庭、プールやパソコンといった設備の整っている公立の学校がまだまだ少ないためです。学校教育だけに頼らずに、小さいうちから周囲に差をつけるべく我が子に幅広い教養・素養を身につけさせることに熱心な保護者が増えているのです。
このように、中国では国を挙げた「チャイナドリーム」実現に向け、教育水準の底上げと標準化を目的とした、国語の強化や教師の育成プログラム、高校入試改革などの取り組みが開始されています。一方で保護者の意識の高まりもあり、公的教育、学校外教育を含めて、教育機会がさまざまな形で広がりを見せています。

ハモンド綾子

グローバルママ研究所リサーチャー。日本でメディア会社勤務後、1999年渡英。ファッション/ホテル業界勤務を経て、2006年よりライター/リサーチャー/翻訳者として活動中。イギリス人の夫、バイリンガルの息子2人と4人暮らし。


グローバルママ研究所

世界33か国在住の170名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2017年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。