レポート
2020.06.29
企業・組織に求められるナレッジマネジメント
イノベーションに不可欠なものとして、近年、企業や組織で注目される“ナレッジマネジメント”。個々人やチーム、部署に溜まりがちな知見や情報をいかに組織全体で共有するか、さらに、それらをいかに活かしてイノベーションへとつなげていくか、多くの企業・組織で試行錯誤が続いている。テレワークが広がるなかリモート状態でいかにしてナレッジを共有・活用するか、Afterコロナのイノベーションを見据えていかにナレッジマネジメントを進めるか、COVID-19感染拡大により浮かび上がった2つのテーマについて、コクヨ株式会社でワークスタイルやオフィスづくりのコンサルティングに携わるメンバーが、2020年4月24日に「これからの時代の知の創造・情報共有」と題したセッションを行った。
スパンの短いこれからのイノベーションには、
組織を超えた"ナレッジ・コクリエーション"が求められる
吉澤:「続いて2つ目のテーマ『Afterコロナ イノベーション時代のナレッジマネジメント』の話に移りたいと思います。私自身は、新型コロナウィルスが収束したとしても、もう元の世界には戻らないと感じています。坂本さんはいかがでしょうか? 」
坂本:「Afterコロナではなく、感染リスクと隣り合わせの生活が続く"Withコロナ"になると考えています。吉澤さんがおっしゃるように、元には戻らない、もう戻れないでしょう」
「人間は一度贅沢をすれば元の生活には戻れませんが、それと同じ。私たちは今、新型コロナウィルス感染症拡大の禍中で贅沢をしていると思うんです。今までよりも時間的にも金銭的にも少ないコストで、オンラインセミナーなどでナレッジに触れたり、オンラインツールを使ってコミュニケーションをとったりできる。これって贅沢な経験ですよね、もう戻れない......、と多くの人が感じているはずです」
「そして、新型コロナウィルスにより働き方が強制的にアップデートされました。これに適応できるかできないかが、企業の生き残りに大きく影響するでしょう。"Beforeコロナ"に戻るのではなく"Withコロナ"に適応して、業務プロセスや製品・サービス、価値観にイノベーションを起こしていかないと、明日がない。企業は今、それくらい重要な局面にあるのではないかと思います」
吉澤:「時代や環境が変わるなかでいかにイノベーションを起こしていくか、齋藤さんはどのように感じていますか?」
齋藤:「これからは、20世紀のように、成長シナリオを前提に"イノベーション=新しいものをゼロからつくる、消費する"という時代ではありません。今回の新型コロナウィルス感染症拡大で、いつか来るだろうけど今じゃないと思っていた不穏な事態が容易に起こることを痛感しました」
「日本の場合は、大地震もいつかは起きます。そんな未来にみんなが心持ち豊かに生き続けるためのイノベーションが求められるのだと思います。FCAJ(Future Center Alliance Japan)では、未来社会を構想することを大切にしています。ビジネスにおいて"ナレコク(知の共創)"がないと社会をつくっていけない、という危機感をもっています」
坂本:「そうですね。かつてはイノベーションというと、意識高い系、キラキラな未来......、というイメージがありましたが、今や企業・組織の生存戦略であり生き残りの条件になっています」
「昔の企業がイノベーションを起こしていなかったわけではなく、プロセスのスパンが短くなっているのでしょう。そういう時間的制約が厳しい状況においてはナレッジマネジメントがより重要で、スパンが長かった時代とはマネジメントの方法も変わってくるだろうと思います」
「齋藤さんにお聞きしたいのが、オープンイノベーションについて。国内ではなかなか進みづらいと感じていますが、いかがでしょうか?」
齋藤:「FCAJでも調査をしています。毎年調査をしていますが、オープンイノベーション自体の認知度は高く、企業の7割以上がなんらかのイノベーションに取組んでいると回答しています。成功しているかどうかは別として、ソーシャルイノベーションなどに取り組んでいる企業も3〜4割に上ります」
「いわゆる意識高い系の人に限らず、働き方を変えたいとか、10年後の社会のためにできることはないかと考えている人は、企業内に一定数いるんです。そういう人たちが闇鍋をつついたり、"出島"的なものやラボをつくったり、そういう動きはたくさん出てきています」
「うまくいっているケースもある一方で、そういった出島が組織内で孤立してしまうケースも少なくありません。出島がいくら頑張っていろんなアイデアを出したりネットワークをつくっても、本社の組織とインタラクションしないとナレコクは起きず、出島にいた優秀な人が辞めてしまいます。出島が変容して、結果的に機能しなくなるケースがいくつもの企業で起きています」
坂本:「辞めてしまうというのは、ナレッジが流出してしまうということですから、企業にとっても損失ですよね。出島に足りないものがあるのでしょうか?」
齋藤:「最初は出島的な存在でも、それを組織に取り込み全体に広げ、組織自体を変容させていく必要があります。その力が弱いと、結局は死んでしまうんです」
坂本:「まさに、江戸時代の出島なんですよね。海外からいろいろ来るけど国内には入れたくないから、出島に集める......。イノベーションに対して出島をつくっている時点で避けているようにも感じます。出島と本社組織との関係性を見直す必要があるのでしょう」
環境を整備するだけでは不十分。
知の共創を促す仕組みづくりを
セッションの最後には、吉澤氏が冒頭で提示した"知の共創(ナレコク)サイクル"に具体的な仕組みやアクションを追記した資料を提示し、まとめに入った。
吉澤:「私が今日、もっとも印象に残ったのは"仕組みと意識"です。強制的に行動させるのではなく、自然と行動できるよう促す仕組みを"ナッジ"というのですが、ナレッジマネジメントのポイントはまさに"ナッジ"であり、みんなの行動を促す仕組みづくりが大事だと感じました」
坂本:「環境を整備しただけでは不十分で、後押ししてあげることが大事ですよね。私が今日のまとめに選んだのは"気づく"というワードです。まずは、仕事とはナレッジを生み出すことなんだということに気づくことが大事です。じっくり考える時間が取れる今こそ、これからの自分は、社会は......、ということについて考えてみたいと思いました」
齋藤:「私が選んだキーワードは"イノベーション思考&共創"です。行く先の不安で縮み思考になりがちな今こそ、これとこれを掛け合わせたらあんなことができるんじゃないか、というイノベーション思考をしながら、皆さんと共創していきたいと思いました」
坂本:「じっくり考える、掛け合わせ、共創、自分の枠だけじゃない思考......。そういうところで、ナレッジマネジメントは大事になってきますね。今日はありがとうございました」