組織の力
2020.08.06
タニタが取り組む信頼をベースにした関係性のあり方〈後編〉
ライフを大切にしながら自立的に働く
体組成計や活動量計などの製造・販売で知られる株式会社タニタでは、社員がタニタを退職したうえで、個人事業主としてタニタと業務委託契約を結んで働く取り組み「日本活性化プロジェクト」を導入している。
このプロジェクトは、「社員の個人事業主化」という企業と個人の信頼をベースにした新しい関係性のあり方として注目されており、アメリカシリコンバレーの成功企業が実践している「アライアンス」な雇用関係の、日本版好事例と言える。今回は、実際にタニタで働く個人事業主の生の声をもとに、この取り組みのメリットを探った。
スペシャリストとしてタニタと長くつきあうため
個人事業主として独立
大塚武司氏は、2019年1月から個人事業主(フリーランス)としてタニタで働いている。社員時代と同じ所属の営業戦略本部営業推進課で商品企画を手がける。
大塚氏が「日本活性化プロジェクト」に手を挙げて個人事業主となった理由は、大きく3つあるという。1つは専門性を活かして長く働き続けるためだ。
「『日本活性化プロジェクト』に応募したのは、まもなく50歳を迎える節目の時期で、自分にフィットする仕事内容や働き方をいろいろと考えていたタイミングでした。検討した結果、長く仕事を続けるには、社員ではなくフリーランスとして企画や商品デザインを受注していくのがベストだと考えたのです。自分はマネージャーよりも特定分野のスペシャリストとして働く方が性に合っているし、フリーランスなら定年がなく、タニタと長くつきあっていけますから」と笑みを浮かべる。
大塚氏が決断に至ったのは、「タニタの労働環境に満足しているからこそ、フリーランスという形でずっと関係を保ち続けたい」という会社への愛着と信頼感がベースにあったからにほかならない。
介護とアート制作を続けつつ
ワークライフバランスを大切に働ける
個人事業主になった残り2つの理由は、大塚氏の個人的な問題に関するもので、その1つが親の介護だったという。
「2013年から親の健康状態の問題で、会社から片道2時間の地域にある実家に同居して介護をしていますが、2018年から状況がより深刻化しました。社員として会社に残っていたら、有休を使い果たして辞めざるを得なかったでしょう。しかし個人事業主ならば毎日出社する必要はなく、請け負った仕事を自宅でやることもできます。介護と仕事の両立も、なんとかなると考えました」と当時を振り返る。
さらに、個人事業主という形態ならば、学生時代から続けてきた芸術の創作活動に本気で取り組む時間をつくれるという期待もあった。
「鍛金(金属工芸)をベースにした作品をつくっており、もっと本気で取り組みたいという思いはずっとありました。ただ、制作にはかなり体力を使うので、会社を定年退職した60代から本腰を入れるのは難しいとも感じていました」と話す。
大塚氏は一時、創作活動に打ちこむために退職しようかと考えたこともあったという。しかし、個人事業主としてタニタで働けば、創作活動も趣味ではなく本業として取り組むことが可能になる。生活と仕事のどちらも充実させたい大塚氏にとって、タニタで個人事業主になるという選択はまさにうってつけと言えそうだ。
より積極的な姿勢で
仕事の幅を拡げるように
社員から個人事業主へ形態を変えたことで、大塚氏の働き方は大きく変わった。まず業務の内容においては、これまで直接関われなかった複数の部署の仕事にも積極的に取り組めるようになったという。
「個人事業主になってからも、社員時代と同様に企画の仕事を受けることが多いのですが、企画職以外の仕事でも興味がある案件には積極的に手を挙げています。先日は商品デザインを手がけました。タニタにはもともとデザイナーとして入社した経緯があり、久しぶりにデザインの仕事に携われて楽しかったです。社員だと他部署の仕事に立候補するのはなかなか難しいですが、フリーランスの立場を活用すれば仕事の幅を拡げられると実感しました」
目下、担当する案件で海外出張が増えたため、これから英会話を習い始める予定だと大塚氏。個人事業主なので、レッスン料は必要経費として計上できる。「新しいスキルを身につけて自分の価値を高め、海外案件で頼られる存在になりたい」と意欲を燃やす。
株式会社タニタ
1944年設立。体組成計や活動量計、血圧計などの製造・販売をはじめ、ヘルシーレストラン「タニタ食堂」や女性向けフィットネス「タニタフィッツミー」の運営といった健康サービスを手掛ける健康総合企業。グループ会社のタニタヘルスリンクでは、企業や自治体向けの健康づくり支援サービス「タニタ健康プログラム」を提供している。2019年、『日本活性化プロジェクト(社員の個人事業主化)』の取り組みによって、株式会社リクルートキャリア主催の「第6回GOOD ACTIONアワード」特別賞を受賞。