ライフのコツ
世界で通用する教養としての和食の知識
日本人が知っておきたい和食の知識・効能とは?
ビジネスを円滑に進めるうえで重要な役割を果たす「ビジネス教養」。海外でのビジネスなら「和食」の話題も日本人の強みになる。外国人の興味や関心をグッと惹きつける、日本人が誇る「和食」を教養として語るコツを紹介する。
ビジネス教養で大事なのは 相手の文化との接点を探ること
営業先でちょっとした雑談から意気投合してとんとん拍子に契約がまとまった...、なんて話もよく聞きますが、ビジネスチャンスをつかむうえで重要なのがコミュニケーション。まずは相手との接点、つまり共通の話題をみつけることがいいコミュニケーションのポイントです。ただし外国の方とのコミュニケーションでは、政治や宗教は避けるのが無難。一方、万国共通で使えるのが「食」にまつわる話題です。 近年、欧米のビジネスエリートの間では、ウェルネスや体調管理がパフォーマンス維持のための最重要事項といっても過言ではありません。「食」に対する意識も高く、ヘルシーフードとしての和食に世界中から注目が集まっています。 2013年には「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。世界的にもすばらしさが認められている和食の話題でビジネスの場を盛り上げることができれば、相手の興味を引き出し、日本に対するリスペクトや信頼へとつながる可能性も高くなります。 ただ「どうして和食は健康にいいの?」と聞かれて、きちんと答えられる日本人は多くないでしょう。「野菜をたくさん使っているから...」などとあいまいな答えしか返せない人も少なくないでしょう。では和食について、何をどう語ることができればビジネス教養になるのでしょうか。
教養としての和食の知識① 伝統と具体的なエビデンスで興味を引きつける
まず知っておきたいのは、和食の基本ともいわれる「一汁三菜」です。主食に汁物、主菜一品と副菜二品を合わせた献立のことで、「ご飯と味噌汁におかずが三つ」と簡単に覚えている人も多いかもしれません。 もう少し具体的にいうと、主菜は少々の肉や魚、副菜は主に野菜類となっていて、「一汁三菜」を意識することで、炭水化物、たんぱく質、脂肪、ビタミンやミネラルなど、一日に必要な栄養をバランスよくとれるようになっています。これは古くから伝わる日本人の知恵で、普段の食事を通して親から子へと自然に受け継がれてきた伝統的な食習慣といえます。 伝統的な価値に加え、ビジネスの場で教養として話題にするなら、ただ「バランスがいい」というだけでなく、具体的な栄養素にも注目してみましょう。とくに欧米人は経験則よりもエビデンスを重視する傾向があるため、具体的なデータを出して語ると興味をひきやすくなります。 主食となるご飯には炭水化物のほか、ビタミンやミネラル、食物繊維、さらには体をつくるたんぱく質の元となるアミノ酸も含まれています。ただ、体内で合成することのできない9種類の必須アミノ酸のうち、お米にはリジンが少量しか含まれていません。 このリジンをたくさん含んでいるのが大豆です。ですから、汁物として味噌汁をとるだけで、栄養バランスがぐっとよくなります。一方で、大豆には少ないメチオニンがお米には多く含まれており、お米と味噌を一緒にとることで必須アミノ酸を過不足なく摂取できます。 日本人にとって食の基本ともいえる「ご飯と味噌汁」の組み合わせは、おいしいだけでなく、栄養的にも非常に優れているのです。 さらに、主菜として肉や魚を食べることで、たんぱく質を豊富にとることができます。ベジタリアンの方だったら、メイン料理に大豆を使ってもいいでしょう。そして、副菜には野菜や海藻、きのこなどを使うことで、ビタミン、ミネラル、食物繊維などが補えます。 このように「一汁三菜」を整えることで、1日に必要な栄養素を過不足なく満たすことができる。これが和食の大きな強みです。
教養としての和食の知識② 満腹感ではなく満足感で「お腹いっぱい」
「一汁三菜」のもう一つのポイントはポーションサイズ。つまり一皿分の盛りつけ量です。海外のレストランで、一皿に盛られた料理の量に驚いたことのある人も多いのではないでしょうか。和食の場合、一皿の量は少なめでも品数が多いほうがよいという風潮がありますよね。一汁三菜を意識すれば、自然と品数が増えます。 「そんなに少ない量でお腹がいっぱいになるの?」と外国の方に聞かれたら、「満腹感」(fullness)と「満足感」(satiety)の違いをネタにしてみましょう。胃が食べ物で満たされると胃壁が膨らみ、それが脳に伝わって「満腹感」が得られます。また、糖質摂取による血糖値の上昇によっても、脳の満腹中枢が刺激されます。 一方、「おいしい」と感じたり、楽しく食事をすることで心が満たされるのが「満足感」です。品数が多ければ、さまざまな味を楽しむことができ、満足感も高くなります。また、いろいろな皿に箸をのばすことで、時間をかけてゆっくりと味わうことができます。 ご飯、汁物、肉や魚の料理、野菜の料理というように、栄養バランスがとれていることも満足感を高めてくれます。物理的なカロリー摂取量は少なくても、「お腹がいっぱいになった」という感覚が得られるのです。 また、春にはフキノトウや菜の花を使った料理で春らしさを感じさせるというように、旬の食材で季節感を演出するのも和食の特徴です。日本の豊かな四季を食卓上で表現することで、目でも料理を楽しむことができ、大きな満足感が得られます。同時に、旬の食材は栄養価も高いので、健康的にも理にかなっています。これは日本人が昔から自然と共生してきたことによって培われてきた知恵といえるでしょう。
藤島 義之(Fujishima Yoshiyuki)
上智大学卒業後、英国オックスフォード大学にて博士号取得。1995年に味の素(株)に入社し、研究・企画・開発業務に携わる。アメリカでの駐在勤務を得て、2015年から(財)バイオインダストリー協会、2018年から新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術戦略研究センターに出向。OECD、IEA、国連SDGs関連の情報収集等を担当し、バイオエコノミーに関するサミットやOECD会合にも参加。現在、バイオテクノロジーの産業利用と国際連携を専門としたコンサル業もおこなっている。
グローバルママ研究所
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。https://gl-stage.com/service/mama/