組織の力
テレワークのメリットと導入後の課題と成功のポイント
持続可能なテレワークのために工夫・整備すべきこと
新しい働き方として定着しつつあるテレワーク。そのメリットとデメリットとは何か。企業とワーカーでも違いが見られるテレワークのメリットとデメリット、成功のポイントを解説。快適な在宅ワークのための机やイスなど、環境設定のコツも紹介する。
テレワークとは
厚生労働省はテレワークを「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方のこと」と定義しており、その就業場所として「在宅ワーク」「サテライトワーク」「モバイルワーク」の3つあげていますが、それ以外にも「コワーキング」や「ワーケーション」などもあります。それぞれの特徴は以下の通りです。
在宅ワーク
自宅を就業場所とする勤務形態のことです。通勤時間の削減や移動による身体的負担の軽減を図ることができたり、時間の有効活用ができるため、ワーク・ライフ・バランスを取りやすい働き方といえます。
サテライトワーク
本拠地であるオフィス以外の拠点や遠隔地用の施設を就業場所とする働き方です。 支店・支社が業務全般を扱えるように本格的な設備が整っているのに対し、サテライトオフィスの設備は必要最低限で、小規模であるという違いがあります。 オフィス機能をさまざまな場所に分散することで、社員の通勤コストや移動時間の削減や災害時のBCP対策につながります。また、遊休施設や空き家などの活用による地域創生やオフィスコスト削減などにも期待が寄せられています。設置する場所によって「都市型」「郊外型」「地方型」の3種類に分けられます。
モバイルワーク
カフェや顧客先、移動中の空港や駅などを就業場所とする働き方です。 営業などで頻繁に外出する業務の場合、さまざまな場所で効率的に業務を行うことができれば、わざわざオフィスに戻る必要がなくなり、生産性向上が期待できます。移動時間を有効活用できる、顧客対応を迅速に行えるなどのメリットもあります。
コワーキング
共有オフィス等オープンなスペースで、利用料金を払って施設内のデスクや椅子、Wi-Fiなどの設備を利用し、仕事場として活用することを言います。 フリーアドレス形式のオープンなワークスペースとして複数の企業や個人が利用し、時に利用者同士でコミュニケーションを取ることも。コワーキングスペースによっては個室や打ち合わせスペースを借りることができる場合もあります。 自宅に集中して仕事ができる環境がなく、カフェよりも仕事をする環境として設備が整っている場所で、適度な緊張感をもって作業したい場合に有効なスペースといえます。 コワーキングスペースは、企業が従業員のために設置するサテライトオフィスに対して、共用型サテライトオフィスとも言え、最近では無料で使えるスペースも出てきています。
ワーケーション
ワーケーションとは、非日常の土地で仕事を行うことで、生産性や心の健康を高め、より良いワークスタイルを実施することができる1つの手段です。 観光を楽しみつつ仕事も行う「休暇活用型」のほかに、生活や働く拠点を移動させて働く「拠点移動型」、普段と異なる場所で集中討議する「会議型」や「研修型」などさまざまなスタイルがあります。
テレワークのメリット
テレワークを導入することには、企業側にも従業員側にもメリットがあります。それぞれどのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきます。
企業側のメリット
テレワークを導入することによる企業側のメリットとしては、主に以下の5点が挙げられます。
務の効率化
テレワークの導入により、業務の効率化が期待できます。従業員にとっては移動時間の削減や、予定外の打ち合わせが入ったり、周囲の雑音にじゃまされたりすることがないため、集中して作業できる時間が増えるという効果が見込まれます。 また資料の電子化やオンラインでの決裁ツールの導入などにより、保管コストの削減や作業効率アップも期待できます。
コスト削減
テレワークの導入にあたって初期投資は必要になりますが、通勤費や出張費の削減、フリーアドレス(グループアドレスを含む)の導入によるオフィススペースの縮小、冷暖房や照明の使用範囲や時間が限定されることによる光熱費の縮小などが期待できます。営業拠点の統合・廃止や自社ビルからシェアオフィスへの変更などにより、長期的に大きなコスト削減を図ることができる場合もあります。
優秀な人材の確保と定着
オフィスワーカーに柔軟な働き方ができる機会を提供することは、人材の確保、流出を防ぐことにつながります。場所にとらわれない働き方を可能にすることで、育児や介護、配偶者の転勤等さまざまな事情を抱えていても、キャリアを継続できる見通しを持て、モチベーションの維持にもつながります。 また、地方や海外在住の優秀な人材を採用することのハードルも下がり、優秀な人材獲得の機会が広がります。
事業継続性の確保
自然災害や感染症の流行が発生した場合でも、テレワークの活用によって事業の継続・早期再開ができれば、事業利益の損害を最小限に食い止めることができます。 また、無理に通勤させる必要がなくなれば、災害や感染症から従業員の生命を守ることにもつながります。BCP(事業継続性)の一環としてテレワーク環境の整備は、リスクマネジメントとして重要な方策といえます。
企業イメージの向上
テレワークの導入は企業が人材を大切にし、ワーク・ライフ・バランスの実現を重視しているという評価につながり、企業のブランドイメージ向上が期待できます。テレワークの導入を通じて従業員を守り、働きやすさを実現しようという企業の姿勢は、従業員エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
従業員側のメリット
一方従業員側がテレワークを行うことで享受できるメリットには、主に以下の3点が考えられます。
ワーク・ライフ・バランスの実現
通勤時間がなくなることと、場所や時間の制約が緩和されることで、家族と過ごす時間や家事、自己啓発の時間を確保しやすくなります。 また業務の効率化と通勤による身体的負担が軽減されることで、慢性的な疲労蓄積を軽減・解消することができます。プライベートな時間を楽しむ活力が確保できるようになり、オンとオフのメリハリをつけられることも期待できます。
育児や介護と仕事の両立
在宅勤務を取り入れることによって、育児期間中の就業がしやすくなります。通勤時間を送迎にあてることができたり、就業時間を柔軟に調整することができれば、「出産」「待機児童問題」「小1の壁」といった育児との両立に立ちはだかる課題を理由に離職せずに済んだり、時短勤務からフルタイム勤務への切り替えも無理なくできるようになります。 また介護を要する家族がいるため、出勤が難しい時間帯がある、出張できないといった理由で就労の継続やキャリア形成をあきらめていた場合も、ウェブ会議での参加を取り入れることで前向きに考えられるケースも想定できます。
通勤のストレス軽減
全国平均で約80分、首都圏エリアでは約100分かかるといわれる通勤時間を削減できれば、肉体的にも精神的にも負担を軽減することができます。通勤ストレスが低いほど仕事満足度は高まるといわれており、時間を有効活用することができていると感じられれば、エンゲージメントにもプラスの影響が出ると見られています。
テレワークのデメリット
一方でテレワーク導入によるデメリットも、企業側・従業員側それぞれに生じることがわかってきています。それぞれどのようなデメリットがあるのか、詳しく見ていきます。
企業側のデメリット
大きく働き方や環境を変えることで、マネジメントの煩雑さや情報漏洩のリスク、新たなルールづくりが必要になる等の難しさも見えてきています。特に新型コロナウイルス感染拡大の影響で急遽テレワークの導入に踏み切った場合、十分な事前準備が出来ないまま実施したため、想定していなかったデメリットが見えてきたケースも。 代表的なものとして以下の5点が挙げられます。
勤怠管理が複雑化する
従業員がオフィス外で働くことになるので、管理者の目が行き届かなくなり、どのくらいの時間働いたのかを管理することは難しくなります。労働実態が把握しにくいと当然勤怠管理は煩雑になり、またテレワーク中に発生したトラブルに対する労働保険の適用の判断などが難しい場合もあります。
セキュリティのリスクが高まる
テレワーク最大のデメリットは情報漏洩のリスクが高まることともいえます。スマホやノートパソコン等の端末を外部に持ち出して作業するため、紛失や盗難のリスクがあります。 またパブリックスペースで業務を行う場合はのぞき見やネットワークへの侵入、顧客との商談のやり取りを聞かれてしまうケースも考えられます。
人事評価や人材育成が困難
テレワークでは気軽に質問したり、フィードバックを受けたりすることが難しいのが実情です。上司から見ると目に見えない場所で仕事をしているメンバーの働きぶりを把握しづらくなり、人事評価や育成に困るという課題も見られています。
従業員エンゲージメントが低下する
テレワークにより会社の方針がつかみにくくなったり、社内イベント等従業員の集まる機会や雑談などの日常的なコミュニケーションの減少が原因で、従業員のモチベーションが低下した結果、従業員エンゲージメントが低下してしまうことが重大な課題として認識されています。 在宅ワークでオフィスに出社することも他の従業員と顔を合わせることもない状況が続けば、自分はこの会社の一員であるという意識を持ち続けることが難しいかもしれません。
サボる従業員が出てくる
上司の目の届かないオフィスから離れた場所で働くことはメリットもある一方、つい動画を見たり昼寝をするなど、サボってしまう人が出てきてしまう側面もあります。 また労働時間とプライベートな時間の線引きが難しい環境であるため、すべてを自己責任で管理するのは難しいのが実情でしょう。 管理職は「部下がサボっているのではないか」と感じ、部下は「サボっていると思われていないか」と不安を抱くのは、お互いにとってストレスでしかありません。
従業員側のデメリット
一方従業員側にもテレワークが長く続くことで負担に感じたりストレスにつながることもわかってきています。そのためコロナ禍収束後のテレワーク継続を希望しない人も多いようです。従業員にとってのデメリットは企業側のデメリットと通じるところもありますが、主に以下の3点が挙げられます。
長時間労働になりやすい
テレワークでは始業時間も就業時間も自分で管理する必要があるため、注意しないとプライベートな時間を侵食してしまう場合があります。一人で集中しやすい環境がつくれている場合、これが終わるまで、キリがいいところまでとついつい終わらせるタイミングをつかめずに長時間労働してしまう場合があります。 在宅で仕事を行う場合、プライベートな空間であったり家族がいたりすると仕事モードとプライベートモードをわけるのが難しいこともあるようです。
コミュニケーションが不足する
テレワークに移行して以来、会話が減ったと感じている人が多いようです。近くにいる同僚にちょっと質問するなどの気軽なコミュニケーションが取りづらく、相談するためにわざわざ会議設定する必要があると煩雑に感じてしまい、結果生産性や組織力の低下につながりかねません。 業務効率化や従業員の自律心向上といったメリットがある一方、孤立・孤独を感じてしまいやすいといった側面があるといえそうです。
メンタル不調のリスクが高まる
テレワークによるコミュニケーションの減少や仕事とプライベートの切り分けの難しさなどにより、メンタル不調を感じる人が増えています。 また通勤時間の短縮が運動不足につながり、身体的な不調がメンタルに影響を及ぼす場合も。長時間労働や生活リズムの乱れは慢性的な疲れや肩こり、眠気などの要因にもなり、それがメンタル不調を引き起こす要因にもなります。 リラックスして気分転換できる場所や時間を意識的に確保していくことがテレワーク環境下では特に重要だといえそうです。
家が仕事環境として適していない
居住スペースである自宅が仕事をする環境として適していないケースもあります。住宅事情から、仕事スペースを個別に確保する余裕がなく、場所や時間を同居家族と調整しなければならない、長時間のデスクワークに向かない机や椅子で仕事をしている、ネット環境が脆弱、プリントアウトができないなど、課題はさまざまです。 COVID-19感染拡大で在宅ワークが長期化したのを機に、自宅環境を整えた人も多いと思いますが、個別で事情は異なります。無理しながら在宅ワークを続けると、生産性の低下、腰痛や肩こりといった体調への影響、心的ストレスの増加といった危険性もあります。
テレワーク成功のポイント
テレワークを成功させるために環境を整えることは大前提ですが、デメリットとして挙げられた点を解決するためには、環境に加えて「マネジメント」と「コミュニケーション」がポイントとなってきます。どのような関わりによって解決できそうか、詳しく説明していきます。
マネジメント
テレワークにおけるマネジメントでは、チーム内の対話量を増やすためにも、マネジメント側が「報告や相談を待つ」から「自分から部下へ情報を取りに行く」へと意識を変えることが求められます。上司から積極的に困っていることがないか声をかけ、「少しでも困ったことがあればすぐに相談する」「1日30分定例で部下の相談タイムを設ける」などのコミュニケーションのルールをつくることで、部下も気兼ねなく相談することができます。 とくに新入社員や若手のメンバーに対しては、コミュニケーションの頻度をあげ、部内外のメンバーとの関係構築を支援するなど、企業・組織へのエンゲージメント醸成にも気を配ることが重要です。 また、部下の仕事に対する評価についても、重視する点や基準を明確にし、あらかじめ伝えておくことが大切です。事前に説明しておくことで、納得度も上がり安心して仕事に取り組めるはずです。
コミュニケーション
日頃からこまめにコミュニケーションを取るのと同時に、離れた場所で働くメンバーが実際に顔を合わせるミーティングの場を定期的に設ける、ウェブ会議システムや社内SNS、チャットなど、業務内容や目的に合わせたツールの使い分けをすることも効果的です。 見えないところで仕事をしていても自分のことを気にかけてくれている、と感じられれば部下は安心でき、信頼関係を築くことができます。業務の進捗状況や抱えている課題等を伝えるタイミングやツールに迷うことなく、気軽にコンタクトが取れる関係性とルールづくりが大切です。
まとめ
COVID-19感染拡大の影響で急速にテレワークが進んで約1年半。今後、感染症の収束までの暫定的な働き方とするのか、働き方改革も見据えて恒常的に取り入れるのかは企業によって分かれるでしょう。 ただ、在宅ワークを中心としたテレワークに急ピッチで切り替えたことで、個人への負担が強いられているケースも多く見られます。環境を整えるための機材や机等を自費で購入したり、光熱費や通信費の負担が増えるなど、金銭的な負担はもちろん、不十分な環境での労働に心身への負担を感じているワーカーも多いようです。 一部の企業ではリモート手当ての支給が始まっているようですが、まだまだ十分とはいえない状況です。不十分な環境下で働き続けることは業務効率やモチベーションの低下、ひいてはエンゲージメントの低下にもつながりかねません。 今後もテレワークのメリットを生かした働き方を推奨するのであれば、リモートワーク環境の向上への本格的な対応が期待されます。
在宅ワークを快適にする環境
在宅ワークでは、心身に負担をかけることなく、通常の業務が支障なく行える環境を整えることが重要です。そのためには出来るだけオフィスに近い、作業しやすく快適な作業環境を準備することが欠かせません。そのための机をイス選びのポイントを紹介していきます。
在宅ワークの机選び
目や腰、肩に負担がかからないよう、無理のない姿勢で作業が行える広さや配置、高さが確保できるかどうかが重要です。機能によってデスクも多種多様。収納力やスペースに合ったデザイン、高さや角度を調整できるかなど、快適に働くためにも自分に合ったものを選びましょう。 ▶▶▶自分に合った機能とデザインの机を選ぶ
在宅ワークのイス選び
長時間パソコンに向かって作業していると疲れてしまうのは、イスに要因がある場合が多いもの。安定していて移動しやすい、座面の高さや傾きを調整できる、肘掛けがあるなど体に負担をかけない工夫があるイスを選びたいですね。 【関連記事】座る環境を整えてストレスの少ない在宅ワークを
快適なイスの選び方
コクヨが考える快適なイスの選び方は「体圧が適正に分散されていること」「背骨を自然なS字形状に近づけること」「適正とされるサイズに近づけること」という3つのポイントがあります。さらに「タブレットなどのデバイスをよく使う」「作業もリラックスも両方快適に」など目的に合わせた機能を選ぶことで、より快適に座ることができます。 ▶▶▶自分に合った機能とデザインのイスを選ぶ
ダイニングチェアーで快適に仕事をする
座面が少し後傾しやすくなっているダイニングチェアーでも体への負担を減らせる簡単な方法として、「クッションの活用」と「パソコンの位置」の工夫があります。 【関連記事】座る環境を整えてストレスの少ない在宅ワークを
PCの位置を調整して身体への負担軽減
良いコンディションで仕事をするにはパソコンに向かう姿勢や頭の位置も重要。また、30分に1回ストレッチをするなど適度に体を動かすことも負担軽減につながります。正しい姿勢や適度な運動が生産性向上につながります。 【参考記事】今すぐできる在宅ワークの生産性向上術 姿勢&運動で最高のコンディションをキープする