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合理的配慮とは?障害者雇用促進法の改正により事業者に課される法的義務
知っておきたいトレンドワード16:合理的配慮
障害者雇用促進法により、募集・採用・雇用時に事業者に提供義務が課されている「合理的配慮」。具体的にどのような調整が必要とされているのか?
合理的配慮とは
合理的配慮とは、障害のある人が社会の中で出合う障壁を取り除くために、個々の障害の特性や困りごとに合わせて行う調整や変更のことです。 雇用の分野においては、障害者雇用促進法によって、募集・採用時の障害のある人とない人との均等な機会の確保や、採用後の均等な待遇の確保、また、障害のある人の能力発揮に支障となっている事情の改善のために必要な措置をとることが合理的配慮として示されています。そして、合理的配慮の提供は国や自治体、事業者の義務とされています。 例えば、「車いすを利用する人に合わせて、机や作業台の高さを調整する」「知的障害を持つ人に合わせて、口頭だけでなくわかりやすい文書・絵図を用いて説明する」などが合理的配慮の例として挙げられます。
合理的配慮を定義した「障害者の権利に関する条約」
合理的配慮について国際的に定義されたのは、2006年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」においてです。英語で「Reasonable accommodation」と表現され、次のように定義されています(和訳)。 「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失したまたは過度の負担を課さないものをいう。 この条約の採択を機に、日本では、障害者基本法の改正(2011年)、障害者差別解消法の制定(2013年、2021年改正)、障害者雇用促進法の改正(2013年、2019年)など障害のある人の人権を障害のない人と等しく保障するための法整備が進みました。
障害者雇用促進法における 合理的配慮とは
先述したとおり、障害者雇用促進法では、国や自治体、事業者に対して、障害のある人が職場で働くにあたり支障となっている事情を改善するために必要な措置をとること(合理的配慮の提供)を法的義務として義務づけています。 なお、必要な措置が事業主に対して過重な負担を及ぼす場合は、提供義務を負わないとされています。ただ、その場合も、被雇用者と話し合い、その意向を十分に尊重したうえで過重な負担にならない範囲で何らかの措置を講ずる必要があるとされています。
合理的配慮の提供の対象
障害者雇用促進法第2条1項は、合理的配慮の提供対象となる「障害者」を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」としています。 障害者手帳の有無や、週所定労働時間などによる限定はされていません。また、人生の途中で病気や事故などにより障害を持つこととなった中途障害の人も含まれます。
事業者に課せられた合理的配慮とは
厚生労働省は、障害者雇用促進法が事業者に課している合理的配慮を次のように説明しています。 ●募集及び採用時においては、障害者と障害者でない人との均等な機会を確保するための措置 ●採用後においては、障害者と障害者でない人の均等な待遇の確保または障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための措置
事業主に対する「過重な負担」の判断基準
障害者雇用促進法では、合理的配慮の提供義務について「ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない」としています(第36条の2、第36条の3)。 そして、ある措置が「過重な負担」にあたるかどうかは、次の6つの要素を総合的に勘案しながら個別の措置ごとに事業主が判断することとされています。 ①事業活動への影響の程度:措置を講ずることによる事業所における生産活動やサービス提供、その他の事業活動への影響の程度 ②実現困難度:事業所の立地状況や施設の所有形態等による、措置を講ずるための機器や人材の確保、設備の整備等の困難度 ③費用・負担の程度:措置を講ずることによる費用・負担の程度 ④企業の規模:企業の規模に応じた負担の程度 ⑤企業の財務状況:企業の財務状況に応じた負担の程度 ⑥公的支援の有無:措置に係る公的支援を利用できる場合、その利用を前提とした上で判断する
罰則
合理的配慮の提供を行わないことに対する罰則はありません。これは、障害のある人が継続して勤務できることが重要であることをふまえれば、事業主に罰金などを課すよりも、助言、指導及び勧告といった行政指導により継続的に雇用管理の改善を促すことが有効だという考えに基づきます。 この考えから、障害者雇用促進法では、厚生労働大臣が必要と認めた際には助言、指導又は勧告を行うことができるとも規定されています。
合理的配慮を提供する際のポイント
合理的配慮は、募集・採用時においては障害のある人から申し出を受けた場合に、本人と事業主との間でどのような措置が必要かを話し合うことが必要とされています。 また、採用後については、本人からの申し出の有無にかかわらず、事業主は、障害のある従業員の有無や障害のある従業員の障害の状況や職場で支障となっていることの有無などを確認し、必要な対処や調整をすることが求められています。また、必要に応じて定期的に職場において支障となっている事情の有無を確認することも求められています。 いずれの場合においても、どのような対処や調整を行うかは、本人と対話を重ね、意向を確認・尊重することが重要です。
障害者差別解消法でも 合理的配慮の提供は義務
障害者差別解消法は、国や自治体、事業者が、そのサービス等の提供にあたり、障害のある人に対して障害を理由に差別することを禁止し、合理的配慮の提供を求める法律です。 この法律でも、国や自治体、事業者は、障害のある人から社会的障壁の除去を必要としている旨を伝えられた際には、負担が重すぎない範囲で対応することを義務としています。なお、国・自治体に対しては法的義務、事業者に対しては努力義務とされていましたが、2021年の改正により、事業者に課された義務も法的義務となりました。ただし、改正障害者差別解消法はまだ施行されておらず、2024年6月3日までに施行予定です。 すなわち企業は、障害者雇用促進法により、従業員に対する合理的配慮の提供が義務づけられ、障害者差別解消法により、お客様に対する合理的配慮の提供が義務づけられることになるのです。
「障害の社会モデル」という考え方
「障害者の権利に関する条約」を筆頭に、障害のある人の権利を保障する各種法律においては、障害は、個人の心身の機能の障害と社会に存在する障壁とが相互に作用してつくりだされているものであるという考え方がされています。この考え方は、障害の「社会モデル」と呼ばれており、障害をその当事者個人の心身の機能による個人の問題としてとらえる「医学モデル」とは異なる考え方です。 社会に存在する障壁には、差別や偏見など人の心が生む障壁、段差や狭い通路などの物理的な障壁、制度上の制約によって生じる障壁、音声情報や文字情報など必要不可欠な情報が提供されないことで生じる障壁などがあります。これらの障壁を取り除くための調整や対応が合理的配慮です。