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2024.03.27

サプライチェーンの多様性が進めば社会全体が豊かに

知っておきたいトレンドワード31:サプライチェーン

大企業のサプライチェーンにマイノリティ性の高い企業を受け入れる取り組みである、サプライヤーダイバーシティ。ESG経営において重要な視点の一つである「ダイバーシティ」の実践として、その背景や取り組みによってもたらされるメリット、実際の企業の事例などについて紹介する。

サプライヤーダイバーシティとは

サプライヤーダイバーシティとは、「51%以上が多様なバックグラウンドを持つ人物によって所有、運営、管理されているサプライヤー」が平等な取引機会を持てるように、大企業が多様性のあるサプライヤーとの取引を積極的に行う取り組みです。多様なバックグラウンドには女性だけでなく、退役軍人、障害者、LGBTQ、少数民族なども含まれます。




サプライヤーダイバーシティが
叫ばれるようになった背景

サプライヤーダイバーシティはアメリカで40年ほど前から発展してきました。当初は、女性が所有する企業をサプライヤーとして採用することから始まりましたが、その後、障害者、LGBTQ、退役軍人や傷痍軍人、少数民族や人種など、さまざまな多様性のある企業に拡大。その背景には、多様性に対する社会的意識の高まりのほか、経済のグローバル化、外国人労働者の増加や女性・高齢者雇用の増加など労働市場の変化の影響等が考えられます。


サプライヤーダイバーシティ推進を支援する団体

こうしたサプライヤーダイバーシティの動きを支援する団体も誕生しています。その代表的なものが「ビリオンダラー・ラウンドテーブル」(BDR)です。アメリカで2001年設立され、2023年時点で39社が加盟しています。多様なサプライヤーと年間10億ドル以上の取引を行っている米国企業で構成される非営利団体であり、加盟企業にはアップルやIBM、Amazon、グーグル、バンクオブアメリカ、北米トヨタ自動車などが名を連ねています。
また、国際NGO「We connect International」は女性起業家を大企業などのサプライチェーンに組み込むことを目的に活動する団体で、国際認証「WBE(Women 's Business Enterprise)」の認証を発行しています。女性が少なくとも51%以上の株を所有し、1人または複数の女性によって経営が行われている中小企業に対して審査・認定を行っています。


【関連記事】大企業のサプライチェーンに女性所有の企業を!
国際NGOが推進する「サプライヤーダイバーシティ」とは



企業がサプライヤーダイバーシティに
取り組むメリット

企業がサプライヤーダイバーシティに取り組むメリットとして、以下のような観点が考えられます。


ブランド価値向上

多様性を尊重する企業は消費者から支持を受けやすく、選ばれる理由になります。近年、若年層では特に差別を問題視する傾向が高まるなど、消費者の意識が高まりつつあります。そのため、多様性のあるサプライヤーとの協力は、ESG経営の一環としても注目されるようになってきています。


イノベーションや品質向上につながる

社内だけでなくサプライチェーン全体に多様性を取り入れることで、より多様な価値観に触れることになり、イノベーションの推進や顧客理解、サービスや品質向上につながることも期待されます。多様な人種や宗教、文化的背景に配慮した商品開発やサービス提供をすることで、新たな顧客層から支持を得ることができるかもしれません。


雇用と経済活性化につながる

サプライヤーダイバーシティによって、マイノリティの雇用創出につながることも期待されます。全米マイノリティ・サプライヤー・ダイバーシティ協議会の報告によると、MBE認定企業(※1)は4,000億ドルの経済効果を生み出し、220万人の雇用の創出または維持につながるとともに、地方、州、連邦税務当局に年間490億ドルの歳入をもたらすといわれています。


※1:MBE認定企業とは、米国家マイノリティサプライヤー開発会議が認証する、51%以上の株式をアジア系・黒人系・ヒスパニック系・ネイティブ・アメリカン系の米国市民権を有する者が保有する企業。

より強固な調達基盤を構築できる

単一のサプライヤーに依存せず多様な企業と調達基盤を構築することで、サプライヤー側のリスク(倒産、生産停止など)を分散し、安定性を確保することができます。その結果、新たな国や地域での取引が始まり、市場拡大につながる場合も期待されます。




サプライヤーダイバーシティに
取り組むデメリット

一方、サプライヤーダイバーシティを取り入れることで、調達コストが増加する場合があります。たとえば、コンペ形式での調達先選定では、納期や単価など自社により有利な条件を提示したサプライヤーに発注しますが、そこに「多様性」という観点を入れると、最も安い価格で発注できない場合もあるためです。多様ではないが優秀なサプライヤーとのビジネスチャンスを逃すなど、選択肢が制限される場合も想定されます。その場合、ステークホルダーから物言いがつく可能性もあります。




具体的な企業による取り組み事例

実際にどのような企業がサプライヤーダイバーシティに取り組んでいるのか、事例を紹介します。


アクセンチュア

アクセンチュアは「ダイバーシティサプライヤー開発プログラム(DSDP)」という、アクセンチュアのエグゼクティブが、多様性のある新興のサプライヤー企業のメンターとなって企業の成長をサポートする独自の活動に取り組んでいます。
2019年にはすでに世界165社の企業がプログラムを修了。調達戦略であると同時にビジネス、雇用、経済の成長を促進し、コミュニティーを強化する活動と位置づけています。


アステラス製薬

イノベーションを起こし、患者さんに価値を届けることを活動の中核とし、「サプライヤーダイバーシティプログラム」を複数年計画として活動を推進。組織的にサプライヤーダイバーシティについての理解を深める「Educate(教育)」、支援団体と協働し、調達活動における多様なサプライヤーを特定し、拡大していく「Engage(関わり)」・年間の活動を振り返り、提携の機会を継続的に増やしていく「Evaluate(評価)」の包括的なフレームワークを設けています。


ロジクール

マイノリティが経営するサプライヤーとの取引を増加させるため、5つの主要なアクションを誓約。「マイノリティが経営する企業の中でサプライヤーが見つからない場合、既存のサプライヤーに対して社内に多様性を取り入れるよう求める」「支払い期間を短くし、契約上の義務を軽減することで、黒人、女性およびその他の過小評価されたサプライヤーがロジクールと簡単に作業できるようにする」など、具体的な行動規範を定めています。



作成/MANA-Biz編集部